SHARE 特集”ミラー&マランタ”、サン・ゴッタールドのホテル/2005-2009
ミラー&マランタによるスイスの”サン・ゴッタールドのホテル/2005-2009″です。 (※ミラー&マランタの特集ページはこちら。)
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以下、建築家によるテキストです。
<解説>
サン・ゴッタールドの道路はスイスのアルプスの中でも、もっともシンボリックなものの一つである。交通網の発達によって道路が延長され、山頂周辺にも次第に建物が建つようになっていった。 今日では、これらの建物は互いに調和を保ちながら建っていて、何世紀にも渡って発達してきたこの土地の歴史を物語っている。このホテルは、ユースホステルや古いホスピス、そして教会や馬小屋、倉庫などとともに二つの湖に挟まれてひしめき合いながら道路に面して建っている。倉庫が博物館へコンバージョンされた後には、古い宿泊所だけが唯一この場所において非公開だった。現在のサン・ゴッタールドの風景の中でもとりわけ重要な位置をしめるこの建物が、今回のコンバージョンによって新たにホテルとなることで、この場所は本格的に観光スポットになっていくであろう。元となった建物は二つの棟からなる教会で、1623年に司祭の家として建てられ、18世紀のモンテプローザ山の雪崩の後に再建されて、現在は修道士のための宿泊所として保存されている。この建物は何回にもわたって増築が繰り返され、その時々の時代の要請に応じて次第に近代化していった。今日ではその建物は「アルテス・ホスピーツ(古い宿泊所)」と呼ばれている。1905年の大火事の後、宿泊所の内部構造は一新されて教会には組積造による増築がなされた。
この古い宿泊所の建築的なポテンシャルは、道に接しながら南に向かってまっすぐ屹立しているその建ち方にある。このプロジェクトでは、現在は別々のヴォリュームに分かれている建物を大きな屋根で一つに統合し、 さらに屋根窓を加えることでこの建物に新たなキャラクターを与えようと考えた。そして、この建物の一番元の部分である教会に後から増築されたヴォリュームを取り払い、大屋根で覆うことで教会の祭壇に再び重要性を与えようとしている。南ファサードには新たに一層付け足しているのだが、その開口のかたちによって、過去から積み重ねられてきたレイヤーを読み取ることができる。新たなレイヤーをひとつ付け足すことで、このファサードがこの建物の歴史を読み解くための重要な鍵となるのである。 20世紀初頭に建てられた建物内部の構造は解体されたが、地上階のコンクリートによる構造は残されている。新しく加えられた木によるフレームの構成はこの地域の木造の建物の形式にならっている。(翻訳:伊藤達信)
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