SHARE 谷尻誠 / suppose design office+今川憲英 / TIS&PARTNERS+復建技術コンサルタントによる平和大橋歩道橋コンペ案”教育の橋-刻と呼応する橋-“
谷尻誠 / suppose design office + 今川憲英 / TIS&PARTNERS + 復建技術コンサルタントによる平和大橋歩道橋コンペ案”教育の橋-刻と呼応する橋-“です。このコンペは、イサム・ノグチが高欄をデザインした平和大橋の脇に、新しく建設される歩道橋のデザインを競うものであった。広島市が主催したこのコンペに世界中から応募が寄せられた。その応募案の中から最優秀に選ばれたのは、大日本コンサルタント中国支店の作品”時空の扉”である。谷尻らの提案”教育の橋-刻と呼応する橋-“は最終候補に残っていた。ここでは、谷尻らの提案を紹介する。
以下のテキストは全て建築家によるものです。
広島デルタは多くの川が流れ、その河岸緑地は市の戦後復興の代表する一つです。そのうち川にはさまれた平和記念公園と平和大通りは広島市の重心部であり、世界遺産に象徴されるかけがえのない地域です。
今回私たちは、一本の歩道橋の整備計画に際して、戦中から戦後にかけてこの場所が担った役割や託された思いを掘り起こし、交通対策以外にどのような場所とし、新しくどんな役割を持つべきかを議論し、組み立てました。
イサム・ノグチや丹下健三、ほか過去に熱い思いでこの地域に関わった先人の知恵や声を聞き取り、それは「教育の橋 -刻と呼応する橋-」を架け渡すことでした。
新しくつくる歩道橋では、イサム・ノグチが平和大橋にこめた思いに学び、歩道橋の創出がこの地域のこと、過去や未来について学ぶ場、教育の場、そしてそれの意味について考える、立ち止まる橋、となればと考えています。
「記憶に残る橋」
イサム・ノグチのデザインによる平和大橋(欄干)は、その高い芸術性(意志)ゆえに残されるべき存在になり、貴重な文化資産になりました。
力強く美しい造形は、視覚的に「記憶に残る橋」として、人びとに愛され続けています。新しい「教育の橋」は、視覚的な記憶ではなく、身体が記憶する心に残る橋です。共振しにくく、かつ記憶に残る「揺れ」を体感できることを両立した、身体感覚に訴えかける感覚的に記憶に残る橋です。
橋が薄いことで川面や平和大橋、平和公園等の周囲への視界が開け、特に歩行時の微かな揺れと木材の質感は、都市部や市街地で体験することのない「渡っている」という感覚を利用者に刻みます。
教育の橋は、単に移動手段のための橋ではなく、「川と橋について考えるための場所、人やかけがえのない思いを運ぶ伝える場」です。
世界都市広島を記憶し、世界へ発信するひとつの場にしたいと考えています。
「存在感のない橋とすること」
物体として、存在感の強い平和大橋に対し、存在感の弱い(脇役としての)歩道橋をつくり、イサム・ノグチの平和大橋の存在や魅力をこれまで以上に高める橋にしたいと考えます。
脇役となる歩道橋は、与えられた橋詰め広場敷地を有効活用することで、驚くように薄く、軽やかな橋桁の歩道橋を架け渡します。
世界でも類を見ないハイブリット方式の構造を考案して、厚さ30cmの「存在感のない橋」を実現します。主役である平和大橋と並ぶことで、互いが互いの役割と魅力を助長するデザインを目指しています。
「知り学ぶ歩道橋であること」
二つの橋詰め広場には、イサム・ノグチが「平和大橋」と「西平和大橋」にこめた思いに敬意を表し同様にそれぞれに異なる意味を持たせた橋詰広場とします。平和公園側の西詰広場は、「過去の刻と呼応する場」をテーマにイサム・ノグチの二橋や、元安川や平和大通りの意味や意図(過去)を知る場に、また都心側の東詰広場では、「未来の刻と呼応する場」をテーマにこの新しい橋の情報展示を始め、都市の賑わい拠点広場とし、現在から未来を知る場所を意図します。
橋の基礎構造物を利用した円形広場は雁木をイメージした階段状となることで、意図された利用の他にも、普段は人々の交流や休息、イベント等の賑わいの場となります。移動空間だけの歩道橋ではありません。集まる人々へ「知り学ぶ」ことを通じて、愛されるべき場となっていくはずです。
「教育の橋となること」
平和記念公園では、全国から訪れる青少年や旅行者に、平和教育をする風景が日常です。平和教育の場は、丹下健三によるピースセンター、市民の憩いの場所であり慰霊の地でもある平和記念公園、原爆ドームの南北縦軸に対して、公園と賑わう街、平和大通りとを結ぶ東西横軸に位置する歩道橋においても、同様に教育(伝えるべきことを後生に受け次ぐ)
する場とするべきだと考えました。
水の都・橋の都ひろしまにおいて、橋には人や物を渡すこと以外に、込められた思い、橋が語ろうとしていることがあり、ソフト・ハード両面のさまざまな情報を受発信し、感じ取ることができる「教育の橋」づくりを目標テーマとしました。
■構造説明書
橋りょう形式
上部工:
両端変断面片持ち鋼箱桁+超低サグ・テンションブリッジ
(テンションブリッジ50.0m+片持ち箱桁15.5【19.5】m×2)
下部工:
鋼コンクリート複合橋台,壁式橋脚
基礎工:
中掘り鋼管杭基礎φ800
※【】内は下流側を示す。
上下工架設工法
片持ち箱桁部:
トラッククレーン(T.C.)架設工法(陸上より)
テンション構造部:
台船リフトアップ・回転架設工法(河川より)
工場で組み立てた吊床板部の部材を川を動力として運ぶことで、現場での工事を最小限におさえ、工期を短縮することにつなげています。
構造検討書の概要
(1) 上部工
「テンションブリッジ」はケーブル公式、「片持ち箱桁」は梁モデルにより死荷重時・設計荷重時(常時)の断面力を算出し、主要断面応力度を照査しています。
また、橋の「揺れ」については「テンションブリッジ」と「片持ち箱桁」の複合構造に対して、「張力」と「曲げ剛性」の両者を連成させた固有振動数解析を実施しています。各モードの固有振動数が歩行者の歩調のと共振しやすい、1.5~2.3[Hz]を回避させることで、歩行者の歩調に対して共振しにくいこと、かつ記憶に残る「揺れ」を体感できること、を両立させています。
(2)下部工・基礎工
テンションブリッジが有する約3500トンの張力が作用する状態で常時
・地震時(液状化時含む)の下部工各断面の応力度及び基礎工の変位
・応力度を照査しています。
主要材料
上部工:
テンションブリッジ・・・高張力ネジフシ棒鋼D51(SD345)
片持ち箱桁・・・SM400
下部工:
鉄筋・・・SD345
コンクリート・・・σck=240N/mm
基礎工:SKK400(最大肉厚t=19mm)
欄干:ガラス(強化ガラス15mm)+鋼
「手すりが振動を制御していること」
橋の欄干に鋼とガラスと樹脂の性能を利用した建築の耐震壁のを使用することで、揺れを制御しつつ、橋全体のフォルムも、この橋の外観上の特徴でもある薄く軽い床板と一体となった、軽やかさを実現しています。