【特別寄稿】西澤徹夫による、新宿伊勢丹本館でのTom Sachs : RETAIL EXPERIENCE展のレビュー「Tom Sachs – 展示と陳列のExperience」
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【特別寄稿】西澤徹夫による、新宿伊勢丹本館でのTom Sachs : RETAIL EXPERIENCE展のレビュー「Tom Sachs – 展示と陳列のExperience」

【特別寄稿】西澤徹夫による、新宿伊勢丹本館でのTom Sachs : RETAIL EXPERIENCE展のレビュー「Tom Sachs – 展示と陳列のExperience」 photo©architecturephoto

Tom Sachs – 展示と陳列のExperience

text:西澤徹夫

 
昨年のティーセレモニー展(東京オペラシティアートギャラリー)に続いて、日本では2回目となるTom Sachs : RETAIL EXPERIENCE 展が新宿伊勢丹本館で開催されている(※会期は2020年11月30日まで)

ここで展示されているチェア、テーブル、ランプ、キャップ、ノート、シャツ、バッグ、などはすべて手製の彫刻作品であり、かつ全て購入可能な日用品でもある。「店舗体験」という展覧会名が示す通り、百貨店の他のプロダクトと同じように商品を手に取り、吟味してショッピングすることができる展覧会というわけだ。

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そのうえで月面をテーマに(宇宙旅行はトム・サックスに通底するテーマになっている)、米ソの宇宙競争を下敷きにしたチェス盤(駒にはそれぞれ米ソの宇宙飛行士の名前がついている!)や月面着陸船を描いたイサム・ノグチのランプシェード、月面で絶対になびかなさそうな国旗など、相変わらず立体としてのバリエーション、ユーモア、その先に見え隠れするスタジオの哲学は、どれも見ていてとても楽しい。

トム・サックスはこれまでナイキとのコラボレーションを行ってきたが、かつてアンディ・ウォーホルがブリロボックスを店舗陳列に似せてギャラリーに展示してみせたように、彫刻/プロダクト、展示/陳列、鑑賞者/消費者の区別はもうほとんど無意味になった。

現代美術の作家がハイブランドとコラボレーションする例など既にたくさんある。だから表現のジャンルや思想やマーケットの境界を行き来するクリエイションそのものに面白さを見出すというよりは、境界が混じり合ったときに生じる体験がどのようにデザインされるかということの方がむしろ重要だ。なぜなら、経験の多様さと特殊性こそがぼくたちをより柔軟にこの世界をサバイブしていくに必要なスキルを与えてくれるのだし、とくに、(パンデミックと加速する分断のあとに気づくことになった)これまで当然のこととして受け入れてきた諸制度の固定化から脱するための手段としてのデザインの重要性はますます高まっていると思われるからだ。

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【特別寄稿】西澤徹夫による、新宿伊勢丹本館でのTom Sachs : RETAIL EXPERIENCE展のレビュー「Tom Sachs – 展示と陳列のExperience」 photo©西澤徹夫
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だからトム・サックスは、ギャラリーに置いてあれば作品とみなされてしまうものが、百貨店に置いてあれば商品とみなされてしまうという制度的な枠組みを悪用してみせるのだが、ここでとても気になることがあった。展覧会の内部では彫刻/プロダクトといった撹乱が起きているのに対して、RETAIL EXPERIENCE 展の会場(イセタン ザ スペースは婦人服売場と化粧品売場の干渉部分にある)が躯体を背にした配置になっていて、展覧会そのものが「百貨」を撹乱させる機能はほとんどないのだ。

目の前の化粧品売り場の消費者と展覧会の鑑賞者はまったく交わることがない。そして全体を見てみれば、相変わらず1階は化粧品売り場で、上階にいくに従って婦人服から生活用品へ、最上階がレストランとなっていく階構成はどの百貨店でも見慣れたものになっている。

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もちろんこれが消費者の行動と商品陳列の最適解として編み出されたものであることは承知の上で、それでもやはり、ぼくたちが必要としている新しい経験であるかというと疑問が残る。11箇所ものウィンドウディスプレイや1階のストリートや2階のプロモーションスペースに、点を線や面にするようにプロダクトを配置してあるのは、このような構成に対するいくらかの抵抗の痕跡としてみることができるかも知れない。しかし一方で会場へのアプローチのなかで、これまで気にも留めなかったような所与の固定化された体験の堅苦しさを、華やかなディスプレイとは裏腹に、感じさせることになった。

RETAIL EXPERIENCE 展は、与えられたスペースを十分に変容させたが、同時に、現行のシステムが分節する世界を、全く別の空間分布として捉え直す可能性を逆説的に示唆しているように思える。


西澤徹夫(にしざわ てつお)
建築家。1974年京都府生まれ。2000年東京芸術大学修士課程修了後、2000-2006年青木淳建築計画事務所。2007年に西澤徹夫建築事務所開設。東京国立近代美術館所蔵作品リニューアル(2012年)、西宮の場合(2016年)、京都市京セラ美術館(2019年)、八戸新美術館(2020年予定)、ほか、Re: play 1972/2015―「映像表現 ’72」展、再演(2015年)、窓学10周年記念 窓学展:窓から見える世界(2017年)、シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート(2019年)等、展覧会会場構成を多く手掛ける。


■展示概要
会期:2020年9月29日(火)~11月30日(月)
会場:伊勢丹 新宿店本館2階 ISETAN THE SPACE
住所:東京都新宿区新宿3丁目14番1号
企画協力:小山登美夫ギャラリー

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