SHARE 建築家の平田晃久と板坂留五が参加したシンポジウム「建築家の夢のタイル」の動画が、LIXILのサイトで期間限定で無料配信。其々が考案したオリジナルタイルの詳細な背景や思想に加え、建築や都市への展開の可能性も語られる
- 日程
- 2022年8月1日(月)–8月31日(水)
建築家の平田晃久と板坂留五が参加したシンポジウム「建築家の夢のタイル──新しい風景をつくるエレメントを創作せよ」が、LIXILのサイトで期間限定で無料配信されています。其々が考案したオリジナルタイルの詳細な背景や思想に加え、建築や都市への展開の可能性も語られています。公開期間は、2022年8月31日(水)まで。また、本記事では、平田と板坂が考案したオリジナルタイルの写真も掲載します。【ap・ad】
建築家の夢のタイル──新しい風景をつくるエレメントを創作せよ
平田晃久(建築家)×板坂留五(建築家)『新建築住宅特集』とLIXILは、これまで協働し、住宅のエレメントを考え直す企画として、その機能だけではなく、それぞれのエレメントがどのように住宅や都市や社会に影響をもたらしてきたのかを探り、さまざまな記事を掲載してきました。
2022年4月12日は日本で「タイル」という名称に統一されてから、ちょうど100年目。
それを記念した企画として、気鋭の建築家2人にこれからの住宅・建築・都市を踏まえた夢のタイルを構想いただき、実際にLIXILやきもの工房により制作をし、その経緯を「新建築住宅特集」2022年4月号に掲載いたしました。本動画は、その内容を踏まえ、新建築住宅特集 編集長の西牧氏を司会に、既存概念にとらわれず可能性を模索した「夢のタイル」制作のプロセスと共に、その思想とかたち、これからの建築などについていお二人にお話いただいた内容を収録したものです。
(2022年6月22日 INAXライブミュージアムにて収録)
平田晃久のプロフィール
平田晃久(ひらた・あきひさ)
建築家、京都大学教授。1969年1971年大阪府に生まれる。1997年京都大学大学院工学研究科修了。伊東豊雄建築設計事務所勤務の後、2005年平田晃久建築設計事務所を設立。2015年より京都大学赴任。現在、京都大学教授。
主な作品に「桝屋本店」(2006)、「sarugaku」(2008)、「Bloomberg Pavilion」(2011)、「太田市美術館・図書館」「Tree-ness House」(2017)、「9h Projects」(2018-)、「Overlap House」(2018)、「八代市民俗伝統芸能伝承館」(2021)など。
また、バウハウス(ドイツ)、ハーバード大学(米国)、Architecture Foundation(英国)などで講演。そのほか、東京、ロンドン、ベルギーなどで個展、MoMA(二ューヨーク近代美術館)にて「Japanese Constellation」展(2016)を合同で開催。ミラノサローネ、アートバーゼルなどにも出展多数。
板坂留五のプロフィール
建築家。1993年兵庫県生まれ。2016年東京藝術大学美術学部建築科卒業。18年同大学大学院美術研究科建築専攻修了。その後RUI Architects設立。受賞歴/Architects of the Year 2019入選、Under 35 Architects exhibition 2021入選。
シンポジウムの中で語られる、平田晃久が考案した「からまりタイル」
以下の写真はクリックで拡大します
日本で「タイル」という名称に統一されて、今年で100年だという。もちろん古代エジプトからタイル的なものはあったようだが、何か100年前くらいに、タイル的なものをめぐってある種の盛り上がりがあったことは確かなのだろう。1920~30年代といえば、いわゆるモダニズムの建築のスタイルが出揃う頃だ。そう考えてみると、モダニズムが世界に広まったのと、公衆衛生の概念が関係していたことを思い出す。たとえばアルヴァ・アアルトのパイミオのサナトリウムのように、結核などの病原菌を避ける、埃が溜まりにくいツルツルとしたシンプルな表面をもった建築や調度品のあり方が追求されていたわけだ。
