SHARE SDレビュー2023の入選作品の展覧会レポート(後編)。“実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの”という条件での建築コンペで、若手建築家の登竜門としても知られる
SDレビュー2023の入選作品の展覧会レポート(後編)です。
“実施を前提とした設計中ないしは施工中のもの”という条件の建築コンペティションで、若手建築家の登竜門としても知られています。本記事では展覧会の様子を前編・後編に分けて紹介します(前編はこちらからどうぞ)。会期は2023年9月15日~24日。SDレビュー2023の審査を務めたのは、千葉学、中山英之、山田憲明、金野千恵でした。展覧会の公式サイトはこちら。
SDレビューとは
SDレビューは、実際に「建てる」という厳しい現実の中で、設計者がひとつの明確なコンセプトを導き出す思考の過程を、ドローイングと模型によって示そうというものです。
実現見込みのないイメージやアイデアではなく、実現作を募集します。
1982年、建築家・槇文彦氏の発案のもとに第1回目が開催され、以降毎年「建築・環境・インテリアのドローイングと模型」の展覧会とその誌上発表を行っております。
以下、入選作品を展示順に掲載します。
Re SHIMIZU-URA PROJECT|集落を継ぎ接ぐ暮らしの提案
いとうともひさ+山下大地+川崎光克+両川厚輝+小串賢司マルセロ
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かつては紀伊國海運の要所として栄えた冷水浦。近代化に伴って海際の役割が薄れ、およそ3軒に1軒が空き家となっており、自治機能の衰退も顕著に現れている。本提案は衰退傾向にある過疎集落で個と個であった空き家群を暮らしの中で1つの大きな家へと継ぎ接いでいくためのものである。日々目まぐるしく変化する状況のなかで建築と向き合い、長い時間をかけてつくることで生まれる新たな暮らしの可能性を提案する。群として空き家となった、集落という既存の建築ストックを、大工、設計者、滞在者ら「暮らしの共同体」が共に生活しながら更新し続けることで、継ぎ接いでいく。
共同体の人々は自分たちで空間を作り変える技術を身に付け、空き家集落に新たな価値をもたらすかもしれない。私たちの暮らしに終わりがないように、建築行為が生活と共にあるこのプロジェクトに竣工という概念はない。設計に多様な手法を取り入れるための集落を挙げた試みである。
このプロジェクトにおいて、図面は施工を指示するためのものではなく、ここに暮らす人々が自分たちの居場所をより快適な空間へと作り変えていく上での方針のようなものである。
また、計画図面によって起こりうる未来を共同体で共有しながらも、具体的に空間を作り変えていくのはその時々で集まった私たちである。私たちは暮らしの要求を汲み取りながら、現場で実際の物体を前にディテール検討と施工を往復しながら、建築を練り上げていく。
巣材の家
山田宮土理+中村航+森下啓太朗+熊田英梨嘉
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本計画は、鳥が巣をつくるように、近くで入手できる素材や部品を集めて住まいをつくり、繕いながら暮らすための提案である。
敷地は自然豊かな埼玉県小川町であり、築約80年の平屋の古家を増改築する。敷地の周辺で入手できるのは古家から出る材や、自然素材であり、これらを主な「巣材」として扱っていく。巣材は、形状・寸法がバラバラであるため扱いにくさがある。また、近年の一般的な建築材料のもつ安定した品質や高い性能とはかけ離れた、いわば「弱さ」をもっている。ところがこの「弱さ」をそのままに、すなわち原料を高度に加工・変容させずに用いれば、使用後に地球に爪痕を残さなくて済む。
本計画では、弱い材を弱いままで使い、バラバラを受け入れる使い方を提案する。例えば外周壁は、バラバラな木材の板張りを内装仕上げに、植物材料を麻袋に詰めた断熱ユニットを外部に表出させている。最も弱い材を表出させることで、傷み具合の把握と手入れを容易にしている。この弱い材を守るために大屋根をかけ、そこにできる軒下の半屋外空間は、外部環境とゆるやかに繋がる豊かな暮らしの空間となり、巣材を繕うための空間となるような平面構成とした。
設計・施工を行う住人は、建築構法・材料の研究者であり、日本各地の土着の泥小屋を訪ね歩いている。近くで採れた素材を使って素人施工でつくられたこれらの小屋は、ゆがみや亀裂も許され、素材が弱くても100年単位の時を刻んでいる。効率や品質・性能重視の現代の建築が忘れていたこうした小屋のあり方を、自らの住まいで実験する。
