森恵吾+ジャン・ジエ+マ・ハイユン / ATELIER MOZHが設計した、中国・上海市の「Tianzifang courtyard renovation」です。
路地が魅力である観光地のコートヤードを再生する計画です。建築家は、既存階段に登った際の記憶から着想し、地上と屋上を繋いで“上から見下ろせる”空間構成を考案しました。そして、舗装と屋根を結び付ける素材として“赤煉瓦”を用いました。また、レストランの設計も同設計者が手掛けています。
上海有数の観光地である田子坊の起源は古く、1847年前後とされており、織物工場や芸術家のメッカとして栄えた後、現在の姿へと移り変わっていった。増改築を繰り返すことにより、自然発生的に現れた果てのない迷路のひだのような路地空間が魅力的な田子坊であったが、先のパンデミックの影響により、かつての賑わいは失われてしまった。
そんな状況を打開すべく、クライアントからは田子坊において稀有な公共空間である、東部の大樹を取り囲むコートヤードの再生を依頼された。
新旧の建物群が混在するこの敷地には、主を失った店舗サインや日除けなどが入り乱れ、日常に芸術が溢れていた以前の姿はもはや見る影もなく、ひとまず、そうした雑多な物たちを整理することからこの計画は始まった。
まずはコートヤードの中央に鎮座する、赤い小屋の増築された上階部分を取り壊すことに。するとその裏手からはきれいな赤褐色の瓦屋根が顔を覗かせ、さらに木陰のベンチや日除けを撤去すると、かつての芸術家が残した特徴的な舗装のレンガパターンが横たわっていた。
それらをうまく活かせないかと考えるうちに、初めて赤い小屋の階段を登った際の記憶がよみがえる。その小さな踊り場から見えた景色は、まるで迷路を上から見下ろしたような、あるいは子供の頃に屋根の上にのぼった記憶を思い出させてくれるような、不思議な、しかし晴れ晴れとしたものであった。
田子坊は内外の境界面がハッキリとした路地、店舗、あるいは住居で構成されており、谷底のような路地空間で人々は水槽の中の魚のように留まることを許されない。その中にそっと置かれた小屋の小さな階段は、まとわりつくような路地空間から、私たちをしばしの間解放してくれる存在なのではないかと考えた。
そうであるならば、この小屋を「舗装のレンガ」と「瓦屋根」の媒介者として捉えてみるとどうか。「地表」を「屋上」までグッと引き延ばすように、あるいは、小屋に赤いレンガを纏わせるようにして、上下の要素をつなぐことを試みる。
視覚的に、そして体験的にも。そうして引き延ばされた地表は、ときにはベンチとなり、ときにはカフェカウンターとなり、ときにはプランターとなり、あるいは風水により導き出された水盤の受け皿にもなる。
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以下、建築家によるテキストです。
更新され続ける路地空間
上海有数の観光地である田子坊の起源は古く、1847年前後とされており、織物工場や芸術家のメッカとして栄えた後、現在の姿へと移り変わっていった。増改築を繰り返すことにより、自然発生的に現れた果てのない迷路のひだのような路地空間が魅力的な田子坊であったが、先のパンデミックの影響により、かつての賑わいは失われてしまった。
そんな状況を打開すべく、クライアントからは田子坊において稀有な公共空間である、東部の大樹を取り囲むコートヤードの再生を依頼された。
階段 / 上から見るか、横から見るか
新旧の建物群が混在するこの敷地には、主を失った店舗サインや日除けなどが入り乱れ、日常に芸術が溢れていた以前の姿はもはや見る影もなく、ひとまず、そうした雑多な物たちを整理することからこの計画は始まった。
まずはコートヤードの中央に鎮座する、赤い小屋の増築された上階部分を取り壊すことに。するとその裏手からはきれいな赤褐色の瓦屋根が顔を覗かせ、さらに木陰のベンチや日除けを撤去すると、かつての芸術家が残した特徴的な舗装のレンガパターンが横たわっていた。
それらをうまく活かせないかと考えるうちに、初めて赤い小屋の階段を登った際の記憶がよみがえる。その小さな踊り場から見えた景色は、まるで迷路を上から見下ろしたような、あるいは子供の頃に屋根の上にのぼった記憶を思い出させてくれるような、不思議な、しかし晴れ晴れとしたものであった。
引き延ばされた地表
田子坊は内外の境界面がハッキリとした路地、店舗、あるいは住居で構成されており、谷底のような路地空間で人々は水槽の中の魚のように留まることを許されない。その中にそっと置かれた小屋の小さな階段は、まとわりつくような路地空間から、私たちをしばしの間解放してくれる存在なのではないかと考えた。
そうであるならば、この小屋を「舗装のレンガ」と「瓦屋根」の媒介者として捉えてみるとどうか。「地表」を「屋上」までグッと引き延ばすように、あるいは、小屋に赤いレンガを纏わせるようにして、上下の要素をつなぐことを試みる。
視覚的に、そして体験的にも。そうして引き延ばされた地表は、ときにはベンチとなり、ときにはカフェカウンターとなり、ときにはプランターとなり、あるいは風水により導き出された水盤の受け皿にもなる。
一本の線
歩き疲れた後、路地から解放されたのなら当然休める場所が欲しくなる。そこで小屋脇の平屋の旧織物工場の屋根面を延長するようにして新たな屋根を設け、軽やかで解放的な回廊と、縁側のような落ち着いたスペースを同時に創出する。
屋上では気持ちの良い陽光と、大樹の木漏れ日、そして開けた視界が人々をもてなし、軒下ではコーヒーを飲みながら、雨が上がるのを待つことができる。庇を延長した分減少した採光面積は、既存の屋根にポコポコとトップライトを設けることで補填し、夜間にはそれらが屋上を照らすライトボックスにもなる。
屋根を支える列柱と壁柱はリズミカルに並び、外の通りからコートヤードへと人々の視線を誘うだろう。
新たなよるべ / 道しるべ
順調に躯体が建ち上がった頃、近隣住民からの要請により上階の手摺の高さまで躯体を切断することを余儀なくされた。当初計画されていた軽やかな屋根が日の目を見ることはなかったわけだが、迷路空間における緊張の緩和を主眼とするならば、より解放的であるこの現状は本来あるべき様相ともいえるだろう。
この場所では、小屋も常連も観光客もみな、赤褐色の衣に包まれ、その情景は路地をあてどなく彷徨する人々のための新たな道しるべとなる。
■建築概要
題名:Tianzifang courtyard renovation
所在地:中国上海市
主用途:コートヤード、レストラン
設計:ATELIER MOZH 担当/Jie Zhang、森恵吾、Baolei Liang、Duo Xu
構造設計:上海建科建築設計院有限会社
施工:上海予物建築装飾設計工程有限会社
延床面積:500㎡
設計:2021年1月~2021年3月
工事:2021年3月~2022年1月
竣工:2022年1月
写真:ATELIER MOZH、Romain Devisme、Akihito Matsushita