工藤浩平建築設計事務所が設計した、秋田市の「鳥海邸」です。
未接道の土地や空き家が目立つ地域での計画です。建築家は、街の特徴を“余白”として捉えて継承も意図し、様々な使い方を促す“半屋外空間”で囲われた中庭を中心とした建築を考案しました。また、寒冷地での“暮らしの範囲”の拡張も試みられました。
これは秋田市に住む5人家族の住宅である。
敷地周辺は未接道の土地が多く、空き家が目立つ区画である。こう表現すると過疎化が目立つ地域と受け取られるかもしれないが、見方を変えると、車や人が入って来られず、また空き家に囲まれていることから、プライベート性がとても高い場所である、ということもできる。
もともとの家族の敷地も、既存母屋と空家に囲まれてできた、プライベート性の高い小さな中庭があり、中庭では子供たちが人目や音を気にせず思う存分走り回っていた。こうした光景がとても印象的で、「取り残されてぽっかりと空いた余白」というこのまちの特徴をポジティブに捉えて、これからできる新しい住宅にも引き継ぎたいと考えた。
また、この家族は、広い庭をもつ新居を望んでいたが、親世代が持っていた敷地だけだと庭がとれないことから、敷地の奥にある未接道の空き家を買い足して敷地とした。結果として、道に面した側はまちの息づかいが感じられ、買い足した空き家側は、空き家と空き地に囲まれる静かでプライベート性が高いという二面性のある敷地となった。
この住宅では、真ん中に大きな中庭を設けて、中庭を囲むように、敷地形状に沿って建物がぐるりと並ぶような構成をとった。道路側は個室や水回りなど、プライベート性の高い諸室を納めた2階建てを配置した。2階建ては、道の喧騒から中庭を守る効果も期待できる。
空き家側は平屋と、それに連なる屋根でぐるりと囲うことで、周辺から視線を区切り敷地の占有を主張する構成とした。こうして中庭のプライバシー性はさらに高まる。このように、中庭は、鑑賞するための庭園のような「眺める屋外」ではなく、さまざまな使い方やふるまいを寛容する「使う屋外」としてつくった。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
地方都市の使う屋外の可能性
これは秋田市に住む5人家族の住宅である。
敷地周辺は未接道の土地が多く、空き家が目立つ区画である。こう表現すると過疎化が目立つ地域と受け取られるかもしれないが、見方を変えると、車や人が入って来られず、また空き家に囲まれていることから、プライベート性がとても高い場所である、ということもできる。
もともとの家族の敷地も、既存母屋と空家に囲まれてできた、プライベート性の高い小さな中庭があり、中庭では子供たちが人目や音を気にせず思う存分走り回っていた。こうした光景がとても印象的で、「取り残されてぽっかりと空いた余白」というこのまちの特徴をポジティブに捉えて、これからできる新しい住宅にも引き継ぎたいと考えた。
また、この家族は、広い庭をもつ新居を望んでいたが、親世代が持っていた敷地だけだと庭がとれないことから、敷地の奥にある未接道の空き家を買い足して敷地とした。結果として、道に面した側はまちの息づかいが感じられ、買い足した空き家側は、空き家と空き地に囲まれる静かでプライベート性が高いという二面性のある敷地となった。
やや話は逸れるが、日本では、道に面して庭や駐車場を設け、庭を通って玄関にアプローチしていくことが一般的である。ヨーロッパでは逆に、道に面して建物がずらりと並び、庭は建物の奥に中庭を設けることが一般的である。日本と真逆の庭の取り方が、庭にプライベート性をもたらし、人目を気にせずに、庭で思い思いの時間を過ごすことができる。「東松山の家」(2018)では日本的な庭があっていると考えたが、空き家に囲まれるこの敷地の暮らし方や秋田の暮らし方を考えると、ヨーロッパ的なプライベート性の高い庭のあり方がよいのではないか、と考えた。
そこでこの住宅では、真ん中に大きな中庭を設けて、中庭を囲むように、敷地形状に沿って建物がぐるりと並ぶような構成をとった。道路側は個室や水回りなど、プライベート性の高い諸室を納めた2階建てを配置した。2階建ては、道の喧騒から中庭を守る効果も期待できる。
空き家側は平屋と、それに連なる屋根でぐるりと囲うことで、周辺から視線を区切り敷地の占有を主張する構成とした。こうして中庭のプライバシー性はさらに高まる。このように、中庭は、鑑賞するための庭園のような「眺める屋外」ではなく、さまざまな使い方やふるまいを寛容する「使う屋外」としてつくった。
ただ、建築家が中庭を設計したとして、いざそれを使おうと思っても、一体どう使っていいのかわからない、なんてことはよくある。この家では、中庭を囲うように、円を描いて連なる6枚の屋根のそれぞれに機能をもたせて半屋外スペースとした。それらは縁側であったり、はなれであったり、駐輪場つきの渡り廊下、洗濯室から伸びる物干しスペース、バーベキュー専用のスペース、室内干しもできる、限りなく外に近いサンルームであったりする。また、半屋外スペースは、用途に応じて屋根の高さや空間のプロポーションに変化をつけることで、「密度の差」を生み出した。
これら半屋外スペースに囲まれた中央の中庭は、「グラウンド」と名付け「使う屋外」の中心となるような場所とした。ここは、スケートボードをしたり、ボール遊びができるようなハードコートの素材とした。
こうして、「密度の差」がある半屋外スペースと、なんでもできるグラウンドの掛け算によって、使い方のヒントがいくつも生まれるような、このまちならではの、プライベート性の高い中庭ができた。
地方では空家が増え続け、区画整理によって都市計画に取り残された場所が目立つようになってきた。日照率が低く、冬の期間が多いといった秋田の環境は、外との関係が希薄になることが多い。この住宅では、こうした地方都市の状況を逆手に取るように、積極的に屋外に生活の居場所を広げていった。
グラウンドを取り囲むいくつかの「使う屋外」は“私(プライベート)だけの公(パブリック)”となる。このような大らかな態度が、暮らしにゆとりをつくり、豊かな生活の下地となっていくと考えている。ここはバーベキューをしたり、家の庭で趣味のアウトドアキャンプをしたり、バスケットボールの練習場所になったりする。
暮らしの範囲を推し拡げ新たな寛容性をもった、“遊び”がある住まいを用意することで、「多目的性」や「生活の余白」を秋田の住宅に持ち込んだ。屋外に対して消極的な地域性を変えようとする試みである。
(工藤浩平)
■建築概要
題名:鳥海邸
所在地:秋田県秋田市
主要途:住宅
設計:工藤浩平建築設計事務所 担当:工藤浩平、川上華恵
施工:住建トレーディング
構造:平岩構造計画 担当:平岩良之、藤本貴之
デザインエンジニアリング:御幸朋寿
照明計画:飯塚千恵里照明設計事務所 担当:飯塚千恵里
構造:在来木造
階数:地上2階
敷地面積:521.86㎡
建築面積:192.36㎡
延床面積:275.77㎡
設計:2020年7月~2021年7月
工事:2021年7月~2022年5月
竣工:2022年5月
写真:楠瀬友将