里山タイニーハウス 滴滴庵
大山亮+片山果穂+笹木聖+渕野剛史+増井柚香子+宮﨑陸
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雨が降ったあくる朝、太平洋まで望める古民家の裏手から、夏みかんに伝う一滴のしずくを見た。生命に不可欠な水は様々に状態を
変化させながら、この地球を巡っている。一滴一滴から始まる大きな水の循環に我々の生を結び付けられるこの場所を、「滴滴庵」と名付けた。ハイデガーは、天、大地、神的なるもの、死すべき者どもの四者が集うことが住むことであると言った。神的なるものとはここでは「夏みかん」であり、循環する「水」である。訪れた人が夏みかんと出会い、空と、海と、大地とともに集うことができる建築のあり方を目指した。
私たちは里山に通い、田んぼ仕事から茅葺屋根の葺き替え、山林整備、土木作業まで様々な活動を通して農的な暮らしの実践を行ってきた。里山仕事で得られる資源は、もとから建築のために用意されたわけではないが、適切に手を加えることで資材となり、その特性を活かした設計配慮を施すことで建築に取り込むことができる。里山仕事が建築をつくり、建築が里山の美しい風景を支えている。そのような関係性で周囲と結びつく建築こそ、「ランドスケープアーキテクチャー」と呼ぶにふさわしい。
千葉県鴨川市釜沼北集落には、年間延べ1000人もの都市住民が訪れ、棚田での農作業や醤油作り、炭作り、茅葺、など各種野良仕事、手仕事を行っている。作業中の休憩やリモートワークに、あるいは一時的な滞在にと、わずか9平方メートルの「方丈」は里山に贅沢なひと時をもたらしてくれるだろう。
里山だった場所と融合する家
森屋隆洋
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小高い山が点在する田園地帯に位置する二地域居住ための住宅の計画である。
私が初めて敷地を訪れた時、敷地の背後に薄暗い山が迫っている印象があった。当初は里山と呼ばれていたその場所は、植樹された樹木が刈り取り期を過ぎ、日光が入らない状況となっていた。下草も生えないようでは土砂崩れの危険性も非常に高いので、近所に住んでいた山の所有者に掛け合い、森の整備する交渉からプロジェクトは始まった。森を調べると、豊かな資源が身近にあることに気付かされた。薪として利用されるはずだった広葉樹を中心とした森である。
これらの自然木は商品規格にも流通システムにものらないが、緻密な調査と計画と人の手を加えれば建築資材になり得ると考えた。これを契機に計画は、森の整備と住宅の設計がパラレルに進むことになる。本計画は、地域の素材と現代の技術を用いて里山と住まいの関係を繋ぎ直し、豊かな環境を未来へと継承していくための試みである。
六郷キャンパスプロジェクト
冨永美保+川見拓也
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社会福祉法人ライフの学校では、建物のことをキャンパスと呼んでいる。これは、福祉を一方的なサービスではなく、お互いに与え合い、関係性が成長していく場として捉え、まさに“学校”のような状況を理想としているからである。この理念のもとに、仙台市若林区を中心に多数の施設をネットワーク化し、畑やカフェなども運営しながら、文字通り地域を耕すような活動を行っている。
この建築では、特別養護老人ホームを主とし、地域内で介護サービスを必要とする方の段階的な参加の間口をつくる地域福祉サービスを展開する。高齢者だけではなく、障がいがある方の就労拠点、保育園も含み、多種多様な年齢・身体の方の時間が混ざる場所になる。要介護度4~5の入居者は、自分自身で動けない方が多い。そこで、ケアとして起こっている日々の出来事、多様な登場人物たちが織りなす生活のサーキュレーションを「動く環境」として捉え、誰しもが場に参加している動的な状況をつくりたいと思い、設計に取り組んだ。
3.11の津波の水際線に建つことや、法規コストスケジュール共に厳しい「福祉」という枠組み、そして何よりも、ケアの現場ですでに蓄えられた大量のトライアンドエラーや、対話の過程でふと発見される感覚的な言葉を何よりも大切に考えている。
時と場によって有機的に動いていく状況の変化を、いかに豊かに空間化するか。関係の連鎖、場の重心が動くこと、曖昧な寛容を建築化するための設計プロセスである。
■展覧会情報
会期:2023年9月15日(金)~9月24日(日)会期中無休
11:00-19:00(最終日は16:00まで)
会場:ヒルサイドテラスF棟 ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-8