SHARE 伊藤維による、東京・渋谷区の、グローバル・スタートアップ企業の新社屋「Office Empath」
伊藤維による、東京・渋谷区の、グローバル・スタートアップ企業の新社屋「Office Empath」です。
音声認識AIによる感情解析技術を開発するグローバル・スタートアップ企業、「Empath」の新社屋を設計した。奥行きが深く両端に開口部を持つテナント空間(7階)を明快に分割し、フリーアドレスで社外の人でも立ち寄ることのできる「オープンスペース」、開発環境のセキュリティを担保する執務空間、そしてその中間に、どちら側にも属せる大小のミーティングスペースを確保した。オープンスペースでは執務・様々な形式の会議や休憩のほか、公開イベント・レクチャーなども行われる。
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以下、建築家によるテキストです。
音声認識AIによる感情解析技術を開発するグローバル・スタートアップ企業、「Empath」の新社屋を設計した。奥行きが深く両端に開口部を持つテナント空間(7階)を明快に分割し、フリーアドレスで社外の人でも立ち寄ることのできる「オープンスペース」、開発環境のセキュリティを担保する執務空間、そしてその中間に、どちら側にも属せる大小のミーティングスペースを確保した。オープンスペースでは執務・様々な形式の会議や休憩のほか、公開イベント・レクチャーなども行われる。
深層学習によって最適化を志向するAIと、最適化からどこまでも逃れていく(あるいは逃れたいであろう)と思われる人間の感情。この一見相矛盾する二つの事象を結びつけるチームが、思索を巡らせ、議論を深める場所として、「オープンスペース」は、意味の凝固しきらない空間、時に外部の世界や他者を取り込み、変化を感じられる空間であると良いと感じた。そして外形のない「感情」に取り組む企業のアイデンティティを体現すべく、加算的・装置的な多室空間によってではなく、できるだけシンプルな一室空間でそれを実現することが望ましいと考えた。
むき出しの天井、モルタルの床としたオープンスペースでは、等しい幅・高さで反復する枠なし扉で構成された肌理の異なる壁が、窓面からの光や風景、あるいは空間内の人・ものを、異なる様相で受け止める。またミーティングスペースへの出入りや一体利用時の開閉によって、鏡面の建具が像を変化させる。人の動かす「建具」という基本的な建築言語の抽象化・反復によって、背景としての空間でありながら、テクスチャや人・環境の機微が最大限に知覚されることを企図した。それは自閉・自己完結することの多い典型的な基準階のテナントに、ひとや都市、環境のダイナミズムに開かれた空間を挿し込み、コモンスペースの下地を現前させる、ささやかな試みでもある。
このプロジェクトは、mui Lab・KeyKilt・伊藤維の設計施工体制により実現した。
3者の密な連携により、スイスから遠隔での設計監理が可能となった。
■建築概要
所在地:東京都渋谷区
用途:事務所
設計監理:伊藤 維
施主:株式会社Empath
プロデュース:mui Lab
施工:合同会社keykilt
構造:鉄筋コンクリート(既存躯体)
仕上:オープンスペース
床:モルタル金コテ+防塵塗装
天井:躯体露し(既存天井撤去)
壁:塗装・ラーチ合板・鏡面
延床面積:164 m2
竣工:2018年5月
all photo credit:奥田正治
伊藤維
建築家。1985年岐阜県生まれ。2008年東京大学工学部建築学科卒業。藤村龍至建築設計事務所、シーラカンスK&Hを経て独立。2016年ハーバードデザイン大学院建築学修士課程(M.Arch.Ⅱ)修了。2017年コロンビアGSAPP特任助教。2017年よりETH Zurich建築学科助手。