SHARE 髙田博章+中畑昌之 / htmnによる「西美薗のリノベーション / ファンタスマゴリー」
102号室。
102号室。
202号室。
202号室。
205号室。
205号室。
以下、建築家によるテキストです。
西美薗のリノベーション / ファンタスマゴリー
Renovation at Nishimisono / Fantasmagorle
静岡県浜松市にある集合住宅3室のリノベーションである。物件は築25年のRC造、間取りはすべて2DK(51.67㎡)で、夫婦+子供1~2人という家族を想定して作られた集合住宅である。
地方の集合住宅(賃貸)の空室対策は難しい問題である。新築時には借り手が見つかりやすいが、時間が経つにつれて入居者がつきにくくなる。借り手にとって集合住宅の設えや間取りがどれも大差なく、主な交通手段が車という状況の中では、新しいかどうかという点が、唯一といっても良い選択の基準となってしまっている。また、ストックが過多な現状において、年月が経った集合住宅は他の建物と差異化を図る必要がある。しかし一戸建て信仰の強い地方では、賃貸住宅はどうしても新築を建てるまでの仮住まいという意識が強く、ファミリー世帯が必ずしも賃貸住宅に住空間の質を求めているわけではないため、オーナーとしても積極的な仕掛けが難しい。賃貸住宅の場合、不特定の入居者を考慮し、ある標準的な家族構成なり間取りを設定して、できるだけ多くの人のニーズに対応できるようにするのが一般的である。
ライフスタイルや家族形態がますます多様化していく中で、その標準は今もなお有効であるのか。私たちは、そうした曖昧な標準に依拠するのではなく、もう少し具体的なユーザーのイメージ、使用している
場面や嗜好性の強い仕上げをあえて取り込みながら設計した。
出来上がったそれぞれの部屋は、標準ではなくなったが、趣味を楽しみたい人、SOHOやスタジオのように利用したい人など、大多数ではなくむしろ限られた人に受け入れられるようなものになった。標準的なものでない賃貸住宅を求める層は、少なくても確実にいるはずで、そういった人とのマッチングを図った。言い換えれば、標準的な部屋で構わないという人に対してではなく、こんな賃貸住宅があれば良いのに、という積極的なモチベーションを持った人にアプローチしたいと考えた。
結果的に、他の類似した集合住宅と設えの差異を競い合うのではなく、それぞれに特徴をもった、間取りや仕上げが異なるリノベーションとなった。
102号室
戸建住宅に比べて賃貸住宅の物足りない点として、ガレージや庭などの場所が確保できないということがあげられる。そこで、家の中にモルタル仕上げの「土間」を設けた。例えば、植物に囲まれて暮らしたいと考えている方は、多少の水掛かりを気にすること無く思う存分植物を育て、また、自転車、サーフィンやスノーボードといった趣味を持った人は、道具の保管や手入れに適したスペースとなっている。それ以外にも土間の窓を開け放って、半屋外の部屋として使用することができる。土間部分とリビングとの間に設けたガラスの両面には縦縞のフィルムを互い違いに貼った。
霧がかったようなおぼろげな境界面は木の間隠れのように、視点の変化により隣室の見え方が変化する。隣室との境界ばかりでなく屋内外、そして機能的にも模糊とした境界を創りだしている。
202号室
細かく仕切られたいくつかの部屋ではなくて、水回り部分によって空間を緩やかに仕切り、全体を見通せないが繋がっている大きなワンルーム形式の部屋とした。使い方や仕切り方において自由度の高い部屋である。202号室は、アトリエ、スタジオ兼住居などのSOHO利用、事務所や小さなギャラリーなどさまざまな使い方を想定している。また構造上残さざるを得ない垂れ壁や袖壁の小口にミラーを張った。その写り込みによって、空間の奥行き感が多様に感じられ、単調なワンルームとならないよう意図した。
205号室
広めのLDK空間(約28㎡、17帖)をベースに寝室を1室設けた。LDK空間は東西に長く、一日中陽当たりが良い場所となっている。また寝室は北側にありながらも、部屋にある大きな開口によって、暗さを感じさせない。ここでは、天井を銀色に塗装した。銀色の塗装は、昼間は外からの光を柔らかく反射させ室内を明るくし、夜間は照明を天井に映し出し光の模様を浮かび上がらせる。またツヤのある天井は、その高さが直ぐには認識できず、より空間の広がりを感じられるのではないかと思う。