矢野寿洋+青山えり子+福田樹 / 矢野青山建築設計事務所が設計した、愛媛・大洲市の「あいわ苑」です。
就労支援と生活介護を行う多機能型事業所です。建築家は、景観条例・自然災害・安全性等の与件に対し、問題への応答に加えて“街に適切に開かれた”建築を志向しました。そして、屋根形状と開口部の操作で“街との繋がり”を構築しました。
愛媛県大洲市の肱南地区に立地するB型就労支援施設+生活介護の多機能型事業所である。
あいわ苑を運営する社会福祉法人「肱友会」は施設利用者の保護者で構成されており、約30年前から大洲市で福祉作業所・B型就労支援サービスを実施してきた。利用者の高齢化を見据えた生活介護サービスの実施のためのスペース拡充や施設利用定員拡大等の要望に加え、既存施設の老朽化による耐震性への不安等、利用者が安心して通える施設の設計が求められた。
敷地周辺地域には景観条例が定められており、瓦屋根であることや素材・色彩への適合が求められた。また、大洲市は水害に悩まされる地域であり以前の大豪雨では2階レベルまで浸水したことも記憶に新しい。景観への配慮や自然災害への向き合い方、施設利用者の安全・プライバシーの確保等の複雑な条件に対し、街に対して適切にひらかれた福祉施設を考えた。
敷地周辺地域には景観条例が定められており、瓦屋根であることや素材・色彩への適合が求められた。また、大洲市は水害に悩まされる地域であり以前の大豪雨では2階レベルまで浸水したことも記憶に新しい。景観への配慮や自然災害への向き合い方、施設利用者の安全・プライバシーの確保等の複雑な条件に対し、街に対して適切にひらかれた福祉施設を考えた。
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以下、建築家によるテキストです。
愛媛県大洲市の肱南地区に立地するB型就労支援施設+生活介護の多機能型事業所である。
あいわ苑を運営する社会福祉法人「肱友会」は施設利用者の保護者で構成されており、約30年前から大洲市で福祉作業所・B型就労支援サービスを実施してきた。利用者の高齢化を見据えた生活介護サービスの実施のためのスペース拡充や施設利用定員拡大等の要望に加え、既存施設の老朽化による耐震性への不安等、利用者が安心して通える施設の設計が求められた。
敷地周辺地域には景観条例が定められており、瓦屋根であることや素材・色彩への適合が求められた。また、大洲市は水害に悩まされる地域であり以前の大豪雨では2階レベルまで浸水したことも記憶に新しい。景観への配慮や自然災害への向き合い方、施設利用者の安全・プライバシーの確保等の複雑な条件に対し、街に対して適切にひらかれた福祉施設を考えた。
北側と西側で接道するL字型の敷地形状に合わせて建物を配置し、各前面道路の交通量や観光客量を考慮した平面計画を行った。人通りの多い北側には軒を下げて団らんスペースを配置し、西側の落ち着いた生活道路側に利用者動線や作業スペースを計画した。
西側に大きな庇を設けることで、各作業において頻度の多い物資の搬出入やアプローチの雨よけ、周囲への圧迫感に配慮している。西側道路からスロープによって上がったL字の入隅部分にエントランスを設けることで、セキュリティ面への配慮や、利用動線の効率化を図った。各居室の開口部にはガラスフィルムやレースカーテン等で光は取り入れつつ視線は通さないように利用者のプライバシーに配慮している。
建物は在来切妻+CLT片流れ屋根で構成している。北側の通りに対して在来屋根は軒を伸ばして景観に即した瓦屋根を見せ、CLT屋根が通りに対して逆勾配をとることで街の景色に大きな木面が現れる。大洲の街並みを形成する瓦と木がシンボル性をもってファサードに現れるよう計画した。
CLT屋根には構造耐力上支障のない位置に孔をあけ、CLTの平滑な面に表情をもたせ構造材としての重量感を和らげることを意識した。孔には間接照明を仕込み、空間を柔らかく照らす。北面大開口ではCLT屋根上部での補強、柱ピッチの調整により梁を無くすことで、CLT天井面までガラスが納まるよう工夫し、街とのシームレスなつながりを意識した。
切妻屋根の一部を跳ね上げ、開口を設けることで採光を確保しつつ、街を一望できるくつろぎスペースとした。その他肱川沿いに佇む大洲城や、春にはつつじで鮮やかに彩られる冨士山(とみすやま)等に向けた開口を設け、街の景色を最大限取り込みつつ、自然光で十分明るい空間とすることで閉じた福祉施設のイメージを崩すことができないかと考えた。
各フロアレベルは浸水対策のためGL+1.1m、5mに設定している。1階に作業スペース等の福祉機能、2階に食堂やくつろぎスペース等の一時利用の機能を配置することで、洪水等の際には2階を福祉避難所※として街に開放する計画とした。
(※福祉避難所:災害時に福祉利用者の避難拠点として必要なスペースを別途確保し、市から指定を受ける避難所のこと。避難所として機能している間も本来の福祉サービスを行える必要がある。)
利用者は日中、作業・団らんスペースで仕事をし、お昼はみんなそろって大らかな空間の食堂で街の景色を楽しみながら食事をする。
くつろぎスペースの小上がり・のぞき窓はお気に入りの場所としてみんなが集まる。みんなが集まる場所には常に街との接点があり、その中で生活を送る。
街の中心に位置し、適切に開かれた明るい福祉施設は「福祉」と「街」の新たなつながりを生み出すきっかけになるのではないだろうか。
(福田樹)
■建築概要
題名:あいわ苑
所在地:愛媛県大洲市
主用途:B型就労支援+生活介護 定員20名(2階:災害時は福祉避難所となる)
建築主:社会福祉法人 肱友会
設計監理:矢野青山建築設計事務所 担当/矢野寿洋、青山えり子、福田樹
構造:平岩構造計画 担当/平岩良之、藤本貴之
施工:谷本建設工業株式会社
構造:木造 地上2階 一部鉄骨造
高さ:1階(GL+1,100) 2階(GL+5,000)
地域地区:第一種住居地域
敷地面積:495.54㎡
建築面積:296.58㎡
延床面積:475.26㎡
設計期間:2020年6月~2021年7月
工事期間:2022年8月~2023年3月
竣工:2023年3月
写真:西川公朗