関谷涼太 / タソ建築アトリエが設計した、愛知・海部郡の「大治の家」です。
同規模の建物が連なる住宅街の敷地での計画です。建築家は、“家族だけの空間と時間”を求め、視線の遮断だけではない“心理的なプライベート性”を持つ建築を志向しました。そして、4つの軸で壁面角度を操作して周辺環境との関係を曖昧にする構成を考案しました。
建築地は区画された住宅街。60坪前後の敷地と建物が連続する。
施主はここに、人の目を気にする必要のない、家族だけの空間と時間を望んだ。
内部空間を塀で囲んでしまえば物理的に外部からの視線を断つことはできるが、この建築の趣旨は、方位感覚から自由になることで生まれる心理的なプライベート性。壁の向こうに隣の家がある、という当たり前の感覚を壊したいと思った。
“無方位の存在” をイメージして、確実に “在る” けど “認識できない” という状態を目指した。
手法は、XY軸と、それらに対して45度ずらしたZa・Zb軸を加えた4線グリッドによる設計。
長方形の敷地に対してまずは平行垂直のボリュームを素直に配置し、そこに斜めの壁と天井を重ねた。
隣家との距離を持たせるというよりは、角度の操作によってその位置関係を曖昧にすることを主に意図した。
人間の方位感覚は何かを基準として初めて認識できるものである。
見えてもいない壁の向こう側に隣地の気配を感じるのは、同じような基準が連続していると想像が及んでしまうことによる。
よってその基準を崩すことで、外部環境を正確に想像することが難しくなり、方位感覚は自由になるのではないか。
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以下、建築家によるテキストです。
建築地は区画された住宅街。60坪前後の敷地と建物が連続する。
施主はここに、人の目を気にする必要のない、家族だけの空間と時間を望んだ。
内部空間を塀で囲んでしまえば物理的に外部からの視線を断つことはできるが、この建築の趣旨は、方位感覚から自由になることで生まれる心理的なプライベート性。壁の向こうに隣の家がある、という当たり前の感覚を壊したいと思った。
***
“無方位の存在” をイメージして、確実に “在る” けど “認識できない” という状態を目指した。
「無方位」・・・隣地、道路との位置関係やその様子がわからない状態
「その存在を認識させるもの」・・・太陽光の動き、時間
***
手法は、XY軸と、それらに対して45度ずらしたZa・Zb軸を加えた4線グリッドによる設計。
長方形の敷地に対してまずは平行垂直のボリュームを素直に配置し、そこに斜めの壁と天井を重ねた。
隣家との距離を持たせるというよりは、角度の操作によってその位置関係を曖昧にすることを主に意図した。
人間の方位感覚は何かを基準として初めて認識できるものである。
見えてもいない壁の向こう側に隣地の気配を感じるのは、同じような基準が連続していると想像が及んでしまうことによる。
よってその基準を崩すことで、外部環境を正確に想像することが難しくなり、方位感覚は自由になるのではないか。
また建物のスケールを考えると、交差する面と線は少なければ少ないほど、単純であればあるほどにその意味は大きくなると考え、グリッドを強く意識して設計した。
同時に角度のズレから必然的に多角形の隙間がいくつか生まれる。
「東の庭」「中庭」「北の庭」、「南の吹抜け」「西の吹抜け」とした。
3つの開口と2つの断面をなぞるように、それぞれ朝方から夕方まで順番に光と陰が移動する。
空間には陰影が現れるムラのある素材と仕上げを用いて、太陽の働きを強調した。
施主は、「朝はここが気持ち良い」「夕方はここが落ち着く」と、陰翳礼讃を感じる豊かな暮らしぶりを話してくれる。
一度自由になった方位感覚は、当初求めたプライベート性を作りながら、太陽の動きによって確かに生活に取り戻されている。
■建築概要
題名:大治の家
所在地:愛知県海部郡
主用途:住宅
設計:関谷涼太 / タソ建築アトリエ
施工:株式会社ライフタップ
工事協力:中野建築
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:216.02㎡
建築面積:98.54㎡
延床面積:127.6㎡
竣工年月:2022年5月
写真:関谷涼太