元木大輔 / DDAAが設計した、東京・港区の、オフィス改修「KOMORI GINZA OFFICE」です。
老舗ブランドの家具使用の要望から計画が始まりました。建築家は、“高級”に留まらない多義的な状態を求めて、手に触れる部分を丁寧に作り触れない部分はラフに仕上げる方法を考案しました。そして、名作に新しい視点や価値を見出す事も目指しました。
KOMORIは、都心ビルの1フロアをリノベーションしたセカンドオフィスだ。
使い方以外のクライアントからの指示された具体的なオーダーは、イタリアの老舗ブランド、ポルトローナ・フラウのソファを入れたいという一点のみだった。
レザーやクッションの手触り、ソファの座り心地の良さ、木目の美しさ、それらを丁寧に仕上げれば仕上げるほどに、丁寧に仕事をすればするほどに、クオリティは上がるが「高級品」になってしまう。高級であることはもちろん悪いことではないが、できればひとつの価値に収束することなく、もっと多義的な状態を作りたいというのは、僕たちのデザインにおける一貫したテーマだ。
今回試みたのは、高級さに収束しない上質さ、ラフではあるがチープではない質、そして上質さとラフさが同居できる状態を保つことだ。「AではあるがBではない」というレトリックを意識してデザインをすることで、明言はさけつつも、ある輪郭を持った質を作ることを試みる。そして上質が担保されている名作プロダクトに対して、一つのコンセプトに収束しない何か新しい視点や価値を見出せないかということも考えながら設計した。
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以下、建築家によるテキストです。
「AではあるがBではない」
KOMORIは、都心ビルの1フロアをリノベーションしたセカンドオフィスだ。
使い方以外のクライアントからの指示された具体的なオーダーは、イタリアの老舗ブランド、ポルトローナ・フラウのソファを入れたいという一点のみだった。
今回採用したのは、現在のステレオタイプなアームチェアの原型ともいえるクラシックな「Vanity Fair」に加え、ソファとソファベッドの中間のような存在である「Scarlett」の2つの家具だ。どちらも紛れもない名作だが、得てして上質な家具は扱いが難しいと感じる。上質さは容易に「高級さ」に繋がり、空間全体の価値観を単一なものに規定してしまうからだ。
レザーやクッションの手触り、ソファの座り心地の良さ、木目の美しさ、それらを丁寧に仕上げれば仕上げるほどに、丁寧に仕事をすればするほどに、クオリティは上がるが「高級品」になってしまう。高級であることはもちろん悪いことではないが、できればひとつの価値に収束することなく、もっと多義的な状態を作りたいというのは、僕たちのデザインにおける一貫したテーマだ。
今回試みたのは、高級さに収束しない上質さ、ラフではあるがチープではない質、そして上質さとラフさが同居できる状態を保つことだ。「AではあるがBではない」というレトリックを意識してデザインをすることで、明言はさけつつも、ある輪郭を持った質を作ることを試みる。そして上質が担保されている名作プロダクトに対して、一つのコンセプトに収束しない何か新しい視点や価値を見出せないかということも考えながら設計した。
この部屋は、手に触れる部分はできるだけ丁寧に作り、触れない部分は極めてラフに仕上げている。
手に触れる部分とは、「Vanity Fair」や「Scarlett」のような家具に加え、扉の開け締めをする把手、ワイングラスを置くための壁付けの棚板などだ。丸いガラステーブルには触り心地のすぐれた柳宗理のチェアを合わせた。扉につく把手は、特徴的なオリーブ木目を活かし、表面に貼った突板をそのまま曲げてツマミとしている。壁付けの棚は同じクライアントのために以前作ったテーブルに使った栗の無垢材を縦割りにして転用している。
対して空間はできるだけラフに作る。天井はデッキプレートむき出しの天井は既存の錆止めの赤をそのまま活かし、ガラステーブルの骨組みにも天井と同色の錆止めを用いた。窓際の壁は解体したまま既存のALCのままだが、手前に大きな花壇をつくることで直接手がふれる範囲から少し距離をとっている。
また、集中して仕事に取り組める環境をつくるため、出入り口やトイレ、シンク、ワインセラーなどはすべて大きな扉に入れた。扉は鏡面に仕上げたステンレスを使っており、すべて閉めるとただの壁のようになる。オリーブの扉も同様、出入り口と収納を等価にとりつけることで、すべて閉めると一枚の壁に見えるように仕上げている。
■建築概要
クライアント:KOMORI
所在地:東京都港区
用途:オフィス
設計:DDAA
プロジェクトチーム:元木大輔 / 滝美彩喜
施工:古賀造
延床面積:57.86m²
竣工:2021年11月
撮影:長谷川健太