塩入勇生+矢﨑亮大 / ARCHIDIVISIONが設計した、長野・安曇野市の「RE FORM」です。
設計者の実家の改修です。建築家は、家の象徴である“座敷”の扱いから議論を始め、一人ひとりに異なる意見がある“陣取り合戦”の様な状況に向合い設計しました。そして、“各々が自らの陣を取り、また陣を渡してきた結果”としての空間が現れています。
これは設計者の実家の改修である。
長野県安曇野にある築45年の住宅であり、父、母、祖母と内縁の夫の4人が暮らす。改修のきっかけは「台所に朝日の光が欲しい」という母の言葉にあった。
台所の東側には座敷があり、壁を壊して一体にする必要があった。「もう座敷はいらないでしょう」と言う母にたくましさを感じた。
確かに昔に比べて来客や親戚の集まりが少なくなってきた。座敷はほとんど利用されず、床の間は多くの民芸品や家族写真で埋め尽くされて、まるで物置になっていた。
だがこの古い家にとって、座敷は機能以上に家の象徴のように存在しており、無くすことは容易ではない。まず祖母が反対したが、頭ごなしではなく何か腑に落ちないまま計画は進んでいく。
計画が進む中、水廻り機能と椅子座が多いことからすべての床材をビニルタイルにした。その色について家族各々が好みを言う中、祖母がテラコッタ色を選んだ。派手だが昔ながらの色で家族がそれに賛同した。これをきっかけに祖母はこの計画に積極的になった。今の座敷が無くなることに、色の選択が匹敵した。テラコッタ色を軸に、台所の天井を補色の深緑に、背景としたい部分はグレーに、強調したい部分は床柱に似せた黒い赤を配色する。
この計画で重要なのは、明るいLDKを求めているわけではないことである。壁が無くなっても、これまで通り台所は台所らしく座敷は座敷らしく存在させることを求めていた。座敷の竿天井はそのまま残し、台所の天井は既存の懐を露わにして民家特有の暗がりは残す。壁を無くし、構造補強のために設ける筋交いを見せて強さを持たせながら、円卓を組み込んで機能を与えて、その存在自体をダブらせる。透過しながら台所と座敷が両存する在り方を示している。改修後たまに来る親戚は、今でもこの「座敷」に集まって「台所」の調理姿を見ながら、円卓と座卓に分かれて、皆で飲み食いをしている。
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以下、建築家によるテキストです。
これは設計者の実家の改修である。
長野県安曇野にある築45年の住宅であり、父、母、祖母と内縁の夫の4人が暮らす。改修のきっかけは「台所に朝日の光が欲しい」という母の言葉にあった。
台所の東側には座敷があり、壁を壊して一体にする必要があった。「もう座敷はいらないでしょう」と言う母にたくましさを感じた。
確かに昔に比べて来客や親戚の集まりが少なくなってきた。座敷はほとんど利用されず、床の間は多くの民芸品や家族写真で埋め尽くされて、まるで物置になっていた。
だがこの古い家にとって、座敷は機能以上に家の象徴のように存在しており、無くすことは容易ではない。まず祖母が反対したが、頭ごなしではなく何か腑に落ちないまま計画は進んでいく。
祖母の色
計画が進む中、水廻り機能と椅子座が多いことからすべての床材をビニルタイルにした。その色について家族各々が好みを言う中、祖母がテラコッタ色を選んだ。派手だが昔ながらの色で家族がそれに賛同した。これをきっかけに祖母はこの計画に積極的になった。今の座敷が無くなることに、色の選択が匹敵した。テラコッタ色を軸に、台所の天井を補色の深緑に、背景としたい部分はグレーに、強調したい部分は床柱に似せた黒い赤を配色する。
父の水槽
父は熱帯魚を趣味とし、水槽置場と清掃用の洗い場を設けることが要望であった。形骸化していた床の間にそれらを据えて、機能を持たせたことでそこがゾーニングの中心となり得た。キッチンは水槽の洗い場から離隔したかったため、既存壁で仕切られていた現状の位置に作り直すこととした。冷蔵庫や電子レンジの置場を作って動線を引き、納戸の既存棚に板を足して使っていた食器棚を無くし、家具・家電側の設えを整えた。
母の透過
朝日が欲しいというのは、座敷のさらに東にある庭から台所まで、朝の空気を流したいということでもあった。光が内部を通り抜ける透過という現象そのものである。すると器官の詰まりが外れるように、家全体の新陳代謝が始まる。母は計画全体や家族間を透き通るように見渡し、色や機能の選択を祖母と父にあえて託しながら、この計画の本質を守り通した。
LDKではなく、台所と座敷
この計画で重要なのは、明るいLDKを求めているわけではないことである。壁が無くなっても、これまで通り台所は台所らしく座敷は座敷らしく存在させることを求めていた。座敷の竿天井はそのまま残し、台所の天井は既存の懐を露わにして民家特有の暗がりは残す。壁を無くし、構造補強のために設ける筋交いを見せて強さを持たせながら、円卓を組み込んで機能を与えて、その存在自体をダブらせる。透過しながら台所と座敷が両存する在り方を示している。改修後たまに来る親戚は、今でもこの「座敷」に集まって「台所」の調理姿を見ながら、円卓と座卓に分かれて、皆で飲み食いをしている。
形を変えても、内容は変わらない
ここまで振り返って、私たちはリノベーションと呼べるようなことをしてきてはいない。だがこれは家族各々が自らの陣を取り、また陣を渡してきた結果であり、リフォームでありながら建築的な作業であった。もうひとつ手を加えたことを言えば、1尺(=303mm)単位のビニルタイルの小口を黒く塗って目地を強調しながら床や家具に張り巡らせることである。この立体グリッドは計画が成り立った後の新たな秩序となり、陣取り合戦後の家族の良い均衡状態を可視化してくれる。それが拠り所となって、これからも今の状態が続きますように。息子たちからの願いを込めている。
■建築概要
題名:RE FORM
所在地:長野県安曇野
主要用途:専用住宅
設計・監理:塩入勇生+矢﨑亮大 / ARCHIDIVISION
施工:等々力昭浩 / 和泉屋工務店
構造アドバイス:辻拓也
規模:木造2階
敷地面積:384.37㎡
施工面積:57.96㎡
延床面積:226.84㎡
設計:2022年1月~2022年8月
工事:2022年9月~2022年12月
竣工:2023年1月
写真:中島悠二