矢野泰司+矢野雄司 / 矢野建築設計事務所が設計している、高知の「House N」です。SDレビュー2016の「SD賞」受賞作品です。
農業を営む若い夫婦の住宅である。
高知県東部の海に程近い高台に敷地はあり、近くには集落の人達が野菜を栽培するビニルハウスが建ち並んでいる。主な要望としては、親夫婦が住んでいる母屋や水回り棟との一体的な計画、友人を招いて食事のできる開放的な半外部空間、海を見渡せる寝室、などであった。
3階建てとしたスラブの高さや形、構造形式は、海への眺望と母屋への日射や通風、および開かれた半外部空間を獲得しながら決定した。周辺環境との応答によってできた空間は、軽やかで透明性があり、風通しのよいものになった。
また、母屋、水回り棟、庭、倉庫、路地を含めた環境全体に住まい手の生活を広げ、使い方に幅が生まれるように外部や半外部の場所を介して関係付けている。それは時間と共に変わっていく家族の形態やライフスタイルへの柔軟な対応も可能にするだろう。
前面道路とつながる天井高約4mの半外部空間は外に対しておおらかに開かれ、あちこちから風や光の抜けるエントランスであり、内外の境界を緩めて、人と人をつなげていく場としても機能するように期待している。家族でくつろいだり、友人と大勢でパーティーをしたり、農業の6次化を試みる施主の仕事場になったり、私性と公共性が混在する新たな農家の住まい方がこの空間から伸びやかに展開していければと考えている。