アーキテクチャーフォトではユウブックスから出版されたインタビュー集『“山”と“谷”を楽しむ建築家の人生(amazon)』を特集します。
それにあたり、岸和郎さん(WARO KISHI + K.ASSOCIATES ARCHITECTS)、三井祐介さん(日建設計)、富永大毅さん(TATTA ※旧富永大毅建築都市計画事務所)、橋本健史さん(403architecture [dajiba])にレビューを依頼しました。
異なる世代・立場・経験をもつレビュアーから生まれる言葉によって、本書に対する新たな見え方が明らかになると思います。
その視点を読者の皆様と共有したいと思います。
(アーキテクチャーフォト編集部)
ブルネレスキとの再会
text:岸和郎
のっけから恐縮だけど、僕は昔から「伝記」というやつが嫌いだった。
特に偉人伝、キュリー夫人とか野口英世の伝記など、全く興味がなかった。
自分が知りたいのはその人がいかに苦労したとか、どんな人だったかではなくて、何をやったのか、その人が成した事実がどれだけ重要なのか、ということだけにしか興味のない人だったから。
だから大学は文化系ではなく理科系、しかも最も非人間的に思えた工学部の電気工学科に入学した。
のちに建築学科に学士入学するのだが、そのきっかけは友人の部屋でル・コルビュジェの作品を見たことだった。その時もル・コルビュジェその人には全く興味がなかった。
建築学科に変わってから大学院は建築史研究室に所属したのだが、そのときの修士論文は土浦亀城の住宅の形態分析、それもコーリン・ロウとピーター・アイゼンマンの方法論で分析したもので、この時も土浦亀城の人間としての背景の記述は意図的に排除するというような、ほとんど人間嫌いを表明するような代物だった。
だから私は本当はこの書籍の書評を受けるべき人間ではないと思う。でも、じゃあ、なぜこの書評を引き受けたのか。その理由を書いてみる。