SHARE 山路哲生建築設計事務所+釜萢誠司建築設計事務所による、東京・渋谷区の住宅「恵比寿の家」
山路哲生建築設計事務所+釜萢誠司建築設計事務所が設計した、東京・渋谷区の住宅「恵比寿の家」です。
当初この住宅はひとりの男性のための住まいとして設計された。
彼には同じ関東圏内で住まい、働く両親がおり、良好な家族関係を築いている一方で、日々の忙しさ故に家族の時間をつくることが難しくなってきていた。そこで、この住宅は彼と両親、またこれから増えるであろう将来の家族を含んだ3世代の家族、また友人たちが気軽に集まることのできる場所としても位置付けられており、機能的な要求としては別荘に近かった。それ故に、こう住まなければならないという固定的な住宅像にとらわれておらず、ひとつの住宅をシェアしながら誰かが常に行き交うような、自由な住まい方を模索していた。
住むこと、働くこと、集まることができる建築の設計プロセスは、独立した個々人が抱える膨大な要求を編集する作業だった。まず法的な最大ボリュームを1.7m×2.2mのモデュールによって5分割し、柱梁ともに100㎜×100㎜のH鋼のみで構成される格子状の形式をつくった。次にその形式のどの部分に床を挿入するか、というある種のゲームを、この建築を使う家族と共有した。
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以下、建築家によるテキストです。
家族がシェアする都市の別荘
当初この住宅はひとりの男性のための住まいとして設計された。
彼には同じ関東圏内で住まい、働く両親がおり、良好な家族関係を築いている一方で、日々の忙しさ故に家族の時間をつくることが難しくなってきていた。そこで、この住宅は彼と両親、またこれから増えるであろう将来の家族を含んだ3世代の家族、また友人たちが気軽に集まることのできる場所としても位置付けられており、機能的な要求としては別荘に近かった。それ故に、こう住まなければならないという固定的な住宅像にとらわれておらず、ひとつの住宅をシェアしながら誰かが常に行き交うような、自由な住まい方を模索していた。
住むこと、働くこと、集まることができる建築の設計プロセスは、独立した個々人が抱える膨大な要求を編集する作業だった。まず法的な最大ボリュームを1.7m×2.2mのモデュールによって5分割し、柱梁ともに100㎜×100㎜のH鋼のみで構成される格子状の形式をつくった。次にその形式のどの部分に床を挿入するか、というある種のゲームを、この建築を使う家族と共有した。
10坪の小さな建築面積と12mの高さの吹き抜けの中に床を挿入することになるため、そのゲームは立体的なパズルのようだった。浴室は見晴らしのよい場所がいい。寝室は落ち着いた上の方がいい。ダイニングはパーティができるように下の方がいい。平面的な思考が断面的に展開されていく。それは部屋と部屋との内部関係性から、見晴らしや風通しといった外部関係性を重視することに会話の中心が移る新鮮な設計体験であり、また同時に家族にとっては将来を話し合うコミュニケーションの場として設計プロセスが機能していたように思う。
離れているはずの部屋同士が近くに感じる。地下の1番奥のキッチンから空が大きく見える。洗面室から寝室を見下ろすと前面道路のアスファルト舗装が目に飛び込んでくる。隣の家の外壁がインテリアであるかのように内在される。小さな層間と薄いスラブは上下階の距離を縮め、区切られない部屋と部屋は行動を映画のシーンのように連続的に繋ぎ、風や光は途切れることなく建物の内外を行き来している。
シェアすることを許容した住宅は都市に対して開放的で、プライバシーといった内向的な諸条件から解き放たれているように感じられた。家族のプライバシーというものを都市から遮断するための隔壁ではなく、都市との距離を調整するためにそっと着衣される外皮のような存在にみえた。
この建物が竣工して1年になるが、先日家主とお話をすると、「生活するごとに少しずつ建物が自分に馴染んできている。楽しみながら住まい方を試している。」と表現してくれた。現在の彼は将来を見据えたパートナー、またその子供と、ひとつの住宅の中で楽しみながら日々の生活をシェアしている。
■建築概要
「恵比寿の家」
所在地:東京都渋谷区
構造:鉄骨造地下1階地上3階
敷地面積:64.41m2
建築面積:31.32m2
延床面積:98.90m2
竣工:2018年5月
設計監理:山路哲生建築設計事務所+釜萢誠司建築設計事務所
構造設計:清水構造計画
施工:巧匠建設
撮影:長谷川健太