藤貴彰+藤悠子が設計した、東京・渋谷区の、設計者の自邸兼事務所「出窓の塔居」です。また2020年12月12日14時に設計者によるオンラインレクチャーが開催されます。
新旧の街並みが混在する都心の狭小地に、自邸兼事務所を設計した。駅前で、様々な用途になり得る可能性のある場所なので、家でなく居場所をつくるべきだと考えた。自分たちの手を離れた後、用途や持ち主が変わっても生き続けられる、居心地の良い居場所である。
居場所をつくる手法として、空間そのものを構築するのではなく、何気ない人の振る舞いの一つ一つを意識的に具現化し、空間が立ち上がることを試みた。そこで用いた形式が出窓である。日本における出窓の法令上の寸法体系が家具的であることに着目した。出幅は500mmまで、床面からの立ち上がりは300mm以上、天井面から窓の上枠が立ち下がっているという基準があり、用途が生じない場合は容積不算入でもある。出窓を家具的に扱い、階ごとに全周ぐるりと巻き付け積層することで、建物の周囲に家具的境界を作った。座る、寝転ぶ、手を洗う、料理する、入浴する、物を書くなど日常の様々な振る舞いが出窓と共にある。
また、狭小地の宿命として、新たに建物を建築すると、隣家の窓前に壁が立ち、息苦しい思いをさせてしまう。隣家にも居心地の良さをもたらす形態とはどうあるべきかを考えた。建物の角を45度で落とし敷地の四隅に空地のポケットをつくることで、隣家の窓の振る舞いも確保し光と風を享受できるようにした。八角形の建物形状は、通常の矩形の建物と比べて周囲の風環境への悪影響が小さいこともシミュレーションによって確認した。
さらに、居心地の良い場所を作るために、シミュレーションにて周囲も含めた微気候の振る舞いを観察すると、採光のための光窓、通風のための風窓、熱も風も遮ったほうがよい壁窓、3つの出窓の状態が浮かび上がってきた。3種の窓を光・風・熱の条件が最も効果的になるように配置をしたが、それでも真夏や真冬は、熱負荷が大きくなってしまう部位があるため、外装材には軽量で断熱性が高く、吸音性もあり不朽もしない炭化コルクにて外断熱を行い、熱負荷を低減することとした。