SHARE 中脇充博/73ARCHITECTによる”ナラN”
©野村和慎
中脇充博/73ARCHITECTが設計した奈良市の住宅”ナラN”です。
©野村和慎
以下、建築家によるテキストです。
■設計主旨
敷地は郊外団地と古くからある集落との「狭間」にある. 平らな所がどこにもない, 一見するとただの道路敷にしか見えない傾斜地である. 東側には団地の住宅が, 南側は集落の民家が目の前にある田んぼを挟んで点在しており, 比較的良好な環境ではあるが, 特別絶景が広がるというほどでもない. 西側や北側にそびえ立つ擁壁などの周辺環境に馴染みつつも力強さを兼ね備えた建物をイメージした.
第一種低層による壁面後退, 建蔽率40%という見た目以上に厳しい条件の中, 配置やボリューム, また道路面に対しては閉じ, 環境の良い南・東面に開くことは早い段階で決定した. しかし環境が良いからといって, 大開口にて一望するような状態もここでは適当でないと思われた.
そこで用いたのが, 壁面に解像度の荒いモザイク処理を施すという手法である.
グリッド内でランダムに配された開口部は, 立地条件から「見られる」ことが多いであろうこの建物に対する外部からの視線を, 緩やかに遮る効果を持つ. 光は時間の経過と共に変化し, 垂直方向を意識することで, 力強さも表現している.
プランに関しては, 吹抜を擁するパブリック空間とプライベート空間との間に「モール」と名付けられた外部空間を挿入することで, より外部に触れるきっかけを作った. 「モール」は個の領域であり, 街の一部でもある. 双方を行き来するには必ずこの屋外通路を介する. 正対する位置に開口部を設けないという単純なルールの上に, ずらして配された開口部からお互いが見え隠れし, 「付かず離れず」の距離を保っている.
素材は内外部ともラワン合板を用いた普通型枠の打放しで, 外部は周辺と調和させるため素材感が残る半透明でアースカラーの着色を施した. 天井や造作家具も型枠と同様のラワン合板を使用し, より内外が一体に感じられることを意識した.
個室群に関しては, モールという街に接続する個別の建物という意図で, あえてそれぞれの仕上げを変えてある. 何れにしても「ツルッと均一」とういう自然界にはない状態でなく, 「ザラッとむらのある」肌質を選択している.
そうやってできた建物は, そこに以前からあったようにも, 突然現れたようにも見え, 住宅のようにも, そうでないようにも見える. 全てにおいて「狭間」というコンセプトとコンテクストの融合を目指した住宅である. 周辺に馴染ませつつも力強さを併せ持たせることで時間に耐え, 「外部に触れる」行為が, 個の世界と社会が接続するきっかけとなることを期待する. (中脇充博)
□建物概要
名称 :ナラN
所在地 :奈良県奈良市
主要用途:専用住宅
主体構造:壁式鉄筋コンクリート造
規模 :地上2階
敷地面積:253.44m2
建築面積: 96.23m2
延床面積:134.53m2
竣工 :2008年4月