SHARE 小山光+KEY OPERATION INC. / ARCHITECTSによる、東京・目黒区の集合住宅「不動前の空地」
小山光+KEY OPERATION INC. / ARCHITECTSが設計した、東京・目黒区の集合住宅「不動前の空地(ヴォイド)」です。
目黒不動尊の門前にある小さな商店街に面した敷地に計画された5階建ての14戸からなる賃貸集合住宅。
東京都内の、間口が狭く、奥行きの深い敷地に、小さい賃貸住戸を効率よくレイアウトする際に設計者が頭を悩ませるのは、敷地の奥側の住戸の窓先空地の取り方である。
また、前面道路に面している住戸以外は、隣地に面して窓を設けても、隣接する建物の壁が敷地境界まで迫っているため、採光や通風に効果的な開口をとることができず、あまりいい住環境にならないことが多い。
こちらの集合住宅では、このような間口が狭く奥行きの深い都心の敷地で、収益性を高める密度を保持しながら、採光・通風に配慮した快適な住環境を追求した。
敷地の奥行きが17mあるので、まず敷地の前後2つのヴォリュームに分けて、その間に抜けの空間を作り、そこに各住戸へアプローチする階段を設けた。
また2つのヴォリュームの四隅を切り欠いて、6か所のヴォイドを設け、各住戸に光を取り入れ、快適な内部環境を生み出している。このプロジェクトのように、周辺を敷地際まで建物で囲われた敷地において、特に低層階で隣地側の開口は採光上有効な開口部にできなくなることが多い。建物ヴォリュームの角を切り落とし、ヴォイドを設けて隣地との離隔を取ることで、ヴォイドに面する開口は、建築基準法の採光上も有効な開口となる。この集合住宅の延床面積では、窓先空地幅員に2m必要なため、1Fでは屋外通路が間口の1/4近くを占める。屋外通路はピロティも可能なので、2Fからは敷地境界から50cmの位置まで張り出している。上記のヴォイドのひとつにアプローチの屋外通路をつないで、法規上必要な窓先空地とした。窓先空地は避難経路としての機能に目が行きがちだが、居室の採光と通風の確保も目的としている。
この集合住宅にはネコとの共生のアイデアが多く取り入れられている。
ワンルームタイプでも2〜3匹までの多頭飼いができるようにして、飼い主が日中不在でも、ネコが寂しがらないようにしている。エアコンには外出先からリモートで操作できるスマートエアコンを採用して、留守番をしているネコの環境を調整できるようにしている。
リビングや寝室にネコ用トイレを置かなくても済むように、換気扇がついた洗面所にネコトイレを2〜3個置けるようにしている。洗面所への扉など、ネコの動線上の扉にはネコ用小扉をつけて、自由に行き来ができるように配慮している。
玄関に迎えに来るネコの脱走を防ぐために、玄関と居室の間には中扉を設けた。外出前には服に着いたネコの毛を取ったり、落ち着いて身支度ができるようになっている。
ネコが勝手に扉を開けてしまわないように、扉の取っ手はレバーハンドルではなく、握り玉にして、引き戸の必要な箇所にも、鍵を設置して、ネコのアクセスをコントロールしている。
6つの「窓先空地」に面した窓辺には、光と風が通り、ネコが2〜3匹ゆったり昼寝できる大きな窓台を設けている。ここは日光浴をしたり、外の景色を眺めたりできる、人間もリラックスできる空間になっている。
高いところが好きなネコのために、窓枠の上などにネコ用ロフトスペースを設け、ホットカーペットやミニ扇風機にためのコンセントも設置されている。
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以下、建築家によるテキストです。
不動前の空地(ヴォイド)
間口が狭く、奥行きの深い敷地
目黒不動尊の門前にある小さな商店街に面した敷地に計画された5階建ての14戸からなる賃貸集合住宅。
東京都内の、間口が狭く、奥行きの深い敷地に、小さい賃貸住戸を効率よくレイアウトする際に設計者が頭を悩ませるのは、敷地の奥側の住戸の窓先空地の取り方である。
また、前面道路に面している住戸以外は、隣地に面して窓を設けても、隣接する建物の壁が敷地境界まで迫っているため、採光や通風に効果的な開口をとることができず、あまりいい住環境にならないことが多い。