(中略)
100年も遡らなくても、僕の幼い頃(というと50年近くの昔になるのだが)、祖父母の家に行くと、長い年月を経た環境に染みついた、何とも表現し難いいろいろな匂いがしたものだ。そんな環境の中では、ツルツルピカピカの未来は、やはりひとつの夢であり得ただろう。タイル、という言葉の響きが、来るべき明るい未来と結びついた、憧れを含んだ見知らなさの感覚と結びついていた頃。
100年後、私たちの環境は、ツルツルピカピカのものに覆い尽くされつつある。もはや誰も、そういう滑らかな表面だけでできた未来について、憧れをもって語ることはない。むしろ今、現代のパンデミックによって、半ばディストピアのように、そういうツルツルピカピカの現実を生きることを余儀なくされているわけだ。しかも私たちは、そんな無菌環境が自らの生そのものを脆弱なものにしてしまうということをすでに知っている。人間の身体のあらゆる表面に微生物はおり、むしろそのような他者との良き共存こそが、生きているということの根幹をなしているからだ。
そんな時代における、「夢のタイル」とは何か。「ツルツル」した「衛生的」な表面をつくり出すタイルというものが、同時に、ある毛深さをつくり出すような、多孔質なからまりしろになったとしたら。この「からまりタイル」は、そんな夢想をかたちにしたものである。
シンポジウムの中で語られる、板坂留五が考案した「1未満タイル」
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絵を描く時、絵具を塗り重ねながら徐々に全体をかたちづくるように、建築も、風景の中にどうにあるべきかを都度考えながら、要素を足し引きすることで全体をかたちづくっていきたい。街の中でも、自宅の部屋の一角でも、あらゆる要素が絡み合いながらその場はできている。そのような風景の中で、全体像がすぐに想像できてしまうような唯一の方法を選ぶのではなく、いくつもの状況に対する選択の積み重ねによってまとまりをつくっていく必要がある。
タイルは、複数枚の集合として床や壁に敷き詰める建築材料であり、そのほとんどが1枚ごとにはっきりと輪郭を持ち、目地で仕切り、繰り返し並べられる。1枚の単位が覆われる面積と一致していることで、面積から必要な枚数を計算できるので、タイルの形状や柄をカタログから選ぶことがそのまま集合体の姿と直結する。それに対して、私はタイルを選んでからも試行錯誤できるよう、隙間だらけで凹凸のある、輪郭が曖昧なタイルを考えた。
このタイルは、鋳込み製法により格子状に成形し、表面に釉薬を塗布している。格子状であることで輪郭に凹凸があり、ずらして噛み合わせたり、棒を揃えて並べ一様な格子柄をつくったりなど、いくつかの並べ方がある。また、90度回転させると表面となる棒の縦横方向が変わり、光の反射によって色が変化して見える。
シンポジウムの風景
シンポジウム中に登場するキーワード
平田から発せられたキーワード
タイルは大きなものに繋がる可能性がある / 目地に砂が入って草が生える様子に興味がある / 目地が模様になって見えてくる / 約100年前衛生の概念が発達した / 今はコロナ禍で衛生観念が高まっている / タイルを立体化する / 多孔質なタイル / 3Dプリントでつくる / 釉薬などの完全にコントロールできないものの介在が重要 / 垂直に貼ることを想定して大きさが決まっている / 完全にコントロールできない状況をつくる / 等々板坂から発せられたキーワード
手の中に納まるものをつくるワクワク感 / 設計するときにアイデアが生まれるタイル / 表面材としてのタイル / 役物をつかわないでも納まるタイル / タイルらしさは色 / 組み合わせられる楽しさ / 押し出しではなく型をつかって制作 / 透けているタイル / 何かをひっかけられるサイズ / 目地を越えて重ねられる / 色のムラと均一さのバランス / 方向を変えるだけで同じ色が違って見える / 等々