
SHARE 落合陽一とNOIZによる、大阪・関西万博の「null²」。“いのちを磨く”を主題とする施設。バーチャルとフィジカルの接続を求め、ボクセルが構成要素の“多様な二次利用の可能性”を持つ建築を考案。風と共振する鏡面膜とロボットアームを組合せて“動的な建築”も実現




落合陽一のプロデュースとNOIZの建築設計による、大阪・関西万博の「null²」です。
“いのちを磨く”を主題とする施設です。建築家は、バーチャルとフィジカルの接続を求め、ボクセルが構成要素の“多様な二次利用の可能性”を持つ建築を考案しました。また、風と共振する鏡面膜とロボットアームを組合せて“動的な建築”も実現しています。施設の公式サイトはこちら。
このパビリオンのテーマは「いのちを磨く」で、NOIZと落合氏がこれまでの協業の中で継続して試してきた、金属っぽさ、硬質さと柔らかさの共存といった要素をデザインのテーマとしています。
生活や価値観の多様化が進んだネットワーク時代の万博では、70年の大阪のように、全ての領域でグランドチャンピオン的な価値を持たせることは難しくなっています。
設計にあたっては、その中でわざわざ会場に足を運んで体験することの価値とは何かを考えました。一つの可能性は、広く薄く機会を提供することが得意なバーチャル空間と、実地ならではの濃密な体験を提供するフィジカル空間と、それぞれの特性や価値を肯定的に受け入れた上で、これらをつなぐ「接空間(Interspace)」としての新しい機能と役割を建築に与えることでした。
ゲームやVRなどのデジタル空間には、計算や通信の負荷を減らし、効率的に動的な記述行うための、ボクセル(Voxel)というキューブ型の空間単位を用いる低解像度の表現手法があり、これはデジタル表現の一つのアイコンにもなっています。特にコロナ禍で物理的な交流が制限された時期には、Minecraft やFortnite といったゲーム空間が、社会に新たなコミュニケーションの場を提供しました。
Z世代やα世代にとってMinecraftのようなゲーム空間内での共有体験は、我々の世代が近所の公園や運動場で育んだ共有体験と同じか、それ以上にリアルな体験であり価値となっています。2025年の万博では、現地に身体を運ぶことで体験する従来型の価値に加えて、バーチャル空間経由で体験する / ARアバターを使って共同作業をする / ロボットアバターで会場を歩き回るなど、身体や場所という物理的制約を超えた、多様な参加や貢献の形も実現されるべきです。
NOIZとして落合館の設計を行うにあたり、誰でもデジタルに編集可能なボクセルを建築の構成要素とすることで、バーチャルに落合館の自分バージョンを作成して共有したり、現地で自分バージョンをARで重ね合わせて楽しんだりと、多様な二次利用が可能な参加型建築体験の可能性を考えました。設計者と利用者という従来型の二分法ではなく、誰もが自分のやり方で参加や貢献、提案や発信ができる、次世代の建築価値のあり方を探る一つの試みです。
鏡面膜による外壁は、膜面の重さと大きさに共振する風速で呼吸をするように振動し、映り込む空や周囲の景観を独特なリズムで歪ませます。さらに、複数のボクセルの内部にはウーファーとロボットアームを設置し、重低音の周波数やロボットアームの動きを調整することで、膜をより演出的に、文字通りヌルヌルと変化させることを可能にしてあります。
素材と特性、多様な動きを統合することで、あたかも一個の生命体のように、周辺環境や人とインタラクションを行う動的な建築を目指しました。ウーファーの周波数を連続的に調整することで、膜面の定常波形がゆっくりとうつろい、ロボットアームは独特の捩じりや傾げの動きで、鏡面に映り込む周囲の時空を捻じ曲げます。
鞍型やホルン型の鏡面や、ボクセルの立体的な構成がつくる無数の鏡が、あたかも空中に浮かんだ多数の窓が異なる世界を切り取り、映し込み、重ね合わせたような効果を生み出し、パビリオン自体が無数のパラレルワールドが交錯する「接空間」として機能し始めます。
