SHARE 元木大輔 / Daisuke Motogi Architectureによる、東京・茅場町でのアートフェアのデザイン会場「ART PHOTO TOKYO」
all photos©長谷川健太
元木大輔 / Daisuke Motogi Architectureによる、東京・茅場町でのアートフェアの会場デザイン「ART PHOTO TOKYO」です。
「茅場町にある空きビルを使ったアートフェアの会場をデザインして欲しい」という話をいただいた。毎日通勤で通過はしていたものの、実は降りたことがなかったのだけれど、茅場町は兜町とともに、高度経済成長期に証券取引の街として栄えていた街だ。でもインターネット取引の台頭とともに、急速に活気が失われてしまっている。会場となるのは、近い将来、再開発のために取り壊しが決まっているビルだった。
そのビルは、いわゆるオフィスビルのレイアウトで、中廊下の両側にかつて事務所が入居していた部屋が並んでいる。ところどころ古き良き昭和な感じの丁寧なディティールがあったりするのだけれど、夜逃げ同然に荷物が残っている部屋もいくつかあって、良くも悪くも「廃ビル」といった感じ。このビルの1~3階、それから8~9階を使い、30以上ある各階の部屋のレイアウトはそのまま、ギャラリーやフォトグラファーに作品を展示してもらう。展示室をつなぐ動線計画と共用部分のしつらえをデザインする、というのが僕らに求められた役割だった。
建築や空間デザインの面白いところの一つは、ショップのようにストーリーやコンセプトに従って、「コンテンツ」を作ることが求められる場合と、美術館や住宅のように、背景としての器「プラットフォーム」が求められる場合がある。(もちろん器にもコンテンツとしての機能はあって、美術館には魯山人の器が展示されていたりするのだけれど。)
アートフォト東京は、アートとしての写真だけでなく、ファッションやコマーシャルの世界で活躍するフォトグラファーの作品を並列にパッケージした見本市で、さらにイベント自体を東京発信のコンテンツとしてプレゼンテーションする必要があった。つまり、プラットフォームでありながらパッケージされたコンテンツでもあるという状態。
※以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
「茅場町にある空きビルを使ったアートフェアの会場をデザインして欲しい」という話をいただいた。毎日通勤で通過はしていたものの、実は降りたことがなかったのだけれど、茅場町は兜町とともに、高度経済成長期に証券取引の街として栄えていた街だ。でもインターネット取引の台頭とともに、急速に活気が失われてしまっている。会場となるのは、近い将来、再開発のために取り壊しが決まっているビルだった。
そのビルは、いわゆるオフィスビルのレイアウトで、中廊下の両側にかつて事務所が入居していた部屋が並んでいる。ところどころ古き良き昭和な感じの丁寧なディティールがあったりするのだけれど、夜逃げ同然に荷物が残っている部屋もいくつかあって、良くも悪くも「廃ビル」といった感じ。このビルの1~3階、それから8~9階を使い、30以上ある各階の部屋のレイアウトはそのまま、ギャラリーやフォトグラファーに作品を展示してもらう。展示室をつなぐ動線計画と共用部分のしつらえをデザインする、というのが僕らに求められた役割だった。
建築や空間デザインの面白いところの一つは、ショップのようにストーリーやコンセプトに従って、「コンテンツ」を作ることが求められる場合と、美術館や住宅のように、背景としての器「プラットフォーム」が求められる場合がある。(もちろん器にもコンテンツとしての機能はあって、美術館には魯山人の器が展示されていたりするのだけれど。)
アートフォト東京は、アートとしての写真だけでなく、ファッションやコマーシャルの世界で活躍するフォトグラファーの作品を並列にパッケージした見本市で、さらにイベント自体を東京発信のコンテンツとしてプレゼンテーションする必要があった。つまり、プラットフォームでありながらパッケージされたコンテンツでもあるという状態。
器だけが求められているのであれば、ホワイトキューブのように白く塗って、どうぞ、と差し出す方法もあったのだけれど、それだと会場が廃ビルである意味も無くなってしまうし、面白くない。しかも、業界的にはっきりと別れてしまっている、コマーシャルとアートの世界を、写真という切り口で一つにまとめて見せる場としては、色々な価値観が等価に扱われている状況がふさわしいように思えた。また、作品の質はもちろんハイレベルなのだけれど、キュレーションをしているわけではないので、全体を通した一貫したコンセプトのようなものもない。なので、廃ビルのコンテクストや、何より様々な写真家の個性や多様性を受け入れられる、ニュートラルなんだけど、ラグジュアリーブランドと赤ちょうちんが同居しているような、アクの強いプラットフォームを目指そうと思った。
できるだけ多くの要素があるのだけれど、全体でみるととしてはまとまっているような状態。そんな全てをフラットに扱う眼差しは、同時代的で、東京的だとも思う。そのためには例えば、ピカピカとザラザラとか、明るいと暗い、とか、綺麗と雑とか、安いと高いとか、できるだけたくさんの要素のコントラストがある状態が良いのではないか。
それから、アートフォト東京は4日間だけのイベントなので、設営に手間がかからない材料が好ましい。だから、工事現場で足場を作ったりする単管パイプを使うことにした。組立が簡単だし、何より安い。ラフな仕上げでそのままでもカッコいいのだけれど、ピカピカの金メッキに仕上げた。高額のアートを扱う場所にしては、少しラフすぎると思ったのと(それが良い場合もあるのだけれど)そのままだと仮設的でラフ、とう価値観を押し出しすぎる。ローファイな材料とゴールドという掛け合わせでカウンターを作ることで、ラグジュアリーさとラフさ、どちらかの価値観を否定せずに同居させることができると思った。さらに、単管パイプで組んだ脚にベニヤの天板を乗せて、ピカピカとザラザラという質感のコントラストもつけた。
エントランス、受付カウンター、スポンサーブース等がある明るく上品にしつらえられた1階から、展示室が始まる2階へと続く階段以降は壁紙と床を剥がしただけの、極めてラフな状態にしている。照明はサインを兼ねた撮影機材だけにしていて、暗く、ここでもコントラストを付けている。さっきも話にあがったけれど、「白い背景」というのは手っ取り早いく作れるし、展示空間としては条件が良い。その代り、白くて綺麗なしつらえは、雑多なものをノイズとして扱ってしまうし、ノイズを許容できない、神経質な質をもっている。展示室だけ綺麗になることで、例えばそこに至る廊下や階段が、楽屋裏のように感じてしまうのを避けたい。そのために、2階の最初の展示スペースは、残置物を積み上げてパーティションを作り、いきなり楽屋裏に展示がしてある状態を作った。
はじめに裏が裏ではなくなって、反転することで、どこまでがデザインされたもので、どこからがゴミなのかという境界が曖昧な体験が作れればおもしろいし、様々な作品の受け皿として、ふさわしいのではないかと考えたのだ。そうすることで、2階から始まるかつて事務所であった部屋を使った展示室だけでなく、何も手を加えていない廊下部分や、階段も、ただの脇役の動線でない状態として感じてもらえることを意図している。「誰かに見せるためにデザインされたもの」と、「たまたまそこにあったもの」を等価に感じる体験を通してあらゆるものを面白がることができる眼差しへと続くきっかけになってくれれば、嬉しいと思う。
■建築概要
Exhibition Design
Client: AFT
Location: Chuou-ku,Tokyo
Usage: Art Fair
Construction: TANK
Floor area: 4502.05 m2(include Exhibition Area)
Structure: RC
Date of completion: Nov/2016
Photo: Kenta Hasegawa <http://o-f-p.jp/>