阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 鳥瞰、東側より見下ろす。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 俯瞰、北東側より見下ろす。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる A棟、土間リビングとリビングダイニング photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる A棟、キッチンからリビングダイニング越しに土間リビング側を見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所 が設計した、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」です。
農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画されました。建築家は、新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案しました。また、屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いられました。
淡路市野田尾地区で滞在型市民農園施設(農園付き住居)を5戸と倉庫のほか、この施設への玄関口となる場所に地域の交流施設兼料理研究室(地域交流施設)を設計した。
農園付き住居は、地域の高齢化や過疎化によって、休耕田となる土地を淡路市が買い取り、約50㎡の住居と約50㎡の占有農園を1セットとして、年貸しの賃貸住居として整備したものである。
希望すれば最大5年まで賃貸でき、その後さらに延長を希望する場合は、また希望者との抽選となる。
自ら田畑を耕し、そこでの収穫を楽しむ暮らしに憧れる人は少なくないが、一方で、見ず知らずの農村に移り住み住居や道具などを整備するには、大きな決断が必要だ。しかし、今回のような仮暮らしの場所であれば趣味の範囲で土に触れ、老若男女の多様な年代との地域交流や、個人や団体が農業体験に参加できる。地域の農家に農業を教わることも可能だ。
5戸はすでに入居者が決まり、一歩を踏み出したいと考えている人は少なくないことが分かった。受け入れ側の農村としても、休耕田を活用することで鳥獣被害を防ぎ、地域の住民以外の人が出入りすることで活気が生まれる。田畑など農地の継承が親族だけでなくなることで、農産業の存続にも可能性が広がる。両者だけでなく、社会的にも意味深い仕組みだ。
農園付き住居の設計は、新しいけれど、どこか懐かしい「ここにしかない風景」をつくることをテーマに、プロポーザルで設計者として選定された。同じ地区に建つ交流施設の設計も同じコンセプトを持つ建築とすることで随意契約となった。
はじめてこの敷地に訪れた時、長閑な棚田の風景の先にあるキラキラ光る海とさらにその先にある大阪の大都市が見えた。都市を遠くに感じながらも、ここだけの時間が流れていた。
建物の形は、周りが農園に囲まれているため、どの方向にも影を落とさないように寄棟とし、頂部には、換気塔を設けた。プランは、田の字型を基本とし、農園から、大きな軒下空間、土間リビング、リビングと内外を段階的に緩やかに繋げた。
これにより、農園の作業から長靴のまま出入りし、畑仕事を土間リビングまで持ち込み、そのままキッチンから食卓までがひと繋がりになるような暮らしが可能となる。扉一枚で内外を隔てる都市的なつくりとは違い、農園付き住居ならではの作法を取り入れた。
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阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 鳥瞰、東側より見下ろす。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 鳥瞰、北側より見下ろす。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 俯瞰、北東側より見下ろす。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 俯瞰、北東側より見下ろす。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 外観、南側の道路より見上げる。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる E棟、農地と土間リビング photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 外観、E棟駐車場よりA棟を見上げる。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる A棟、駐車場側から玄関越しに土間リビングを見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる A棟、土間リビングとリビングダイニング photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる A棟、キッチンからリビングダイニング越しに土間リビング側を見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる A棟、洋室から和室を見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる A棟、洋室からリビングダイニング越しにキッチンを見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる A棟、リビングダイニング、天井を見上げる。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる B棟、土間リビング photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる D棟、農地と土間リビングから農機具倉庫側を見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる D棟、キッチンからリビングダイニング越しに土間リビング側を見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる D棟、和室から洋室を見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる D棟、ロフトからキッチンを見下ろす。