SHARE 玉井洋一による連載コラム “建築 みる・よむ・とく” 第3回「吹出口のひと言」
建築家でありアトリエ・ワンのパートナーを務める玉井洋一は、日常の中にひっそりと存在する建築物に注目しSNSに投稿してきた。それは、誰に頼まれたわけでもなく、半ばライフワーク的に続けられてきた。一見すると写真と短い文章が掲載される何気ない投稿であるが、そこには、観察し、解釈し、文章化し他者に伝える、という建築家に求められる技術が凝縮されている。本連載ではそのアーカイブの中から、アーキテクチャーフォトがセレクトした投稿を玉井がリライトしたものを掲載する。何気ない風景から気づきを引き出し意味づける玉井の姿勢は、建築に関わる誰にとっても学びとなるはずだ。
(アーキテクチャーフォト編集部)
吹出口のひと言
外壁に沿わせた排気ダクトの吹出口の先端に、ステンレスの円板が貼られていた。
それはおそらく汚れやすいタイル面を油分や熱から保護するためだけれど、ステンレス板を四角ではなく丸にしたことはとても気が利いていた。吹出口だけにマンガの「吹き出し」か、とツッコミたくなったが、歩道の植栽や看板の書体などと相まって銀色に光る満月のような何とも言えない風情があった。
この排気ダクトは建物に入居するテナントの業態(たぶん飲食店)から事後的に必要になって渋々つけられたと推察される。しかしここでは単なる「対応」で終わらせずに外壁の汚れ防止や歩行者への気遣いなど複数の配慮が重ねられているのがとても良い。そういった何気ない工夫や知性は尊いもので見かけると得した気分になる。
普段、現場監理をやっていると想定外の状況に出くわすことがある。
それは、リノベではさらに顕著だ。予算と時間があれば思うように改めることもできるが、そういった状況を現場の「副産物」と捉えてポジティブにデザインチャンスと読み替えて楽しむこと。またその副産物を建築だけでなく人や町のためにも使えないか考えてみること。
つくり手のそういう小さな手間の総体が町を少しずつ良くしていくのではないだろうか。
以下の写真はクリックで拡大します
玉井洋一
1977年愛知県生まれ。2002年東京工業大工学部建築学科卒業。2004年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。
2004年~アトリエ・ワン勤務。2015年~アトリエ・ワン パートナー。