SHARE 建築家の西沢大良による書籍『現代都市のための9か条 近代都市の9つの欠陥』を先行プレビュー。建築界で大きな注目を集めた表題の論考を中心に、近年書かれたテキスト・インタビュー・談話なども多数収録
建築家の西沢大良による書籍『現代都市のための9か条 近代都市の9つの欠陥』を先行プレビューします。
建築界で大きな注目を集めた表題の論考「現代都市のための9か条――近代都市の9つの欠陥」を中心に、設計論「木造進化論」や近年書かれたテキスト・インタビュー・談話なども多数収録されています。発売日は2023年2月17日です。本記事の後半には西沢による“あとがき”の全文も掲載しています。【ap・ad】
建築家・西沢大良による伝説的テキスト、待望の書籍化なる!
困難な時代の試練にわれわれはどう立ち向かうべきか。
人口流動性、メガスラム、環境・生態系、食料・エネルギー、震災、パンデミック、戦争……、あらゆる問題はすでに出尽くした。
まもなく、いまだ人類が見たことのない、新しい都市の形態が誕生するだろう――。発表されるや建築界で大きな注目を集め、いまや伝説的テキストとなった「現代都市のための9か条――近代都市の9つの欠陥」を書籍化するもの。「9か条」を中心に、主要な設計論である「木造進化論」や作品写真のほか、近年書かれたテキスト、インタビューや談話などを選りすぐり収録。西沢大良の思考と、「9か条」をよりよく理解するための一冊である。
以下に、プレビュー画像を掲載します。
建築家の西沢大良による書籍『現代都市のための9か条 近代都市の9つの欠陥』のプレビュー画像
以下の写真はクリックで拡大します
【目次構成】
第1章 現代都市のための9か条 近代都市の9つの欠陥
1―新型スラムの問題・人口流動性の問題
はじめに1──若い読者へ
はじめに2──1990年代後半以降
はじめに3──1960年代の近代都市批判
はじめに4──近代化のパッケージ
近代都市の9つの欠陥
第1条―新型スラムの問題
第2条―人口流動性の問題2―ゾーニングの問題
はじめに5──質問に答える
Q1 近代都市の定義とは?
Q2 なぜ人口流動性という視点が必要か?
Q3 今後の都市計画を誰が行うかという、計画主体についての見解は?
Q4 今日の国内都市の人口問題についての見解は?
第3条―ゾーニングの問題第2章 木造進化論 木造による現代建築のつくり方
0―はじめに:なぜ木造なのか
1―進化の法則
2―屋内空間の進化
3―壁とスラブの進化
4―屋外空間の進化
5―終わりに:なぜ組成なのか第3章 談話・エッセイ(2006~2022)
近代都市の根拠
ニューヨーク
西ベルリン・東ベルリン
メガスラム —中南米・アジア・アフリカのスラムに通ったホルヘ・アンソレーナ
80年代の原広司
70年代の磯崎新
90年代末の伊東豊雄 ―せんだいメディアテークについて
東日本大震災について1
東日本大震災について2 ―建築論を読む
東日本大震災について3 ―軍事技術と民生技術
新型ウイルスについて1 ―治療的・医療的な建築
新型ウイルスについて2
新型ウイルスについて3
家ならざるもの
もうひとつの近世都市
21世紀の戦後住宅
設計の原風景
建築を体験する
高校生への手紙
あとがき
第1章「現代都市のための9か条――近代都市の9つの欠陥」を雑誌『新建築』に連載したのは12年前である(2011~2012年)。その後、続編のための執筆時間をうまくつくれなくなり、長らく連載を休止していたところ、今回、オーム社の三井渉さんから書籍化を薦められ、未完のまま刊行することになった。
この連載は発表当時から反響が大きく、海外から面会に来る専門家がしばらく続いたり(中国、中米、中東)、国内のいくつかの大学から「9か条」全体の講義を求められたり、未完のまま別の雑誌に転載されたりした。それらのリクエストをしてきた人びとは、その多くが30〜40代の設計者や計画者で、筆者がこの連載を読んでほしいと考えていた読者層の方々だった。ゆえに筆者としては、連載を休止している罪滅ぼしのつもりで、彼らのすべてのリクエストに応えてきた。この12年間は執筆の代わりに対面で、「9か条」全体をさまざまな場所で喋り続けてきたようなものである。
実際に対面で説明するうちに、「9か条」のどこが彼らの興味をひいたのかーーどこが従来の都市論と違ったのかーーに画点がいくようになった。もともと筆者の都市論は、いくつかの根本的な「区別」を行うことによって議論を展開しているが、そこに彼らの興味が集中していたからだ。
