SHARE 八島正年+八島夕子 / 八島建築設計事務所による、千葉・流山市の住宅「おおたかの森の家」
八島正年+八島夕子 / 八島建築設計事務所が設計した、千葉・流山市の住宅「おおたかの森の家」です。本記事末尾には、2021年に発売された八島正年と八島夕子による書籍『10の住まいの物語』の概要も掲載します。
かつて大鷹が棲んでいたことから名付けられた町は大規模な開発により切り拓かれ、幾筋もの道路が敷設された真新しい住宅地へと様変わりした。広大な更地となった土地を見た時、その一角に、以前の姿を思わせる小さな森をつくることができないかと考えた。
「膨大な蔵書の収容と野鳥の観察ができる家が欲しい」というのが建主からの依頼だった。本はいつでも手に取りやすいよう収納し、どこにいても鳥のさえずりが聞こえる。イメージしたのは「森の中の図書館」だ。
庭づくりへの与条件は野鳥が滑空しやすい長いスペースがあること、常緑落葉、大小さまざまな種類の植栽と猫やカラスに狙われにくい見通しのよい水場をもち、そして観察用の大きな窓が居間や食堂に面していること。しかし周囲は平坦な住宅地である。大開口と引き替えにプライバシーを手放しては寛げる住宅にならない。かといって高い塀で囲われたコートハウスでは野鳥が寄りつかなくなってしまう。そこで建物を少し沈め、開口の位置を下げつつ低い塀で囲うことで見通しの良さとプライバシーの確保を両立することにした。
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以下、建築家によるテキストです。
かつて大鷹が棲んでいたことから名付けられた町は大規模な開発により切り拓かれ、幾筋もの道路が敷設された真新しい住宅地へと様変わりした。広大な更地となった土地を見た時、その一角に、以前の姿を思わせる小さな森をつくることができないかと考えた。
「膨大な蔵書の収容と野鳥の観察ができる家が欲しい」というのが建主からの依頼だった。本はいつでも手に取りやすいよう収納し、どこにいても鳥のさえずりが聞こえる。イメージしたのは「森の中の図書館」だ。
庭づくりへの与条件は野鳥が滑空しやすい長いスペースがあること、常緑落葉、大小さまざまな種類の植栽と猫やカラスに狙われにくい見通しのよい水場をもち、そして観察用の大きな窓が居間や食堂に面していること。しかし周囲は平坦な住宅地である。大開口と引き替えにプライバシーを手放しては寛げる住宅にならない。かといって高い塀で囲われたコートハウスでは野鳥が寄りつかなくなってしまう。そこで建物を少し沈め、開口の位置を下げつつ低い塀で囲うことで見通しの良さとプライバシーの確保を両立することにした。
門を開くと緑豊かなアプローチから緩やかな傾斜で玄関へと導かれ、そこからさらに二段の階段を下りることで居間のレベル(GL-700)となる。居間はコーナーサッシによってアプローチ兼庭へと拓く。サッシはfix部を多くとった木製建具で、床上950mmから始まり高さ1605mm、幅はL型にそれぞれ4m超とした。
椅子に座った際に地面近くの歩く鳥や植物越しの空を見上げることができ、かつ、歩行者からの視線を気にする必要もない。この開口をつくるため1階をRC造、2階は木造という混構造を選択した。窓先の庭は築山を設け、高低差によって地上近くの鳥を見やすく、かつさまざまな植生を愉しめるよう作庭した。
東南の方向に大開口を設けたため建築的には、庇と日除けの経木簾戸、さらに輻射パネルによる冷房など快適な温度調節が可能になるよう設えたが、同時に数年後には落葉樹が生長し夏には木陰を、冬には日差しを届けてくれるような植栽による環境作りも想定している。
プランは台所や収納、階段を中央に配置したセンターコア型とし、周囲を回遊できるような形状とした。東南以外の面は風通しを考慮しつつも開口量をおさえ、通路部分の壁面を多くすることで書棚の量を確保している。これは紫外線による書籍の傷みを考慮してのことでもある。
