工藤浩平建築設計事務所が設計した、東京・世田谷区の住戸改修「J邸」です。70年代の坂倉事務所設計の住戸を改修、壁構造で間仕切りも変更不可な条件に対し施主固有の“暮らしの軌跡”を解像度高く抽出し設計する方法を考案、断片的な生活の集まりで全体の空間をつくる事が意図されました。
1970年代に坂倉準三建築研究所がつくった集合住宅の一室のリノベーション計画である。
集合住宅は誰が入居するかわからない。建築のストラクチャーを用意することはできるが、住宅に本来望まれる、個別の解像度の高い生活には対応することが難しい、そういった儚さをもったプログラムである。
この物件はRC壁構造でもあり、間仕切りさえも編集することが不可能だった。そこで、私たちはクライアントとの対話を重ねていくことで彼らだけの生活の在り方を高解像度で理解し記述することで、時空を越えて現代の生活と室内の空間の関係を考えようとした。
具体には歯を磨いた後の寝室までのシークエンスを大事にしたい、気持ちの良い光の環境で料理をしたい、北側の落ち着いた衣装部屋で服を眺めながら選び、着替えたいといった彼らにしかない暮らしの軌跡があった。私たちはこれを「生活のストラクチャー」と捉え、様々な角度で全体と部分をバランスよく計画した。
それぞれの場所の光の入り方や量、開口の大きさや位置、部屋のプロポーションを見ながら、生活のストラクチャーを見出し、マテリアルを選び、家具、建具を設計した。隣の部屋の奥にみえる光景や建具の開口部から見える視線の重なりによって、ツヤ感やザラザラ感といった身体性をもった言語とともに、様々なマテリアルが机上に並んでいった。
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以下、建築家によるテキストです。
生活のストラクチャーを記述する
1970年代に坂倉準三建築研究所がつくった集合住宅の一室のリノベーション計画である。
集合住宅は誰が入居するかわからない。建築のストラクチャーを用意することはできるが、住宅に本来望まれる、個別の解像度の高い生活には対応することが難しい、そういった儚さをもったプログラムである。
この物件はRC壁構造でもあり、間仕切りさえも編集することが不可能だった。そこで、私たちはクライアントとの対話を重ねていくことで彼らだけの生活の在り方を高解像度で理解し記述することで、時空を越えて現代の生活と室内の空間の関係を考えようとした。
具体には歯を磨いた後の寝室までのシークエンスを大事にしたい、気持ちの良い光の環境で料理をしたい、北側の落ち着いた衣装部屋で服を眺めながら選び、着替えたいといった彼らにしかない暮らしの軌跡があった。私たちはこれを「生活のストラクチャー」と捉え、様々な角度で全体と部分をバランスよく計画した。
それぞれの場所の光の入り方や量、開口の大きさや位置、部屋のプロポーションを見ながら、生活のストラクチャーを見出し、マテリアルを選び、家具、建具を設計した。隣の部屋の奥にみえる光景や建具の開口部から見える視線の重なりによって、ツヤ感やザラザラ感といった身体性をもった言語とともに、様々なマテリアルが机上に並んでいった。
断片的な生活の集まりだけで、全体の空間を設計し、生活の固有さに寄り添うという、ひとつの解法を得る経験となった。
■建築概要
用途:共同住宅
設計:工藤浩平、小黒日香理(工藤浩平建築設計事務所)
不動産:佐竹雄太、川原聡史(創造系不動産)
施工:住建トレーディング東京支店
延床面積:118m2
設計:2020年5~7月
施工:2020年7月~9月
写真:大竹央祐
『KJ2022年4月号 特集:工藤浩平建築設計事務所』
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(リードテキストの一部)
「普通」であることと、「特別」であることの先に、
日々の暮らしのなかで、ある人が当たり前だと思っていることが、わたしたちには特別だと思えたり、あるいはその逆に、わたしたちが普通だと思うことが、誰かにとっては特別なことに感じられたりする。今回、特集を組んでもらうにあたって、4年間、試行錯誤しながら設計してきたプロジェクトをまとめて振り返ってみると、ひとつひとつのプロジェクトは、わたしたちとクライアントの間にある「普通」と「特別」のすれ違いをどう建築にしていくのか、その右往左往の結果であったのかもしれない。「普通」と「特別」は人によって違う、なんてことは今のご時世、当たり前のことなのだろう。だけど、当たり前のことを改めて考えてみたいのだ。
「普通」と「特別」の関係。例えば、建築における構成は、プログラムにふさわしいカタチと、その地域や場所にふさわしいカタチのせめぎ合いの結果、生まれる。プログラムにふさわしいカタチは、一般的に普通と考えられているカタチで、地域や場所にふさわしいカタチは、一般的には特別だと考えられているカタチなのだろう。でもクライアントからすれば、自分達の習慣から生まれてくるカタチの方が普通で、一般的に考えられているカタチは効率は良さそうに思えるけど、なんだか身体が馴染まない気がするのかもしれない。
わたしたちが「地域の習慣」や「地域の特性」と呼んでいるものは、こうした人と人の間にある「普通」と「特別」のすれ違いを、別のことばで言い表したものではないのだろうか。「普通」と「特別」の認識のずれを「地域の特性」という一言で片付けてしまって、狡猾に地域特性の一部を借りて設計に取り入れるのもいいのだろうけど、果たしてそこに、リアリティはあるのだろうか。
KJ2022年4月号 特集:工藤浩平建築設計事務所
サイズ:A4版変形88ページ
定価:1,650円(本体1,500円)
発行日:2022年3月15日
ISBN:978-4-904285-88-6
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