こちらの集合住宅では、このような間口が狭く奥行きの深い都心の敷地で、収益性を高める密度を保持しながら、採光・通風に配慮した快適な住環境を追求した。
6つの「窓先空地」
敷地の奥行きが17mあるので、まず敷地の前後2つのヴォリュームに分けて、その間に抜けの空間を作り、そこに各住戸へアプローチする階段を設けた。
また2つのヴォリュームの四隅を切り欠いて、6か所のヴォイドを設け、各住戸に光を取り入れ、快適な内部環境を生み出している。このプロジェクトのように、周辺を敷地際まで建物で囲われた敷地において、特に低層階で隣地側の開口は採光上有効な開口部にできなくなることが多い。建物ヴォリュームの角を切り落とし、ヴォイドを設けて隣地との離隔を取ることで、ヴォイドに面する開口は、建築基準法の採光上も有効な開口となる。この集合住宅の延床面積では、窓先空地幅員に2m必要なため、1Fでは屋外通路が間口の1/4近くを占める。屋外通路はピロティも可能なので、2Fからは敷地境界から50cmの位置まで張り出している。上記のヴォイドのひとつにアプローチの屋外通路をつないで、法規上必要な窓先空地とした。窓先空地は避難経路としての機能に目が行きがちだが、居室の採光と通風の確保も目的としている。屋外通路につながっていないヴォイドも、住戸の快適性を確保するために効果的な「窓先空地」と言える。またヴォイドのひとつは隣の集合住宅の窓先空地に位置を合わせることで、空間を共有している。
「窓先空地」をつなぐ住戸内の抜け
2つのヴォリュームの四面を構造壁とし、その端部を開放することで、開放的な内部環境を実現した。窓先空地の屋外通路の上部の壁は、押出成形板にすることで荷重を減らしている。前面道路側も4階まで構造壁が立ち上がっており、その表面はウォータージェットによる斫り仕上げとして、通りに対して特徴的な表情のファサードを形成した。前面道路側のヴォイドに面する開口は通りからセットバックしており、斫られた壁が道行く人の注意をひきつけ、壁の裏にあるベッドルームのプライバシー性を高めている。
ワンルーム条例と住戸レイアウト
目黒区のワンルーム条例では40 ㎡未満の住戸を10 戸以上にすると、駐輪場などが必要になるため、事業性を考慮して40 ㎡未満の住戸を9 戸以内に抑えている。前面道路に避難できる道路側のヴォリュームは、40 ㎡ある1F 以外を2 つの住戸に分けて、40 ㎡未満の住戸を8 戸確保した。奥側のヴォリュームは、40 ㎡以上の住戸を1F から4F までとして、日影でヴォリュームが削られる5F は40 ㎡未満の住戸とした。奥の区画は分割せず、窓先空地への屋外通路は片側だけになるようにした。
開放的な壁式構造
2つのヴォリュームの四面を構造壁とし、その端部を開放することで、開放的な内部環境を実現した。窓先空地の屋外通路の上部の壁は、押出成形板にすることで荷重を減らしている。前面道路側も4階まで構造壁が立ち上がっており、その表面はウォータージェットによるはつり仕上げとして、通りに対して特徴的な表情のファサードを形成した。この壁の内側はプライバシー性の高いベッドスペースとなっている。前面道路側のヴォイドに面する開口は通りからセットバックしており、高圧ジェットで目荒らしされた壁が道行く人の注意をひきつけ、プライバシー性を高めている。
ネコと共生できる賃貸集合住宅
2020年現在、日本国内のネコの飼育頭数は1000万匹に迫る勢いで、2017年には初めてネコがイヌの飼育頭数を上回った。昨今のコロナウィルスによるライフスタイルの変化に伴い、ペットに癒しを求める人が増えており、今後もネコの飼育頭数の増加が見込まれる。
一方で、東京23区内のマンション、アパート賃貸物件の中で、ペットの飼育可能な物件の数は全物件の12%程度に留まっており、入居中や退去時のトラブルを危惧するためか、数は増えていないようである。特にネコはペット可物件でも飼育不可としている場合が多い。
ネコを飼いたくても飼えない、無断で飼う、飼育放棄等の社会的な問題に一石を投じるべく、この集合住宅は、ネコとの共生を想定した賃貸住宅として企画された。
