SHARE 山田誠一建築設計事務所による、静岡の住宅「富士南麓の家」
山田誠一建築設計事務所が設計した、静岡・富士宮市の住宅「富士南麓の家」です。
建築を設計するということは、自然と建築をどう秩序立てるのか、人の深い部分で繋がる共通の感情を建築にどう結びつけるのかを反復的に思考することだと思う。それは、目の前の自然と人の記憶との豊かな応答だ。大きな欅の木を見上げる、あるいは足下に落ちている木の実を拾いあげることから、すでに思考は始まっている。
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以下、建築家によるテキストです。
敷地は富士山南麓の町の北部に位置する。建て主の父親が古くから所有する農地で、周囲を20m以上ある樹木に囲まれ、北側には比較的大きな工場がこの敷地を見下ろすように建っている。鬱蒼とした樹木群と工場、道路側のすでに使われていない家屋、敷地から見える仮設小屋など、全体として陰鬱で雑多とした印象であった。
建主が幼少期を地方の田舎で過ごし、薪割りを日課にしていたことなどを伺う中で、また自然と共に暮らしたいという強い思いを感じた。建築を介して自然と人の記憶を繋ぎ、より豊かな生活をもたらすことはできないだろうか。
まず、螺旋階段を中心にシンメトリーの柱架構と、各面で統一した開口部をもつ単純な矩形を敷地中央付近に配置し、自然の中に建築の領域を設定した。高さ方向は周囲の樹木に呼応するよう最高高さを7mとし、1階天井高を抑えて2階の気積を確保しつつ、3方向の開口部によって森との距離を近づけた。壁は砂漆喰によって架構を覆い塗り込めることで、建築自体が敷地の中の雑多なものを視覚的に切り取る背景となる。シンメトリーで単純な柱スパンから成る骨格に対し、皮膚のような表層をかたちづくる壁のシークエンスと光の陰影が、自然の秩序を踏襲し、奥行きのある空間となることを考えた。
自然という長期の時間軸と、人の存在という短期の時間軸が建築を介して対峙することで、より豊かな感情が喚起することを意図した。
建築を設計するということは、自然と建築をどう秩序立てるのか、人の深い部分で繋がる共通の感情を建築にどう結びつけるのかを反復的に思考することだと思う。それは、目の前の自然と人の記憶との豊かな応答だ。大きな欅の木を見上げる、あるいは足下に落ちている木の実を拾いあげることから、すでに思考は始まっている。(山田誠一)
■建築概要
題名:富士南麓の家
設計:山田誠一建築設計事務所
担当:山田誠一
施工:匠工務店
所在地:静岡県富士宮市
主用途:専用住宅
協力
構造:高橋俊也構造建築研究所
左官:山脇豊左官
金物:金森正起
階数:2(地上2階)
延床面積:85.05㎡
建築面積:48.60㎡
構造:木造
竣工:2018年10月
写真:川辺明伸