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 洗面脱衣室 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 浴室 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる トイレ photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 外観、西側の道路より農機具倉庫を見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 外観、敷地内の北側より農機具倉庫を見る。 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 農機具倉庫、倉庫1 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる A棟、リビングダイニングから土間リビング越しに外部を見る。夕景 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる E棟、外観、敷地内の南側より見る。夕景 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる D棟、外観、南側の農地より内部を見る。夜景 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 外観、東側より全体を見る。夜景 photo©小川重雄
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 広域図 image©阿曽芙実建築設計事務所
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 広域配置図 image©阿曽芙実建築設計事務所
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 配置図 image©阿曽芙実建築設計事務所
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 平面図 image©阿曽芙実建築設計事務所
阿曽芙実建築設計事務所による、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」。農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画。新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案。屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いる 矩計図 image©阿曽芙実建築設計事務所
以下、建築家によるテキストです。
仮暮らしのための農園付き住居
淡路市野田尾地区で滞在型市民農園施設(農園付き住居)を5戸と倉庫のほか、この施設への玄関口となる場所に地域の交流施設兼料理研究室(地域交流施設)を設計した。
農園付き住居は、地域の高齢化や過疎化によって、休耕田となる土地を淡路市が買い取り、約50㎡の住居と約50㎡の占有農園を1セットとして、年貸しの賃貸住居として整備したものである。
希望すれば最大5年まで賃貸でき、その後さらに延長を希望する場合は、また希望者との抽選となる。
自ら田畑を耕し、そこでの収穫を楽しむ暮らしに憧れる人は少なくないが、一方で、見ず知らずの農村に移り住み住居や道具などを整備するには、大きな決断が必要だ。しかし、今回のような仮暮らしの場所であれば趣味の範囲で土に触れ、老若男女の多様な年代との地域交流や、個人や団体が農業体験に参加できる。地域の農家に農業を教わることも可能だ。
5戸はすでに入居者が決まり、一歩を踏み出したいと考えている人は少なくないことが分かった。受け入れ側の農村としても、休耕田を活用することで鳥獣被害を防ぎ、地域の住民以外の人が出入りすることで活気が生まれる。田畑など農地の継承が親族だけでなくなることで、農産業の存続にも可能性が広がる。両者だけでなく、社会的にも意味深い仕組みだ。
新しいけれど、どこか懐かしい佇まい
農園付き住居の設計は、新しいけれど、どこか懐かしい「ここにしかない風景」をつくることをテーマに、プロポーザルで設計者として選定された。同じ地区に建つ交流施設の設計も同じコンセプトを持つ建築とすることで随意契約となった。
はじめてこの敷地に訪れた時、長閑な棚田の風景の先にあるキラキラ光る海とさらにその先にある大阪の大都市が見えた。都市を遠くに感じながらも、ここだけの時間が流れていた。
建物の形は、周りが農園に囲まれているため、どの方向にも影を落とさないように寄棟とし、頂部には、換気塔を設けた。プランは、田の字型を基本とし、農園から、大きな軒下空間、土間リビング、リビングと内外を段階的に緩やかに繋げた。
これにより、農園の作業から長靴のまま出入りし、畑仕事を土間リビングまで持ち込み、そのままキッチンから食卓までがひと繋がりになるような暮らしが可能となる。扉一枚で内外を隔てる都市的なつくりとは違い、農園付き住居ならではの作法を取り入れた。
建物を構成する要素は地域性が感じられる素朴な素材や仕上げとした。
淡路島には人工林がないため林業が存在しないが、土の文化はある。屋根瓦、土壁、ドアノブや表札など、土に関するものは、地のものを取り入れた。
dots nは、農を接点とした拠点(dots)をきっかけとして、住まい手(n)や地域農家(n)など地域の交流を促し、将来の農業の担い手といったさまざまな課題に応える最初の点となる。それはこの場所の課題に応えるだけではなく、現代の暮らしを豊かにする選択肢になり得るのではないだろうか。
■建築概要
題名:dots n -n戸の住居とn人の人の関わり-
所在地:兵庫県淡路市野田尾
主用途:農園付き住居
設計:阿曽芙実建築設計事務所 担当/阿曽芙実 、馬場沙也
施工:株式会社出雲建設(農機具倉庫:株式会社柴田工務店)
構造:木造
階数:地上1階
敷地面積:2999.66㎡
建築面積:62.92㎡
延床面積:53.82㎡
設計:2022年11月~2023年3月
工事:2023年6月~2024年2月
竣工:2024年2月
写真:小川重雄 / 小川重雄写真事務所