五十嵐敏恭 / STUDIO COCHI ARCHITECTSが設計した、沖縄・糸満市の「西崎の家」です。
住宅街の幹線道路と生活道路に挟まれた敷地での計画です。建築家は、“街との距離感”と“快適な室内環境”を主題とし、道路と内部の間に其々の環境に対応する“緩衝帯”を備えた建築を考案しました。そして、生活の多様な行為を受容し“立体的に風と光の通る住宅”を造りました。
この住宅は夫婦と子供ひとりが暮らす住宅である。
敷地は、沖縄本島南部の埋め立てにより新たに開発された住宅街に位置する。
周辺は商業施設や工業団地、住宅、学校や運動公園に漁港など、さまざまな用途やスケールの混在した街区により構成される。敷地の北側には区画整理された住宅地、南側には大きな幹線道路を挟み商業地域が広がる。そのため、北側は1日を通して比較的静かだが、南側は交通量が多いため騒がしい時間帯が多い。
さらに、敷地の東側西側は隣家が近接している。開発された地域では住宅が密集し空き家も増加傾向にある。沖縄には特有の雄大な自然がある一方で、都市部はこのような混沌とした風景がある。加えて、台風は年間を通して発生し災害に備えなければいけない。そのような環境において街との距離の取り方と快適な室内環境の確保が課題となった。
住宅地に面する北側の中庭は室内への視線に配慮しつつアプローチや応接間でもある畳間と連続した空間とすることで街に対して閉鎖的になり過ぎない緩やかなグラデーションをもつ緩衝帯として機能する。一方、南側の中庭は、街との間に階段室を挟むことで分厚く強固な緩衝帯として機能し、中庭と居間の居住性を高めている。
また、この階段はひとつの薄暗い部屋としての使用も考えているため椅子などが置けるよう通常の階段より少しゆとりのある空間としている。街との緩衝帯の強弱をつけることで、密集した住宅地の中で生活の多様な行為を受け止められる立体的に風と光の通る住宅になったのではないかと思う。