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以下、建築家によるテキストです。
NOIZは、大阪・関西万博2025のシグネチャーパビリオンの一つ、落合陽一プロデューサーの「null²」の設計を担当しました。
このパビリオンのテーマは「いのちを磨く」で、NOIZと落合氏がこれまでの協業の中で継続して試してきた、金属っぽさ、硬質さと柔らかさの共存といった要素をデザインのテーマとしています。
生活や価値観の多様化が進んだネットワーク時代の万博では、70年の大阪のように、全ての領域でグランドチャンピオン的な価値を持たせることは難しくなっています。
設計にあたっては、その中でわざわざ会場に足を運んで体験することの価値とは何かを考えました。一つの可能性は、広く薄く機会を提供することが得意なバーチャル空間と、実地ならではの濃密な体験を提供するフィジカル空間と、それぞれの特性や価値を肯定的に受け入れた上で、これらをつなぐ「接空間(Interspace)」としての新しい機能と役割を建築に与えることでした。
ゲームやVRなどのデジタル空間には、計算や通信の負荷を減らし、効率的に動的な記述行うための、ボクセル(Voxel)というキューブ型の空間単位を用いる低解像度の表現手法があり、これはデジタル表現の一つのアイコンにもなっています。特にコロナ禍で物理的な交流が制限された時期には、Minecraft やFortniteといったゲーム空間が、社会に新たなコミュニケーションの場を提供しました。
Z世代やα世代にとってMinecraftのようなゲーム空間内での共有体験は、我々の世代が近所の公園や運動場で育んだ共有体験と同じか、それ以上にリアルな体験であり価値となっています。2025年の万博では、現地に身体を運ぶことで体験する従来型の価値に加えて、バーチャル空間経由で体験する / ARアバターを使って共同作業をする / ロボットアバターで会場を歩き回るなど、身体や場所という物理的制約を超えた、多様な参加や貢献の形も実現されるべきです。
NOIZとして落合館の設計を行うにあたり、誰でもデジタルに編集可能なボクセルを建築の構成要素とすることで、バーチャルに落合館の自分バージョンを作成して共有したり、現地で自分バージョンをARで重ね合わせて楽しんだりと、多様な二次利用が可能な参加型建築体験の可能性を考えました。設計者と利用者という従来型の二分法ではなく、誰もが自分のやり方で参加や貢献、提案や発信ができる、次世代の建築価値のあり方を探る一つの試みです。
さらに、今回はより直接的な意味で「動的な建築」という可能性にも挑戦しています。
通常、建築物はそのスケールや求められる性能から巨大で静的なものになりがちですが、今回は短期間での設計や予想される大幅な予算および機能調整、会期後の移設可能性などを考慮し、全てをフレームとボクセル膜で可変性高く構成するという前提からスタートしました。
外装に用いた反射率98%の鏡面膜は、金属的な質感をもちつつ柔軟な曲面が形成可能な膜材で、設計の初期段階から太陽工業および落合氏のプロダクションチームと共同で開発した新素材です。この膜は伸縮耐性が高くかつフレキシブルであり、同時に高い熱線反射性能も持つことから、万博以外の機会にも、既存の建築への遮熱とデザイン性を兼ねた応用展開も期待できます。
本パビリオンは来場者が自分のデジタルツインと交流する展示棟と、バックスペースとしての事務棟、警備棟、休憩棟の四つの機能で構成され、それらを2m、4m、8m立方のボクセルのかたまりが内包しています。これらのフレームと膜からなる簡易で自由度の高い構成要素は、建設予算や与件の変更にも柔軟な対応を可能にし、会期後の解体や、別場所や機能での再構成や再利用にも対応しやすい、非常にサスティナブルな仮設建築でもあります。
