丹羽隆志アーキテクツが設計した、ベトナムの飲食店「矢澤ハノイ」です。
歴史あるヴィラを改修した焼肉の店です。建築家は、調理に用いられる“鉄”に着目し、鉄で彩った空間が連続して風景となる建築を志向しました。そして、地域で普及する“鋳物”で店名を参照した“紋章”を作ってスクリーン等の様々な場所に用いました。店舗の場所はこちら(Google Map)。
焼肉という料理の面白さは生肉が鉄板で調理されることで状態が変化する様を楽しむことである。
焼肉レストランヤザワは食材とともに、肉を焼く機械、特に鉄板、鉄網へのこだわりが強く、それがクオリティへと直結している。
ハノイに新しくできる彼らのレストランを考えるにあたりこの鉄という素材に着目することで、食の風景から空間までを通したオリジナルな場をつくれるよう考えた。
鉄自身が変化すること、鉄によって変化するものを対比させたり融合させる。鋳物、弁柄、鉄棒、鉄板などと、鉄によって彩られた空間によって表現されたシーンが連続する風景をつくり、もの、ひと、空間がインタラクティブに交わる場を作る。
敷地はハノイの街を代表するような改修と増築を重ねたフレンチヴィラ。様々な形で鉄の持つ力を与えて改修を行い、新旧のコントラストをつくり出す計画である。
鋳物はフレンチコロニアル時代から一般的にハノイで使われる材料・構法として発展してきた。
本プロジェクトではそのポテンシャルを活かして、オリジナルのアイアンスクリーンを製作した。レストランの頭文字Yを用いた135×125mmの鋳物のエンブレムをつくり立体的に編み込むように溶接して組み合わせた。
三次元の曲面をもつエンブレムは、3Dプリンターで作製したモックアップを型にローカルの製作工場で鋳鉄にて量産製作した。このエンブレムは照明やテーブルの天板、店のロゴマーク、ワインショーケースにも敷衍して利用することで店のアイデンティティをあらゆるシーンで表現した。
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以下、建築家によるテキストです。
焼肉という料理の面白さは生肉が鉄板で調理されることで状態が変化する様を楽しむことである。
焼肉レストランヤザワは食材とともに、肉を焼く機械、特に鉄板、鉄網へのこだわりが強く、それがクオリティへと直結している。
ハノイに新しくできる彼らのレストランを考えるにあたりこの鉄という素材に着目することで、食の風景から空間までを通したオリジナルな場をつくれるよう考えた。
鉄自身が変化すること、鉄によって変化するものを対比させたり融合させる。鋳物、弁柄、鉄棒、鉄板などと、鉄によって彩られた空間によって表現されたシーンが連続する風景をつくり、もの、ひと、空間がインタラクティブに交わる場を作る。
敷地はハノイの街を代表するような改修と増築を重ねたフレンチヴィラ。様々な形で鉄の持つ力を与えて改修を行い、新旧のコントラストをつくり出す計画である。
新旧のコントラストを生む鉄
ハノイはベトナムの首都であり、政治と文化の中心である。この街はベトナムの複雑な歴史が反映され、様々な時代、様々な国からの統治を経てきたため異なる様式の建物が混ざり合っている。更にその上に現代の人々の暮らしが塗り重ねられることで渾沌としながらも力強い姿を見せている。その様子は折り重なった歴史のレイヤーがこの街の表層に現れてきているようだ。
敷地はそんなハノイの中心地に位置しながら緑豊かで閑静なフレンチコロニアルヴィラが並ぶ通りに位置する。西洋の都市と同じように、ベトナムでは通りの名前は歴史上の有名人の名前を拝している。既存建物はハノイの大きな通りの名前にもなっている政治家の自邸であった。100年以上前に建てられたフレンチコロニアルスタイルの建物は度重なる改修と増築を経てきていたが、クリーム色の外壁やオーダーのついた柱などは残されていた。
インタラクティブな空間のシーンが重なり風景をつくる
古い既存建物は大規模な構造補強を行ったうえで建物中心部のオープンキッチン上部に大きなヴォイドを用意した。シェフの手さばきを楽しむオープンキッチンを中心に回遊が出来るシークエンスをつくった。30席の2階メインダイニングの他に、プライバシーに配慮した個室空間を62席用意することで、それぞれのスペースに特徴を持たせた。プライベートな食事空間とパブリックな回遊空間を行き来することで、多様な空間のシーンを重ねて風景をつくり出した。
アイアンスクリーンがつくり出すインタラクティブな空間
ベトナムでは高温多湿な温熱環境に対応するため、伝統的にポーラスな壁やロートアイアンの装飾格子などが建物のファサードに使われてきた。これらは環境調整機能を持ちつつ、都市の中で人と人との適度な距離感を保つことに貢献している。
鋳物はフレンチコロニアル時代から一般的にハノイで使われる材料・構法として発展してきた。
本プロジェクトではそのポテンシャルを活かして、オリジナルのアイアンスクリーンを製作した。レストランの頭文字Yを用いた135×125mmの鋳物のエンブレムをつくり立体的に編み込むように溶接して組み合わせた。
三次元の曲面をもつエンブレムは、3Dプリンターで作製したモックアップを型にローカルの製作工場で鋳鉄にて量産製作した。このエンブレムは照明やテーブルの天板、店のロゴマーク、ワインショーケースにも敷衍して利用することで店のアイデンティティをあらゆるシーンで表現した。
アクセントとなる壁面の仕上げにはベンガラの赤土色を用いて食事スペースやオープンキッチン、吹抜まわりの回遊空間を彩る。一方で、自然塗料のインディゴの鮮やかな藍色で水回りとサーキュレーション部分を対比させた。これにより、エントランスから始まるレストラン内で体験する一連のシークエンスの中で幾度も劇的にシーンが変わるよう意図した。ベンガラは酸化第二鉄を主成分とした顔料で、鉄が変化したひとつの状態である。
外観には鉄板を切り出したフレームをガラスや石と対比させ、建物の中で織りなす鉄の空間を予告している。オープンキッチンにつられた照明や開口部のフレーム、手すりや欄干にも鉄を用いて鉄が持つ力をそこかしこで表現している。
鉄の上で変化する食材を楽しむ焼肉というレストランの風景。その場所に、地域文化とつながった様々な鉄の風景を持ち込むことで、より深みのあるダイニングスペースを設計した。
ゲストが過ごす貴重な時間の背景となるこの空間がインタラクティブな経験をつくり出していくことを楽しみにしている。
■建築概要
物件名:矢澤ハノイ
所在地:42 Tang Bat Ho, Hanoi, Vietnam
用途:レストラン
施主:Yazawa Meat Viet Nam
設計:Takashi Niwa Architects
担当:丹羽隆志、髙橋京平、舘林美咲、Tran Thi Thu Trang、Le Van Bao、Dang Duc Quang、Pham Huy Hoang
構造:組積造、一部RC造、一部鉄骨造
階数:地上3階建て
延床面積840㎡
建築面積34㎡
敷地面積350㎡
設計:2022年5月~2022年12月
工事:2022年10月~2023年8月
竣工:2023年8月
撮影:大木宏之