また、開口量の他に天井高さや仕上げの素材を変えることで住宅の中に明度の異なる空間が何種類かできるようにした。その時々の気分によって読書をする居心地のよい場所を選ぶ楽しみを用意したいと考えたからだ。二階も二つの寝室と仏間、水回りとプライベートな空間が並ぶがこちらも回遊できるプランとし、また居間と吹き抜けで繋ぐことで家族の気配を感じられるよう計画した。
地区計画により建物位置を後退させた道路面は植栽によってコンクリート塀の印象が和らいだ。今後はさらに植物が生長し、元々、木が植わっていた場所に家を建てたような、最終的には木に埋もれて建物が見えなくなるくらいの姿へ変貌していくことを期待している。
■建築概要
名称:おおたかの森の家
所在地:千葉県流山市
設計:八島建築設計事務所
主用途:専用住宅
構造:混構造(1階RC造、2階木造)
施工:株式会社 航洋建設
協力:植栽 株式会社イケガミ
敷地面積:256.2㎡
建築面積:94.95㎡
延べ床面積:168.07㎡
竣工:2018年12月
写真:川辺明伸
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・壁 | 1階外壁 | |
外装・壁 | 2階外壁 | ガルバリウム鋼板平葺き |
内装・床 | 居間床 | |
内装・床 | 居間全般 | |
内装・壁 | 居間全般 | EP塗装 |
内装・天井 | 食堂天井 | ワン縁甲板張りオイル塗装 |
内装・建具 | サッシ1 | 木製建具:制作 |
内装・建具 | サッシ2 | 一部木製建具、プロファイルウィンドウ(アイランドプロファイル) |
内装・建具 | サッシ3 |
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八島正年と八島夕子による書籍『10の住まいの物語』の概要
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住まいには、その人の生き方や価値観がそのまま見えてくる。
この本は八島建築設計事務所が手がけたライフスタイルの異なる10軒の住まいを訪ね、それぞれの家族の家を建てることになったきっかけや建築中の思い、現在の暮らしぶりを豊富な文章と写真で紹介している。〈普段、住宅をつくる際には基本設計の段階から私たちは手書きのパースを描くのだが、そこにはできるだけ暮らしのイメージを書き込むようにしている。食卓の風景や庭で過ごす時間、帰宅時に自分の家がどんな様に見えるか。人生で初めて建物をつくるという作業に関わることになった施主がより具体的に自分の生活をイメージしやすいようにするためだ。つくるのは暮らしを営む器であり、そこに暮らすことで「家」は「住まい」へと変わる。
この書籍をつくるにあたって、改めて自分たちの設計した建物を「どうやって伝えるか」と思索したとき、設計者の目線だけでなく、施主の暮らす家へ初めて訪れたライターの視線から見える建物の印象や、インタビューによって家族がどんな家を求めてそして現在の暮らしぶりはどんな様子か、日常生活を切り取った写真と共に表現する方法を選んだ。そこへ設計者自身による水彩画のイメージスケッチ、設計の解説、調度品なども描き込んだ緻密な俯瞰図によって建築の特徴を表すなど様々な表現を追加することで、一般の方だけでなく建築を専門としている方にも楽しんでいただける本になったのではないかと思う。「家」から「住まい」へと変貌を遂げる魅力を感じていただけると嬉しい。〉掲載物件
森の中の図書館:おおたかの森の家
住まいは人生の器:神木本町の家
庭を取り込むリビング:武蔵野の家
どこに座ってもいい感じ:深沢の家
伸びやかな終の住処:辻堂の家
三世代がつながる暮らし:続・辻堂の家
猫と楽しむもうひとつのリビング:吉祥寺南町の家
住み継ぐ暮らし:梶原の家
行き来する暮らしかた:葉山一色の家+野尻湖の小さな家
丘の上の白い方舟:山手町の家
■書籍概要
『10の住まいの物語』
出版社:エクスナレッジ (2021/1/23)
発売日:2021/1/23
言語:日本語
単行本(ソフトカバー):224ページ