SHARE MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOによる、東京・豊島区の寺院「松栄山仙行寺」
- 日程
- 2019年10月4日(金)–10月14日(月)
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOが設計した、東京・豊島区の寺院「松栄山仙行寺」です。また、2019年10月4日~10月14日の期間、こちらの建築にて建て替えに注目した展覧会「仙行寺本堂建替え 記憶の交差としてのアーカイブ」が開催されます。詳細は本記事の末尾をご確認ください。
プログラムは以前からあった寺(本堂)に加えて機械式納骨施設を含んだ、いわば寺と墓地の立体的な積層体であり、大きなボリュームとなることは避けられない。そこで思い至ったのは「山寺」という考え方である。比叡山延暦寺、身延山久遠寺など、いつも寺は山をその名に戴いている。山そのものが信仰の対象でもあるかのように、風景としても寺の背後には常に山が控えていて、それらは対をなしている。立体的な寺/墓地は大ボリュームとなって都市景観中に現れるのだから、むしろその大きさを生かし緑の山塊として、「寺のような、山のような」存在としてしまおうと考えたのである。
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以下、建築家によるテキストです。
来迎する「山」
「その石は踏んじゃだめだよ。お墓かもしれないからね。」
小ぶりな西瓜ぐらいの丸石の上を歩こうとしたら、今はもう亡くなった祖母にそう注意された。母方の代々の墓地は山の中にあって、濃く茂った木々の緑の中に、墓石なのか自然石なのか分からないような有様で、それは自然と混ざり合ってしまっていた。
南池袋という東京の最都心部で、納骨堂を含んだお寺の設計を依頼された際に思い起こした、たぶん小学生低学年時分の記憶である。
敷地はその記憶の中の墓地とは正反対に、人が作り出した都市環境の只中にあるが、建て替えの対象となった古い木造入母屋屋根の本堂と、その小さな境内にあった桜の老木は、人為に占拠された世界にあって、地域の人々にとっては、ほっと息をつける生命の一隅とでもいうような場所であったようだ。施主である住職親子は地域の人々が心豊かに暮らしていくことへの公共的な責任意識を持たれていて、地域のそういった日常の中での精神的な拠り所としてあり続けることを求められていた。
プログラムは以前からあった寺(本堂)に加えて機械式納骨施設を含んだ、いわば寺と墓地の立体的な積層体であり、大きなボリュームとなることは避けられない。そこで思い至ったのは「山寺」という考え方である。比叡山延暦寺、身延山久遠寺など、いつも寺は山をその名に戴いている。山そのものが信仰の対象でもあるかのように、風景としても寺の背後には常に山が控えていて、それらは対をなしている。立体的な寺/墓地は大ボリュームとなって都市景観中に現れるのだから、むしろその大きさを生かし緑の山塊として、「寺のような、山のような」存在としてしまおうと考えたのである。
建築は一層を地域開放の大仏殿、2〜6層を参拝施設、7階は法要を行う本堂とし、それらのRC構造体の上部に、軽やかな鉄骨造の書院を乗せた構成である。2〜7層の各スラブのテラス部に土入を施し、そこに主として関東の潜在植生の木々を植樹した後、それをカバーするようにして、銅管でできた簾状のスキンを7階パラペットから吊り下ろした。重力なりに懸垂曲線を描く銅の簾は、離れて通りから見れば視線を透過して、背後の樹々だけが緑の山塊となって都市に現れ、逆に近づいて見上げれば、伝統的な社寺建築の銅板葺きの反り屋根のようにイメージを転じ、新たに「山」に植えられた桜と共に、かつての本堂の記憶と接続している。更に、正面から山門を抜け、次第に高く反り上がっていく垂木と空間という構成もまた、以前の本堂から引き継いだものだ。
