鈴木隆介一級建築士事務所が設計した、愛知・豊明市の「grand-ma」です。
同居を始める祖母の部屋の増築です。建築家は、想像される生活を応じた“空間の在り方”を求め、30°角度を振った“動き回らなくても多くの物事との関係”を紡げる空間を考案しました。また、回遊性も意図し既存との間に“ブリッジ”も架けました。
一坪にも満たない、小さな部屋の増築。
既存の家には夫婦とふたりの子ども、妻側の母の5人が暮らしていた。他県で一人暮らしをする祖母が、視力の低下によって生活が不自由になったため、家族は祖母を迎えて6人で暮らすことにした。
祖母が使う予定の寝室は現況で六畳。機能的には事足りる大きさだが、家族からの要望は「祖母を部屋のなかに閉じ込めた状態にせず、かといって、常に家族と一緒の空間で過ごし気を使う状態にもならないために寝室を少し大きくしたい」であった。
計画の初期段階で、施主家族と設計者である私で岐阜県にある祖母の家を訪れてみんなでお話をした(計画建物は愛知県)。
家族や祖母との会話や祖母実家の様子から、視力の影響からひとつの場所で座って過ごす時間が多いこと、空間の光は均質な明暗のコントラストが弱い状態が好ましいこと、趣味の庭いじり、飾られた小物、旅行に持っていく亡き夫(祖父)の写真、友人のように仲の良い家族との関係性など、様々な生活の様子を想像した。
ひとりの体に合わせてシルエットを決める仕立て服のように、想像した生活の様子を具現化した祖母のための形・空間のあり方を模索した。
長方形平面の増築部を既存に対して30°回転させ、増築部北側に外への動線、南側に居場所スペースの合理的な確保と着座時に祖母の体が外部を挟んでリビングと正対する家族との緩やかな関係性を持たせた。
出窓を床からの高さ40cmで居場所を囲むようにL型に設け、容易に手の届く範囲にできるだけ多くの必要品や実家の小物、写真を置けるようにし、庭地面方向への視界も確保した。
屋根は北と南で二段に分け、南側屋根の北辺を既存外壁から1mオフセットさせ既存との隙間を設け、既存で北側採光が望めない状況下で、南面からの自然光が白い既存外壁面に当たった反射光を取り込み光の均質化を試みた。平面の30°回転は反射光を増築内に取り込むためでもある。
増築の形を決め、最後に増築と既存テラスの間をつなぐブリッジを架けて、既存→庭→増築→既存とつながる回遊動線を計画した。
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以下、建築家によるテキストです。
一坪にも満たない、小さな部屋の増築。
既存の家には夫婦とふたりの子ども、妻側の母の5人が暮らしていた。他県で一人暮らしをする祖母が、視力の低下によって生活が不自由になったため、家族は祖母を迎えて6人で暮らすことにした。
祖母が使う予定の寝室は現況で六畳。機能的には事足りる大きさだが、家族からの要望は「祖母を部屋のなかに閉じ込めた状態にせず、かといって、常に家族と一緒の空間で過ごし気を使う状態にもならないために寝室を少し大きくしたい」であった。
計画の初期段階で、施主家族と設計者である私で岐阜県にある祖母の家を訪れてみんなでお話をした(計画建物は愛知県)。
家族や祖母との会話や祖母実家の様子から、視力の影響からひとつの場所で座って過ごす時間が多いこと、空間の光は均質な明暗のコントラストが弱い状態が好ましいこと、趣味の庭いじり、飾られた小物、旅行に持っていく亡き夫(祖父)の写真、友人のように仲の良い家族との関係性など、様々な生活の様子を想像した。
ひとりの体に合わせてシルエットを決める仕立て服のように、想像した生活の様子を具現化した祖母のための形・空間のあり方を模索した。
長方形平面の増築部を既存に対して30°回転させ、増築部北側に外への動線、南側に居場所スペースの合理的な確保と着座時に祖母の体が外部を挟んでリビングと正対する家族との緩やかな関係性を持たせた。
出窓を床からの高さ40cmで居場所を囲むようにL型に設け、容易に手の届く範囲にできるだけ多くの必要品や実家の小物、写真を置けるようにし、庭地面方向への視界も確保した。
屋根は北と南で二段に分け、南側屋根の北辺を既存外壁から1mオフセットさせ既存との隙間を設け、既存で北側採光が望めない状況下で、南面からの自然光が白い既存外壁面に当たった反射光を取り込み光の均質化を試みた。平面の30°回転は反射光を増築内に取り込むためでもある。
増築の形を決め、最後に増築と既存テラスの間をつなぐブリッジを架けて、既存→庭→増築→既存とつながる回遊動線を計画した。
ブリッジ横の既存小窓から手を差し伸べれば届きそうな距離に増築はある。庭で遊んでいた子はテラスからブリッジを渡り祖母の横を駆け抜けていく。出窓には思い出の品が並び、リビングに目を向けると家族が手を振っている。
動き回らなくても多くの物事との関係性が生活を彩る様子を想像し、ひとりのための小さくて多彩な祖母の居間を目指した。
■建築概要
題名:grand-ma
所在地:愛知県豊明市
主用途:一戸建ての住宅
設計:鈴木隆介一級建築士事務所 担当/鈴木隆介
施工:平岡建築、タツミヤ無線、白鳥水道工業所(分離発注)
構造:木造
増築部面積:3.25㎡
設計:2023年8月~2023年11月
工事:2023年12月~2024年1月
竣工:2024年1月
写真:ToLoLo studio、鈴木隆介