塩入勇生+矢﨑亮大 / ARCHIDIVISIONが設計した、東京・板橋区の住宅「DANCE FLOOR」です。
袋小路奥の旗竿地に計画されました。建築家は、建築要素の在り方を前提に立ち返って考慮し、躯体や付属物に規模や役割を越えて装飾性を見出す設計を志向しました。そして、小さな動作が次々に展開する“心地よい状況”を作り出しました。
敷地は袋小路の一番奥にある旗竿地。
大きな土地が10戸に分割されたうちのひとつで、その中では最も市場価値が低い土地。それと関係なくこの場所に魅力を感じたのは、隣接する屋敷の庭の木々に囲われていたこと。つまり、街と敷地をつなぐ長い袋小路を通り、旗竿地を抜けた先に、緑が広がっている。都市のからくりの中で偶然できた構成の中に、この場所の可能性を見た。
既成の形式でもかたちの先に潜むパラメータの深度を深めていくことができれば、まだまだ新たな解釈や表現の幅は広がっているはずだ。部分の集積は必ずしも全体と結び付く必要はない。
スキップフロアのひとつながりの形式は俯瞰してみえるようで気分がよいが、当然住宅はそれだけでは成立せず、不完全な全体を、階段や踊り場、家具、建具といった付属物が補完していく。そのひとつひとつの、在り方を疑ってみる。
例えば階段は、マッスな木階段と、華奢な鉄骨階段とに分かれている。木階段は腰掛ける家具にまで発展し、鉄骨階段は派手に空間を彩る。
付属物は、鉄や木など素材の違いによる塗装の種類に加えて、例えば鉄の錆止め塗装を赤と灰で塗分けるなどパラメータを増やしていく。
さらに既製品の塩ビタイルやガラスサッシが持つ透過や反射といった現象と関係を取るように、塗装の艶を選び、室内の表層を調停していく。構造現しの壁は、塗装によって施主私物のダイニングテーブルと色を揃えた。
一面のみが身体スケールの材に分解されたことで、躯体の一部である壁がオブジェクトの一つとして振る舞っている。
フィルム撮影による写真
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デジタル撮影による写真
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図面
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以下、建築家によるテキストです。
敷地は袋小路の一番奥にある旗竿地。
大きな土地が10戸に分割されたうちのひとつで、その中では最も市場価値が低い土地。それと関係なくこの場所に魅力を感じたのは、隣接する屋敷の庭の木々に囲われていたこと。つまり、街と敷地をつなぐ長い袋小路を通り、旗竿地を抜けた先に、緑が広がっている。都市のからくりの中で偶然できた構成の中に、この場所の可能性を見た。
道に正対し、半分顔を覗きだすように立ち現れる表層を考えた。それは街の行き詰まりに奥の気配を伝える。急勾配の屋根と隣家の隙間から垣間見える木々。入口といえば穴が開いているだけ。潜り抜けた先には緑に囲まれた広めのポーチがある。背面のボリュームは地面から少し浮かせて、風と共に通リ抜けることができる。
そこから1階に入った瞬間に、周りを感じることはあまりない。少し暗い室には、階段踊り場のルーバー床から光が落ちる。そして2階に向かうにつれて、次第に街の風景が戻ってくる。表層の裏側はその一面だけを舞台裏のように柱梁を見せて、希薄さが街との表裏一体の関係を取り持っている。こうして、表層を介して、街から連続する動作を積み上げていく。
既成を疑う
既成の形式でもかたちの先に潜むパラメータの深度を深めていくことができれば、まだまだ新たな解釈や表現の幅は広がっているはずだ。部分の集積は必ずしも全体と結び付く必要はない。
スキップフロアのひとつながりの形式は俯瞰してみえるようで気分がよいが、当然住宅はそれだけでは成立せず、不完全な全体を、階段や踊り場、家具、建具といった付属物が補完していく。そのひとつひとつの、在り方を疑ってみる。
例えば階段は、マッスな木階段と、華奢な鉄骨階段とに分かれている。木階段は腰掛ける家具にまで発展し、鉄骨階段は派手に空間を彩る。それぞれの階段は、お互いが面で接することのないディティールを加えている。踊り場は、その機能を超えて肥大化させて、階段だけでなく全ての室の延長にもなる。建具は、框戸とフラッシュ戸を併用し、壁とは違う遮蔽の方法を意識している。またガラス蔀戸は、風の流れを制御できると共に、ユニークな開閉方法により、装飾性を帯びている。
装飾性を見出す
付属物は、鉄や木など素材の違いによる塗装の種類に加えて、例えば鉄の錆止め塗装を赤と灰で塗分けるなどパラメータを増やしていく。
さらに既製品の塩ビタイルやガラスサッシが持つ透過や反射といった現象と関係を取るように、塗装の艶を選び、室内の表層を調停していく。構造現しの壁は、塗装によって施主私物のダイニングテーブルと色を揃えた。
一面のみが身体スケールの材に分解されたことで、躯体の一部である壁がオブジェクトの一つとして振る舞っている。
付属物と躯体は、自立したオブジェクトとなり、空間を装飾していく。つまり、躯体から家具まで枠を超えたものの中から装飾性を見出すことができたと考えている。それらが相重なることで、インテリアから場面を立ち上げていく。
するとなるほど、装飾性をもつオブジェクトと一緒に、小さな動作が次々に展開し、既成のスキップフロアを読みかえた新しい場面の連続と、室に捉われない心地よい状況ができてきた。
つくったあとの体験をひとつ。この建築では、スキップフロアを貫通する大きな縦の空間をつくることにこだわりがありました。それが形式に対する疑いの姿勢でもありました。ですが、この建築を体験すると縦は消え、横のつながりが強調されるようでした。頭の硬い思考を空間が上回ってきて清々しい風が通り抜けた気がしました。でも縦の空間は、大きな図体をしながらチラチラとそこにあります。
建築をつくっていると、たまにこういったことが起こります。縦をつくることは横をつくること。行ったり来たりするパラレルワールドのなか。今回はそれが「スキップフロアを読みかえる」を見事に補強している一手だとひそかに思っています。
(塩入勇生)
一般的にインテリアという言葉は色々な意味で使われていて、家具のような大きな物から、フィギュアのような個人の趣味の小さな物まで、幅広く表現されます。あるいは「この部屋のインテリア」のように、その空間の状況を表したりもします。共通しているのは空間を彩る“装飾”ということでしょうか。
DANCE FLOORは私たちにとって久しぶりの新築住宅です。その間実践してきた、内装やリノベーションで、既存から自律した小さな構造体を通して空間を組み立てることに挑戦してきました。この住宅にはそんな空間を彩る小さな構造体を散りばめたような感覚でいます。インテリアという言葉のように、合理的な一手の中にも選択肢は幅広くあるはずと信じています。
(矢﨑亮大)
■建築概要
題名:DANCE FLOOR
所在地:東京都板橋区
主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦+子供2人
構造:木造2階
設計・監理:塩入勇生+矢﨑亮大 / ARCHIDIVISION
構造設計:辻拓也 / DIX
施工:廣木丈 / ワシン建築事務所
不動産:高橋寿太郎、野々垣賢人 / 創造系不動産
敷地面積:85.95㎡
建築面積:43.79㎡
床面積:96.63㎡ ※ロフト含む
設計期間:2020年9月~2021年7月
工事期間:2021年9月~2022年3月
竣工:2022年4月
写真:田中克昌