


小笹泉+奥村直子 / IN STUDIOが設計した、神奈川・横浜市の住宅「坂の住宅地の家」です。
この家が立つのは、横浜から電車で10分の丘陵住宅地のほぼてっぺんである。もともとは1950年代に二俣川ニュータウンとして開発された土地で、地形に沿って規則正しく同じくらいのスケールの住宅用土地が整列している。さらに、第一種低層住居専用地域であるのに加えて、北側5mから始まる厳しい斜線制限がかけられている。こうした地割とレギュレーションによって、小ぶりの戸建住宅に覆われた丘陵地となっている。日本のどこかでも繰り返されている、ありふれた丘陵住宅地である。
この丘陵住宅地は、地割とレギュレーションこそ共有しているが、高低差に対応する擁壁の工法、前面の庭や車庫のつくり方、住宅の外形や素材は各土地の所有者に委ねられていて、規範を共有しつつもゆらぎのある町並みになっている。できたての建売住宅付き平地ニュータウンでは画一性が強くてゾッとするような計画者の力を感じてしまうが、ここは住民の暮らしが感じられる穏やかな雰囲気が漂っている。
小さな子どもをもつ夫婦が、この土地を買って家を建てようと決心した。ちなみに建物の予算は税込1950万円である。設計者としては新しく建てられる家もこの町並みには参加すべきだと思われることと、ご家族が準備される予算額を意識すると、木造総二階を基本としたうえで、丘陵地の良さを得るための変形を加えるのが最善と思われた。丘陵にすっぽり包まれて空を見上げる空間の良さをぜひとも拾い取りたい。