その暗い最奥部には木彫りの大仏が据えられているが、それは雲の上に乗り、地についていない。これは遠く浄土の世界から雲に乗って「来迎」したことを示しているそうだ。来迎によって人界にまで浄土が延長されてくるのだろう。私たちが今回行いたかったこともそれに近い。かつて祖母に連れられて行った、いずれ還っていく自然としての「山」を都市に「来迎」させることを願ったのだ。それは当然「山」そのものではないけれど、大仏という徴(しるし)と同様に、都市に山をつなげ、人々にそうした人間存在の有り方を思い出させる。こうした都市の風景を作り出すことに、新しい都市型の寺/墓地の公共性の意味を重ねたのである。
(原田真宏)
■建築概要
名称:松栄山仙行寺
英文名称:Shoeizan Sengyoji
所在地:東京都豊島区南池袋2-20-4
主要用途:寺院
敷地面積:297.07m2
建築面積:222.67m2
延床面積:1202.84m2
階数:地上8階
構造:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
設計期間:2016年5月〜2017年1月
施工期間:2017年4月〜2018年6月
設計:MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
構造:RGB STRUCTURE
設備:裕健環境設計
施工:佐藤秀
撮影:Eiji Kitada/北田英治
仙行寺本堂建替え 記憶の交差としてのアーカイブ
会期:2019年10月4日(金)~14日(月)
開場時間:9:00~18:00 ※14日(月)は12:00まで
日蓮宗松栄山 仙行寺(豊島区・池袋)
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIOの設計により、2018年7月に新本堂が落成した「仙行寺」の旧本堂取り壊しから新本堂落成までの記録を題材とする展覧会を開催いたします。
企画概要
建築の記録における主要なアプローチとして、建築の完成後に写真家等が記録者となって、自身や建築家の意図に沿って撮影を行い、その中から選択した数枚の写真によって建築の有り様を提示するというものがあります。しかし、そこに見ることができる像は、建築のほんの一側面にしか過ぎないのではないでしょうか。
私たちは、複数の人間による建築空間の継続的な記録作業を通して、初めて捉えることができる時間軸とイメージがあるのではないかと考えています。「仙行寺」の記録にあたっては、建築事務所/施工会社/事業協力会社/施主一家/写真家という、異なる専門性や立場から建築に参加する関係者が記録者となって、旧本堂取り壊しから新本堂落成までの約3年間に渡る記録を続けてきました。
複数の主観を介した「デジタルによる大量の記録写真」の中に立ち現れる「複層的な建築」像と、実際の建築空間を往還する時間を、是非ご体験ください。
プロジェクトメンバー
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
原田真宏 原田麻魚 京兼史泰
GRAPH
北川一成 髙島功
仙行寺
朝比奈文邃
芝浦工業大学原田真宏研究室
平井悠大 味村悠平 林侑也 神谷航 杉本泰輝 吉川一哉
ドミニク・チェン
新津保建秀
石山星亜良
記録撮影:株式会社佐藤秀 株式会社はせがわ 朝比奈凛 朝比奈晴
■開催概要
展覧会名:仙行寺本堂建替え 記憶の交差としてのアーカイブ
会期:2019年10月4日(金)~14日(月)
開場時間:9:00~18:00 ※14日(月)は12:00まで
会場:日蓮宗松栄山 仙行寺(豊島区・池袋)
住所:東京都豊島区南池袋2-20-4(Google Map)
観覧料:無料
協賛:吉川紙商事株式会社
助成:テルモ生命科学芸術財団
お問い合わせ:
megurodaikanyama@gmail.com
https://sites.google.com/view/sengyoji-archive
日蓮宗松栄山 仙行寺
〒171-0022 東京都豊島区南池袋2丁目20-4
仙行寺ホームページ http://www.sengyoji.jp/
アクセス
JR線/東武東上線/東京メトロ有楽町線・丸の内線・副都心線「池袋駅」東口より徒歩5分
西武池袋線「池袋駅」西武南口より徒歩4分
東京メトロ有楽町線「東池袋駅」1番出口より徒歩4分