西久保毅人 / ニコ設計室と名和研二 / なわけんジムが設計した、東京・中野区の「樹上と洞穴 ─ 商店街のツリーハウス」です。
賑やかな商店街の狭小地での計画です。建築家は、昼夜人々が行交う状況に“自然の森”との類似性を見出し、森での安心できる場所である“樹上”と“洞穴”のような建築を志向しました。また、柱を“肥大化”させて都市スケールとの同化も意図されました。
これは神社へ続く東京都中野区の商店街に計画した住宅である。
四六時中不特定多数の人が行き交い賑やかなこの商店街の状況は自然の森のようだ。森の中で安心できる場所といえば、樹上か洞穴(CAVE)だろう。
ぎゅうぎゅうに建て込んだ商店街にある敷地は小さく、間口が3.6m奥行きが11m、面積は約40㎡であった。小さな建築の設計においては階段、柱、壁厚などの構成要素を最小化するのがセオリーである。しかしここでは逆に街との境界に現れる外階段や御柱という要素をあえて肥大化させる事にした。
さらに1階では天井を肉付けしボールト状の天井としている。街に存在するようなワイルドなスケール感や質感、厚みを小さな敷地内に持ち込む事で、空間の小ささとの比率で存在感を増幅させ、それを街との距離感に転換させようと考えた。商店街に樹上と洞穴(CAVE)な環境を作り出す事で、街という環境と同化しようとしたのだ。
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以下、建築家によるテキストです。
樹上と洞穴 ─ 商店街のツリーハウス
これは神社へ続く東京都中野区の商店街に計画した住宅である。
四六時中不特定多数の人が行き交い賑やかなこの商店街の状況は自然の森のようだ。森の中で安心できる場所といえば、樹上か洞穴(CAVE)だろう。
ぎゅうぎゅうに建て込んだ商店街にある敷地は小さく、間口が3.6m奥行きが11m、面積は約40㎡であった。小さな建築の設計においては階段、柱、壁厚などの構成要素を最小化するのがセオリーである。しかしここでは逆に街との境界に現れる外階段や御柱という要素をあえて肥大化させる事にした。
さらに1階では天井を肉付けしボールト状の天井としている。街に存在するようなワイルドなスケール感や質感、厚みを小さな敷地内に持ち込む事で、空間の小ささとの比率で存在感を増幅させ、それを街との距離感に転換させようと考えた。商店街に樹上と洞穴(CAVE)な環境を作り出す事で、街という環境と同化しようとしたのだ。
先日この商店街で古本屋を営む店主がこんな事をおっしゃっていた。
「毎日毎日、店から商店街をぼーっと見てるとね、結局人間も動物と同じだなーと思うんですよ。雨が降ったり猛暑だと巣から出てこないし、気持ちがいい晴天の日は急に人出が増えたり、、。まるっきり動物の行動パターンと一緒なんですよね~」
絵画のコレクションやグランドピアノにお風呂に料理、、、とこの世界の神秘に興味のつきない建主は「道に落ちていたら持って帰って宝物にしたくなるような物や素材で家を作りたい。」との事であった。極小ながらも安心できる樹上と洞穴を手にいれた建主は、にぎやかな商店街の森を楽しみながら、宝物に囲まれた暮らしを営んでいる。
(西久保毅人 / ニコ設計室)
ケイブこみゅにケーションすとらくチャー
通常住宅が商店街から「個」を確保する必要がある事に対し、本計画では一度覆いのあるスペースを上層部では「木造部をせり出し」、下層部では商店街から開きながら後退させ上層木造部を支持する「御柱(おんばしら)」を置いた。
その操作により生まれた「CAVE部」の存在による既存の商店街との干渉帯をつくる事で、単なる開放のみでない商店街と商店街住宅の関係(ケイブこみゅにケーション)のきっかけを構造構成にも展開させている。
RC部と木造部の構成は商店街における道路幅員、車両規制、集中する電線などの障害を配慮し施工的にも経済的に建設できる構造構成を考慮した。
(名和研二 / なわけんジム)
■建築概要
題名:樹上と洞穴 ~商店街のツリーハウス~
所在地:東京都中野区
主用途:住宅
設計:一級建築士事務所ニコ設計室 担当/西久保毅人、榊法明、岩下沙紀、高谷竜太、吉本脩佑(元スタッフ)
施工:手塚工務店
構造設計:なわけんジム 名和研二、下田仁美
協力:平鍛冶 小原歩(特注スチールワーク)、深沢義一(特殊木工事)、ハタノワタル(和紙製作)、勝又木材(特殊木材)、高橋園(植栽)
構造:1、2階RC造、3階木造
階数:地上3階
敷地面積:39.7㎡(12坪)
建築面積:28.5㎡(8.6坪)
延床面積:77.1㎡(23.3坪)
設計:2021年7月~2022年9月
工事:2022年7月~2023年8月
竣工:2023年8月
写真:傍島利浩、西久保毅人