SHARE 山口隆建築研究所による”伊勢の住宅”
山口隆建築研究所が設計した”伊勢の住宅”です。
以下、建築家によるテキストです。
伊勢の住宅
敷地は伊勢市内を南北に貫く宮川を臨む小高い崖に位置する。北西に10mほど下がった急斜面には、落葉樹が立ち並ぶ。建物はこの斜面の頂上にわずかに残された平地に計画された。
施主からは、隣接する住宅街とは切り離しながらも、豊かな眺望と自然に満たされた生活の場を要求された。
建物は、南北に延びる敷地に平行に片流れ断面をも2つのボリュームが置かれる。それらは互いに向き合い、切り妻の屋根形状を形作る。さらに矩形のヴォイドが中央を貫き、XYZ軸方向に拡張する。ボリュームとヴォイド相互が複雑に絡み合い空間を構成している。
量塊としての存在感を持たせるために、外部にはシームレスなFRP塗装が施される。崖下から見上げると、2つの白いマッスの存在が木々の中に垣間見え、自然の風景を一層際立たせる。夕刻には西日により映し出された木々の陰影が、白壁のスクリーンに投影される。
中庭を軸に諸室は回遊するように配される。エントランスからは、玉砂利の敷かれた2層分の中庭が垂直方向に伸び、上空からは自然光が差し込む。水平方向にも伸び、先には矩形に切り取られた河畔を眺める。
東棟1Fには、一体となったリビング・ダイニング・キッチンが広がり、生活の中心として機能する。北側の開口からは、伊勢の街と宮川の風景を見渡すことができる。光沢のあるアルミ床は、中庭から差し込む自然光を増幅させ、様々な風景を映し出す。連続するパウダー・バス・シャワースペースは、中庭に面するスリガラスを通した乳白の光で満たされる。
2Fのファミリースペースと寝室は勾配天井を持ち、屋根スリットからの間接光により柔らかく照らし出される。
西棟には車庫と書斎が配される。奥行の深い書斎は、開口の高さを抑えることで、パノラミックな風景を取り込む。西棟は東棟よりもわずかに低く、屋上にはテラスが広がる。
枝先が連なる木々の向こう側には、河川敷やまちの風景を見下ろし、夏には花火を楽しむことができる。
ここでは、建物は一定の閉鎖性を保ちながらも、様々な開口を用意することで、生活の場において光と風景を鮮明に浮かび上がらせている。そうすることで、凡庸になりがちな生活に変化と刺激を与え、周辺環境との豊かな関係性を築いている。