かつてネコは家の中と外を自由に出入りできる様に飼っていたが、都心では近隣住人とのトラブルになったり、感染症にかかるリスクから、現在は完全室内飼いが基本だ。
この集合住宅にはネコとの共生のアイデアが多く取り入れられている。
ワンルームタイプでも2〜3匹までの多頭飼いができるようにして、飼い主が日中不在でも、ネコが寂しがらないようにしている。エアコンには外出先からリモートで操作できるスマートエアコンを採用して、留守番をしているネコの環境を調整できるようにしている。
リビングや寝室にネコ用トイレを置かなくても済むように、換気扇がついた洗面所にネコトイレを2〜3個置けるようにしている。洗面所への扉など、ネコの動線上の扉にはネコ用小扉をつけて、自由に行き来ができるように配慮している。
玄関に迎えに来るネコの脱走を防ぐために、玄関と居室の間には中扉を設けた。外出前には服に着いたネコの毛を取ったり、落ち着いて身支度ができるようになっている。
ネコが勝手に扉を開けてしまわないように、扉の取っ手はレバーハンドルではなく、握り玉にして、引き戸の必要な箇所にも、鍵を設置して、ネコのアクセスをコントロールしている。
6つの「窓先空地」に面した窓辺には、光と風が通り、ネコが2〜3匹ゆったり昼寝できる大きな窓台を設けている。ここは日光浴をしたり、外の景色を眺めたりできる、人間もリラックスできる空間になっている。
高いところが好きなネコのために、窓枠の上などにネコ用ロフトスペースを設け、ホットカーペットやミニ扇風機にためのコンセントも設置されている。
ネコの運動には上下の動線を確保すると良いとされているため、ネコの運動能力に合わせて高さをカスタマイズできるネコステップはこのロフトに上がる動線にもなっています。室内の仕上げには、滑りにくく汚れに強いフローリングや、引っかきキズと汚れに強い壁紙を使用しています。窓際の丸柱には爪とぎ用の麻縄を巻くことができるようにしている。
この集合住宅では人もネコも快適に住むことが出来る環境を提供し、ネコ好きな住民は、お互い助け合いながら暮らせる、ネコを介したコミュニティが育むことができる。
ポストコロナの建築
昨今のコロナの状況はまだまだ先が見えないがが、設計をしていて痛感するのは、換気、通風を見える化することがかなり求められるという事だ。機械換気でも機能的には問題ないはずだが、飛行機や新幹線ではそのプロセスが見えないために、どれだけ効率よく換気されているかをアナウンスでことさら強調している。14世紀のペスト後のルネサンスの時期にも、中世の狭く窮屈な住環境を改善して、健康的、衛生的な建築、都市がつくられたが、今回のコロナ後も、窓、バルコニー、屋上、中庭といった屋外空間をいかに建築に組み込むか、また広場や公園やオープンスペースをいかに都市に取り込むかがテーマになってくると思われる。この集合住宅では、奥行きの深い通風の悪い敷地に対応した空地を設けることで、自然な換気、通風を確保している。
また2人用の住戸は当初大きなワンルームにすることが求められたが、2人で快適に生活するためにお互いに距離が保てる回遊式の間取りにした。その結果、2人がそれぞれ在宅勤務でミーティングしなければならない場合も、お互いの音を気にせずに快適に仕事ができる環境が実現できている。またネコと共生できる環境は、ポストコロナの状況で、ペットに癒しを求める人々のニーズに応えている。
■建築概要
敷地:東京都目黒区
用途:集合住宅
竣工:2020.08
建物名称:Tipetto目黒不動前
企画:株式会社アスコット
設計:小山光+キー・オペレーション
施工:中島建工
写真:Nacasa & Partners Inc.
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・壁 | 外壁 | |
内装・床 | 床 | |
内装・壁 | 壁1 | |
内装・壁 | 壁2 | |
外構・床 | 床 |
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