河部圭佑建築設計事務所が設計した、愛知・大府市の改修「八寸勾配の見世」です。
運動の盛んなエリアに建つ飲食店とジムの計画です。建築家は、地域性の象徴と装飾の可能性を求め、店の発信とは別の存在となる“走る人”を屋根面に描画しました。そして、内外の意匠もイラストとの関係を際立たせる設計を意図しました。店舗の公式ページはこちら。
愛知県大府市に設計したお店です。
この地域の地域性を建築によって象徴すること、現代建築における装飾とその可能性を模索したプロジェクトです。
本テクストの後半では、ポストモダニズムを代表する建築家ロバート・ヴェンチューリの著作「ラスベガス」を引用しながら、近代以降の建築の象徴性について考察します。
プログラムについてです。
敷地ほど近くにある至学館大学で講師を務める管理栄養士の方が施主で、彼の「食育」研究の実践の場所として計画されました。
1階は、栄養食や健康食を提供するレストランで、健康づくり、スポーツ、ダイエットをする人や高齢者など幅広い人に合わせてそれぞれ考案されたメニューがあります。2階は、それに付随したトレーニングジムで、食事による栄養摂取と身体づくりとを共に学ぶことのできる、主にジュニアアスリート向けのスクールが開かれています。
1階と2階は外部階段によって繋がっているので、それぞれを単独で使うことも、連続したプログラムとして使うこともできます。
街に向かって降りてくる屋根に、大きなイラストレーションを設けました。イラストレーターのミヤザキさんが作成、グラフィックデザイナーの阿部航太さんがイラストディレクションを行いました。
「走る人」の抽象的な表象によって、上述したこの街の地域性を象徴しようとしました。
前面道路の角度に合わせて北側の外壁ラインと屋根が斜めに切り欠かれていますが、ちょうど地面を蹴る方の脚が、屋根の切り欠きにかかるようにイラストを配置しています。屋根の切り欠きを、陸上競技の踏切板=スターティングブロックと見立てています。建築物としての意匠と、サインとしての表象が、相互作用を持つような関係性を目指しました。
濃いグレーの背景に、白くて太い線で描かれたラインは、アスファルト上の路面標示の意匠を引用していて、街を構成する土木的なものの一部となるようにと考えました(配置図)。その方が、専有物ではなく共有物のような佇まいになると思ったからです。傾きの大きな屋根(八寸勾配)なので、離れた所から見ると壁画のように見えます。
イラストは一点物としてイラストレーターによって描画されました。お店のロゴやその他発信ツールとは別個の存在です。