all photos©山内紀人
山田誠一建築設計事務所が設計した、静岡県静岡市の「実相寺|開運山 壽福殿 清心院 毘沙門堂」です。
昨今の形式的で簡便な葬儀の在り方をはじめ、私たちの身の回りに溢れる様々な欲を満たす為の情報の氾濫などが原因となって、日常と死との距離が、以前に比べ急速に乖離しつつあるように思う.
それは、通夜を執り行うための小さな御堂のご依頼を頂いた寺院の御住職も感じられていたことで、独居老人や核家族化が増加していることも相まって、古くから続く寺院を中心とした地域のコミュニティまでもが、年々希薄になりつつある、ということだった.
計画においては、通夜を執り行う場をつくると同時に、地域コミュニティの新たな芽吹きとなるものを思考し、根源的な意味での「生と死の祈りの場」をつくることに行き着いた.
通夜の場で故人(死)と向き合うということは、故人(死)と自己(生)との記憶に向き合うということだ.するとそれは自然と自己(生)を見つめるという行為にもつながっていく.
つまり、死を通じて生へ、そして生から死へと、我々の存在(命)への思考のループが生まれていくことである.
この思考のループをつなげることで、他者や、事物、風景、記憶、そして自身を、本当の意味で慈しむことができるのではないだろうか.
その感情は、誰かと挨拶を交わすことや、誰かに手を差し伸べることなどの日常のコミュニケーションの発端へとつながっているように思う.そしてそういった日常の何気ないやりとりの先に、新たなコミュニティが生成されていくのだと考えた.
このように、根源的な意味での「生と死の祈りの場」を思い巡らせながら、建築家、家具作家、金物作家、造園家、その他多くの職人達、そしてクライアントである宗教家と協働することで、生と死に向き合うことのできる静謐な空間を目指した.