武藤弘樹建築設計事務所が設計した、長野市の、住宅の増築計画「神職の文庫」です。
長野市縁辺部の里山に建つ、神職夫妻の住宅の増築計画になります。
敷地は登録文化財である神社山門に面しており、ここに新たな正面玄関、簡易な応接機能、執務機能、祭器具等保管機能、そして夫妻が所蔵する書籍約3,000冊の収蔵および閲覧機能を備えること、さらに神職の住宅に相応しい構えと庭を与え、神社施設の一部として位置づけることを施主は望みました。
また、前面道路と既存母屋には最大で2,170mmの高低差があり、かつて屋外階段で処理していたこの段差を、建物内で緩やかに繋ぐことも求められました。
こうした実際的な条件に加えてわたしたちは、住宅でありながら生活機能を持たないこの建物には、神職の生活ではなく、存在そのものを支える概念的な役割を与えたいと考えました。
周辺環境と調和するように選ばれた切妻屋根の下は、襖で緩やかに区切られた筒状の一室空間です。仕上げ材を暗い色調の木材で統一し、木の胎内のような落ち着きと抽象性を与えるとともに、襖や書棚など複数のレイヤーを重層させることで、奥行きを強調しています。
この「筒」は山門に面した北妻側を正面とし、建具を開放することで最奥部まで見通すことができます。住み手は神職としての振る舞いを、この奥行きの中に垣間見せることで、参拝者=外部と関係します。このいわば演劇性が、形式や所作の洗練によって成り立つ神道という文化、そして神職という生業を象徴すると考えました。