太田健裕 / 太田設計舎と田村愛構造設計工房が設計した、宮城・塩釜市の「層雲の家」です。
街並みを見渡せる敷地に計画されました。建築家は、“暮らしのサイズ”の検討を重ね、大開口を持つコンパクトな建築の前に“余白”としてのデッキ空間が広がる構成を考案しました。また、内部を特徴づける“格子梁”は上下階の適切な関係性の構築にも寄与しています。
宮城県塩釜市は三陸海岸沿いの日本三景のひとつである松島湾に位置し、その昔から水に乏しく住民は湧水を求めて丘陵沿いに住処をつくってきた。
敷地は最大高低差6mの崖上にあり、中程度の密度をもつ住宅地でありながら高低差によって隣地と一定の距離が保たれ、造船業を基盤としてきた街並みを望むことができる。
この住宅には、夫が写真家であり登山が共通の趣味である夫婦と2匹の猫が住む。
暮らしのサイズについて必要な場所、置く物などの整理検討のプロセスを重ね、40坪の敷地に対して建坪10坪の細長いコンパクトなヴォリュームとした。北面に車1台の余剰を残し、南面にはフットプリント同等の広い余白を設け、崖の際までいっぱいにデッキを敷き詰める。その余白は、周辺環境に対してバッファとしての効果を成し、ある一定の密度をもつ住宅地の中で外部を取り込み易い環境をつくり出す。
敷地に広い余白を設けることで生まれた小さな二層空間は、性質の異なる場ごとに分けて積層し、天井高も明確に差を付けた。下層は、生活に必要な機能を高密度にまとめ、南面の大開口の開閉を行い、家具を必要に応じて動かしながらデッキの余白とバランスを取りながら設えていく。
上層は、現代書家であった父の遺作や自身の作品を、奥まった倉庫ではなく光や風が抜ける場に、生活のモノとまとめて収蔵しておきたいということから、混沌とした状態で置くことを想定した。
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以下、建築家によるテキストです。
崖の上に大きな余白をつくり小さく建てること
宮城県塩釜市は三陸海岸沿いの日本三景のひとつである松島湾に位置し、その昔から水に乏しく住民は湧水を求めて丘陵沿いに住処をつくってきた。
敷地は最大高低差6mの崖上にあり、中程度の密度をもつ住宅地でありながら高低差によって隣地と一定の距離が保たれ、造船業を基盤としてきた街並みを望むことができる。
この住宅には、夫が写真家であり登山が共通の趣味である夫婦と2匹の猫が住む。
暮らしのサイズについて必要な場所、置く物などの整理検討のプロセスを重ね、40坪の敷地に対して建坪10坪の細長いコンパクトなヴォリュームとした。北面に車1台の余剰を残し、南面にはフットプリント同等の広い余白を設け、崖の際までいっぱいにデッキを敷き詰める。その余白は、周辺環境に対してバッファとしての効果を成し、ある一定の密度をもつ住宅地の中で外部を取り込み易い環境をつくり出す。
デッキに向かって折れ戸、開き戸、外倒し窓を混ぜ合わせた大きな開口をつくり、開閉でチューニングをしながら時々の生活に合わせていく。折れ戸を目いっぱい開けることで、デッキの余白はアウトリビングとなり、周辺の景色をも一体的に取り込む。一方、閉じることで時々の厳しい自然環境から身を守り、唯一ハイサイドライトからの光のみが作用する籠れる場をつくる。室内面積を小さくすることによって、昨今の資材高騰に対して配慮するとともに、空調や換気などを効率よく自在にコントロールしながら生活の場を作っていく。
透過層で上下を緩やかに繋げる
敷地に広い余白を設けることで生まれた小さな二層空間は、性質の異なる場ごとに分けて積層し、天井高も明確に差を付けた。下層は、生活に必要な機能を高密度にまとめ、南面の大開口の開閉を行い、家具を必要に応じて動かしながらデッキの余白とバランスを取りながら設えていく。
上層は、現代書家であった父の遺作や自身の作品を、奥まった倉庫ではなく光や風が抜ける場に、生活のモノとまとめて収蔵しておきたいということから、混沌とした状態で置くことを想定した。
それらを繋ぐ天井であり床は、格子状に組むことによって剛性を持たせ、そのまま現れる透過層とした。それにより光や風、音や影の繋がりをもち、作品を身近に感じながら緩やかに区切られ、コンパクトなヴォリュームでありながら立体的なワンルームとして広がりをつくる。
格子は、季節や時刻による陽や雲の位置、折れ戸開閉などのパラメーターの変化によって、時には光を貫流させて存在が明瞭になることもあれば、時には曖昧になることもある。現れ消えていく層雲のような天井であり床の存在が、夫婦と2匹の猫の住まいの距離を微細に保ちながら繕っていく。
(太田健裕/太田設計舎)
格子梁と柱
ひとつの箱を緩やかに区切る中間層は、105mmベイマツ角材を303mm間隔で格子状に2段に重ね、15mmずつの相欠きとし、嵌合部分を緊結して格子梁を構成することで小さい部材だけで鉛直荷重を支えている。また、格子梁の角度を斜め45度に振ることで構造用合板なしで水平剛性も同時に確保し、1階大開口部分の短辺方向の水平変形を抑えながら、下層への透過性を確保した。
柱材は2階東西両側を全面開口とするため、四隅は流通する105mmベイマツ幅材を用いて2本の柱をボルトで緊結し、短辺方向の水平力に対して、下部を耐力壁として上部の柱を片もち柱として曲げ抵抗させる計画とした。また、中間層の上下は高さが大きく異なるため、水平力に曲げ抵抗できるよう隅角部以外の柱せいも大きくしている。
(田村愛/田村愛構造設計工房)
■建築概要
名称:層雲の家
所在地:宮城県塩釜市
主用途:専用住宅
設計:太田設計舎 担当:太田健裕、太田亜紀子、千葉大
構造:田村愛構造設計工房 担当:田村愛
テキスタイル:TEXT 担当:大江よう
グラフィック:さるいのデザイン 担当:町田かおる
施工:平有建築 担当:平塚有一、紫桃隆洋、佐藤利一
プレカット:山大 担当:千葉圭一、本田浩樹
スチールサッシ・折戸:中央鋼建 担当:本多悟、小松鉄也
アルミサッシ:LIXIL 担当:高橋孝明、十文字良典、濱田竜平
木製建具・家具:松本木工 担当:松本勇児
板金:松川板金 担当:松川康次、松川康宏
塗装:沖津塗装 担当:沖津紀一
左官:日野左官 担当:日野洸實
電気:スエナガ電気工事 担当:末永秀一
空調:髙直商会 担当:髙橋幸樹
給排水:ヤマチ工業 担当:澁谷義浩
基礎・外構:太田産業+大森建業 担当:太田健裕、大森康司
構造:木造在来工法
階数:地上2階
敷地面積:139.68m2
建築面積:33.01m2
延床面積:62.10m2
設計:2021年1月~2022年4月
工事:2022年5月~2022年9月
竣工:2022年10月
写真:楠瀬友将