集落/都市、内部的/外部的、短期的/長期的、可逆的/不可逆的、1960年代/1990年代、G7/G20、軽工業/重工業、近世都市/近代都市、バロック式都市計画/近代都市計画、産業資本主義/産業革命、旧型スラム/新型スラム、人口定着性/人口流動性A型およびB型、階級的/機能的、等の「区別」である。なぜ筆者がこうした「区別」を考えたのかといえば、「近代都市の次」(現代都市)に関して空想的な議論を避けたかったためだ。これらは従来の都市論においては必ずしも重視されてこなかったとしても、「近代都市の次」(現代都市)を対象化しようとする場合には欠かせないと思う。
この一連の「区別」を理解した人は、未知の都市的事象について価値判断を下せるようになるだろうし、ひいては「近代都市の次」について考察を進めることができるだろう。逆にこれらを無視すると、「近代都市の次」について空想することになるか、あるいは一種の思考放棄にーー近代都市を続けるほかないという思考放棄にーー陥ってしまう恐れがある。その意味では、この一連の「区別」を重視したことが、「9か条」の生命線だったと思う。未完の連載を書籍化するにあたり、この一連の「区別」がどこまで有効なのかを、読み手の方々に検証していただきたいと考えている。
第2章「木造進化論」は「9か条」の連載前に書き終えた建築論である(2010年)。筆者の中では別の問題意識で書いたという記憶があったが、三井さんから両者の共通性や補完性を指摘され、「9か条」を建築論の側から補うべく本書に収録することにした。
「木造進化論」に書いた内容は、筆者がはじめての公共建築を木造で設計していた20年前(2002〜2004年、砥用町林業総合センター)に端緒を思いつき、教会を木造で設計していた15年前(2006〜2008年、駿府教会)にほぼ結論に達したもので、自分の設計作業の中から想定外の建築論が現れたという意味で、特別の思い入れがある。
ひとつだけ種明かしをすると、2000年代半ばだった当時、海外のいくつかの国で、新しい木造建築をめざす技術開発がはじまっていることに、筆者は気づいていた(北欧、スイス、オーストリア、カナダ)。また、彼らが日本の木造の未来に脅威を感じていることにも、筆者は気づいていた(先に挙げた筆者の2作品が海外で評価されたのはそのためだ)。ちょうど各国で化石燃料から自然再生エネルギーへのシフトがはじまっていた時期であり、彼らはそれに呼応するように、近代建築から現代的な木造建築へのシフトを唱えていた。そこまでは賛同できたのだが、彼らのシンポジウムや展覧会に出てみると、技術的には面白い試みをしているのに、肝心の設計段階で近代建築の常識を不用意にもち込んだ仕事が多く、結果として「木目のついた近代建築」とでもいうべきものがつくられていた。筆者がやったのは、本当に近代建築では実現できない空間を日本の木造建築で追求するとどういう建物になるのか、またそれがどんな建築思想を生み出すのかを、はっきりさせることだった。
第3章は「9か条」や「木造進化論」の前後に発表した談話やエッセイである(2006〜2022年)。どれも自発的にテーマを決めたわけではなく、その都度与えられたテーマに反応したにすぎないが、読み方によっては「9か条」や「木造進化論」を補うものとして読めるため、そうした部分を抜粋して収録した。
特に2012年以降の談話やエッセイは、日本を揺さぶった事件(東日本大震災と原発問題、発展途上国のようなオリンピック開催と戦時体制への移行、新型ウイルスの黙殺と感染拡大、高齢化社会や長寿命化社会など)について意見を述べており、若い方々には読みやすいかもしれない。第1章や第2章にとっつきにくいという方は、第3章から読んでもらえばそれなりの収穫はあると思う。
なお、第1章・第2章は初出の原文のままとし、大きな修正を行わないようにした(誤字脱字や小見出し追加等を除く)。第3章に収録したものも初出の原文のままだが、一部の原稿については段落の組み替えや削除、発言の省略などを行い、「9か条」の内容を補った。
西沢 大良
■書籍概要
現代都市のための9か条 近代都市の9つの欠陥
西沢大良 著
四六判、並製、320p、1C(一部4C)刷
定価2420円(本体2200円+税)
ISBN:978-4-274-22999-2
2023年2月17日発売