SHARE 鈴木宏亮+山村尚子/す ず き による、埼玉県川口市の店舗兼住宅「木箱の家」
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鈴木宏亮+山村尚子/す ず き が設計した、埼玉県川口市の店舗兼住宅「木箱の家」です。
40年の長い間、地域に根ざした美容室を営むお母さんと、
執筆活動を続けるお父さんのための仕事場兼住宅である。
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以下、建築家によるテキストです。
40年の長い間、地域に根ざした美容室を営むお母さんと、
執筆活動を続けるお父さんのための仕事場兼住宅である。
敷地は川口市の中心となるJR川口駅から少し離れた場所にある。
しかし、首都高速道路のICからは近く、車であれば都心までは30分もかからない。
周囲の土地は起伏が少なく、フラットに広がっている地域である。
交通の便とフラットな土地形状のためか、大きな工場や倉庫も多く存在する。
また、住宅の合間に埋もれるように、町工場や小さな倉庫も多く存在している。
住と働とが斑に存在している街であり、その中に本敷地は位置している。
日中は耳をすますと、どこからともなく、働く人の声や機械の音が聞こえてくる。
のんびりとした空気の中にも、住宅街や商店街とは少し違う、
微かな賑わいを抱きかかえているような雰囲気のある場所である。
ここに、住と働が混在する、地域の縮図となるような、仕事場兼住宅を設計した。
敷地形状は、間口7.9メートル、奥行き10メートルの長方形。
北西を幅員6メートルの道路に面し、南東にはその地域の地主さんの庭が広がる。
周囲に高い建物は無く、フラットな敷地である。
敷地内におけるボリューム配置は、
店舗としての用途を一番に考慮し、アプローチとポーチにもなるテラスの奥行きを保ちつつ、
道路側に可能な限り寄せて配置するものとした。
そうすることで、小さいながらも背面側には、庭を設けることができるようになり、
1階における、庭側の採光も得やすい状態となった。
住むのは、長く連れ添ったご夫婦。
二人ともそれぞれの仕事を持ち、今までも、それぞれの時間の流れの中で生活をしてきた。
そのため、二人のスペースは、わかりやすい形で独立できるものとし、
その中間地点を二人の生活の接点となる場として茶の間を配するものとした。
お互いの、生活と仕事のリズムで、
1階はお母さんの賑わいのある仕事場にもなり、
2階はお父さんの集中する仕事場ともなる。
様々な様相を呈する建築である。
平面サイズは、間口3間×奥行き4間(約5.5m×7.3m)。
無駄な場は設けることはせず、住空間と働空間を兼用していく考え方で、
可能な限りコンパクトなサイズにまとめるものとした。
平面計画は水周りや導線となるスペースを片側(1間)に寄せ、
室となる空間を可能な限り無駄なく、大きく取れるようにした。
短編(間口)方向の構造壁となる部分は1間分で確保し、
それ以外の部分は構造から開放し、大きな開口としている。
長手(奥行き)方向は、隣地と接するためプライバシーに配慮し、壁面としているが、
唯一、階段を上がりきった部分に開口を設けた。
これは、敷地が南北軸から振れているため、茶の間に朝日が入ることを期待したこと、
また、階段室を明るく保つことを狙ってのものである。
外部から見ると、木の塊に穿たれたような大きな開口は、
この建物の大きな個性の1つにもなっている。
マッスとボイドで構成される、シンプルな平面ダイアグラムを二つ重ねた計画となっており、
まるで、木塊から削り出して空間を作りだしたかのような形状になっている。
ボイド部分は、両方向の開口が、風洞のようなスペースを作り出し、
一日をかけて順々に日差しを取り入れていく。
仕事の場としても、生活の場としても、一日中、好ましい環境が得られるようになる。
さらに、そのスペースは、それぞれ建具で仕切ることができる。
状況次第でそれぞれ室を確保し、室同士の関係性も調整できるようにしている。
1階の道路側は美容室として土間空間になっている。
街とのレベル差が少なくなるようにし、より開かれた空間になるよう考慮している。
その奥には、着付け部屋兼お母さんの寝室にもなる場として、
250mm程レベルを上げた板の間になっている。
窓を開け放てば、美容室である土間部分は風が吹きぬける、街に開かれた大きな軒下空間となる。
縁側のような小上がりに腰かけ、話に華を咲かせる風景が思い描かれる。
街の美容室は、いわば街の相談所のような場所でもあり、現代の井戸端会議の議場でもある。
この場から生まれる賑わいが、街並みに活気を与えることを目論んでいる。
2階の道路側には、お母さんとお父さんの生活の中間地点ともなる茶の間が配置されている。
そこに配されたテラスは、街に対する物見台のような存在でもあり、
プライバシーを確保するため、道路からの視線をさえぎる目隠しのような存在でもある。
奥にはお父さんの執筆部屋兼寝室が開けた裏庭に向け配置され、
隣地の借景を存分に楽しむことが出来る。
2階に設けられたテラスは、布団を毎日干すお父さんからの要望でもある。
日中は、茶の間との間の建具は、開け放たれ一体の空間となっているが、
来客などがある場合は、建具を動かすことで、室の関係性や風通しなども調整することができ、
執筆活動を行う場としての空間を調整することが出来るであろう。
構造、内・外仕上げ共に木材を主に使用している。
木材は1つとして、同じ顔を持つことが無い。
節の有り無し、大きさ、位置、木目の有り方などの個性の違いが、味わいを生む。
開口からの日差しは、室内のあらわしの梁に、陰影と変化を生み出す。
空間に刻一刻と穏やかな変化を与えていく。
その変化で一日の時間や季節の移ろいを感じるようになるであろう。
時を経ることによる経年変化もまた、生活の中に穏やかな変化を与えて行くことになるであろう。
木材の最大の魅力は、不ぞろいであることも、古くなることも、
アジワイとなり、個性になることであろう。
長く連れ添ってきた二人の生活スタイルが生み出した、
とてもシンプルな平面構成を持つ木箱の家は、
自然の恩恵を大いに受け、一日、一年を通して、多様な姿を現す建築になるであろう。
美しさとは常に、時の流れを超えたものだけが得られるものである。そう信じている。
時代の変化と時の流れの中を生き抜いてきたご夫婦のように、
時の流れを美しく映し出し、それを超えていく建築になってほしい。
すずき/鈴木宏亮+山村尚子
■建築概要
意匠設計:鈴木宏亮+山村尚子/す ず き
構造設計:大川誠治
施工会社:ホームビルダー株式会社(担当:内村伸一)
所 在 地:埼玉県川口市弥平
主要用途:店舗兼住宅(店舗:美容室)
竣 工 年:2015年4月
規 模:地上2階建て
建築面積:39.93㎡
延床面積:79.50㎡
敷地面積:82.64㎡
構 造:木造(在来軸組)
仕 上 げ:
外 装:アカ松の上にノンロットクリア塗装(下地:ダイライトMS)
バルコニー:床/ウリン 手摺/スチール(亜鉛メッキ)
内 装:天井/構造梁・ラーチ合板 あらわし
床 /コンクリート金ゴテ(店舗)パイン無垢フローリング(住宅)
壁 /PBの上クロス