鏡面膜による外壁は、膜面の重さと大きさに共振する風速で呼吸をするように振動し、映り込む空や周囲の景観を独特なリズムで歪ませます。さらに、複数のボクセルの内部にはウーファーとロボットアームを設置し、重低音の周波数やロボットアームの動きを調整することで、膜をより演出的に、文字通りヌルヌルと変化させることを可能にしてあります。
素材と特性、多様な動きを統合することで、あたかも一個の生命体のように、周辺環境や人とインタラクションを行う動的な建築を目指しました。
ウーファーの周波数を連続的に調整することで、膜面の定常波形がゆっくりとうつろい、ロボットアームは独特の捩じりや傾げの動きで、鏡面に映り込む周囲の時空を捻じ曲げます。
鞍型やホルン型の鏡面や、ボクセルの立体的な構成がつくる無数の鏡が、あたかも空中に浮かんだ多数の窓が異なる世界を切り取り、映し込み、重ね合わせたような効果を生み出し、パビリオン自体が無数のパラレルワールドが交錯する「接空間」として機能し始めます。内部の、参加者が自分自身のデジタルツインと出会う体験型の展示とあわせ、物理世界とバーチャル世界、人とアバター、モノと情報が重なり合う、万博の本来のテーマである「異世界との出会い」を一貫して表現するパビリオンとしています。
■建築概要
題名:null²
所在地:大阪市此花区夢洲中一丁目地先(2025年日本国際博覧会会場内)
主用途:展示場
───
設計
全体ディレクション / プロデュース:落合陽一
建築:NOIZ 担当/豊田啓介、蔡佳萱、酒井康介、笹村佳央、平井雅史
構造:Arup 担当/金田充弘、竹内篤史、小西佑佳
設備(基本):Arup 担当/橋田和弘、岩元早紀
設備(実施):株式会社フジタ 担当/大野友和、三好椋太、北迫 茂樹
展示内装・演出機器:乃村工藝社 担当/吉田敬介、鈴木健司、鈴木健太
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施工
建築:フジタ・大和リース特定建設工事共同企業体 担当/前田郁宏、西田健、柴田真子、愛須裕章
展示内装・演出機器:乃村工藝社 担当/寺崎慎吾、鈴木未来、石川陽平、大西壮直、鈴木健太
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協力
ロボティクス:アスラテック 担当/吉崎航
ジオメトリカルエンジニアリング:Arup 担当/春田典靖
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構造:鉄骨造
階数:地上2階
敷地面積:1,635.72㎡
建築面積:672.54㎡
延床面積:655.46㎡
設計:2022年3月~2023年12月(建築)
工事:2024年1月~2025年2月(建築)
竣工:2025年2月(建築)
写真:阿野太⼀、楠瀬友将
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 屋根 | ガルバリウム鋼鈑t=0.8折板葺・丸馳折版Ⅱ型(三晃金属工業)+SUSPL t=1.0 |
外装・屋根 | ボクセル 屋根 | ミラー膜張・新規開発材(太陽工業) |
外装・壁 | 外壁 | 金属断熱サンドイッチパネルt=35・イソバンドBL(日鉄鋼板)+ミラー膜張・新規開発材(太陽工業) |
外装・壁 | ボクセル 外装 | ミラー膜張・新規開発材(太陽工業) |
外装・建具 | 開口部 | 鋼製建具+ミラー膜張・新規開発材(太陽工業) |
内装・床 | 展示室 床 | LEDパネル+ハーフミラー |
内装・床 | 回廊 床 | |
内装・床 | 事務棟、警備棟、休憩棟 床 | 塩ビタイルt3.0(HUB&STOCK) |
内装・壁 | 展示室 壁 | 不燃木毛セメント板t15+ミラーt6.0(AGC) |
内装・壁 | 回廊 壁 | GB t=12.5の上AEP塗装 |
内装・天井 | 回廊 天井 | GB t9.5の上AEP塗装 |
内装・照明 | 展示室 照明 | LEDパネル+ハーフミラー |
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