グラフィックデザイナー 西村祐一 / Rimishunaと、京都国立近代美術館のキュレーター 本橋仁の展示デザインによる、展覧会「チェコ・デザイン 100年の旅」 photo©守屋友樹
グラフィックデザイナー 西村祐一 / Rimishuna と、京都国立近代美術館 のキュレーター 本橋仁 の展示デザインによる、展覧会「チェコ・デザイン 100年の旅 」です。
京都国立近代美術館でのこの展示は現在臨時休館中です。
美術館での展示におけるパネルやキャプションなどの文字情報の扱いは、日頃から細心の注意を払いたいと考えている。この展覧会は1900年から現代までのデザインをクロノロジーで紹介するものだ。紹介される作品の多くは「日用品」である。もしこれが、絵画作品や彫刻といった美術作品(Fine Art)であれば、作品名が書かれたキャプションを作品の近くに設置することは妥当な選択といえるだろう。
しかし、展示されるものが本展のように日用品である場合、どうだろうか。当然、普段の生活では日用品にベタベタとキャプションなど貼られていない。デザイン展においては作品が、あまりに「作品然」としすぎることは、応用美術(Applied Art)を扱うデザインにおいてはリアリティを失ってしまう。
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グラフィックデザイナー 西村祐一 / Rimishunaと、京都国立近代美術館のキュレーター 本橋仁の展示デザインによる、展覧会「チェコ・デザイン 100年の旅」
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グラフィックデザイナー 西村祐一 / Rimishunaと、京都国立近代美術館のキュレーター 本橋仁の展示デザインによる、展覧会「チェコ・デザイン 100年の旅」
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以下、設計者によるテキストです。
美術館での展示におけるパネルやキャプションなどの文字情報の扱いは、日頃から細心の注意を払いたいと考えている。この展覧会は1900年から現代までのデザインをクロノロジーで紹介するものだ。紹介される作品の多くは「日用品」である。もしこれが、絵画作品や彫刻といった美術作品(Fine Art)であれば、作品名が書かれたキャプションを作品の近くに設置することは妥当な選択といえるだろう。
しかし、展示されるものが本展のように日用品である場合、どうだろうか。当然、普段の生活では日用品にベタベタとキャプションなど貼られていない。デザイン展においては作品が、あまりに「作品然」としすぎることは、応用美術(Applied Art)を扱うデザインにおいてはリアリティを失ってしまう。
そこで、この展覧会では作品と文字情報とを完全に切り離す操作をおこなった。具体的には、作品の置かれたケース内部に作品とキャプションとを並べることは一切やめ、その代わりケースとは別の次元となる、もう一層のレイヤーをかけた。それを、解説やキャプションといったインフォメーションのレイヤーとして機能させた。こうした操作を徹底させることで、文字情報と作品の醸し出す時代の空気感とを混濁させないことを試みた。
また、あらたにデザインした構造物は、この美術館の既存のファシリティであるガラスケースや可動壁と、視覚的にも接続されている。1986年に槇文彦によって設計されたこの美術館の建築を尊重しながら、あらたな構造物である木のフレームを挿入する、アッサンブラージュ(立体コラージュ)の手法をとった。
会場を構成するうえで重要となったポイントを紹介する
1/ 章扉としての「椅子」
この展覧会は、アール・ヌーヴォーからはじまり、チェコ・キュビズム、アールデコとおよそ10年ごとのデザインの変遷を区切りながら紹介していく。そのうえで、各章の扉として椅子を設置した。椅子は、その技術とフォルムが一体化しており、それに経年劣化が加えられることで、その時代性をひと目で理解させることが可能であると考えた。
また同時に、椅子のフォルムを空間の演出として使うために、照明の影によるシルエットも活用した。椅子は通常のステージより少し高めに設定し、目線の高さでその技術を確認できるものとし、照明を通常より角度をつけることで、後ろに設けた半透明のプラスチックダンボールに、そのシルエットを投射した。
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グラフィックデザイナー 西村祐一 / Rimishunaと、京都国立近代美術館のキュレーター 本橋仁の展示デザインによる、展覧会「チェコ・デザイン 100年の旅」
2/ グラフィックデザイナーとの協働
会場全体に構築された木のフレームは、チェコの建築家、ズデニク・ロスマンに(Zdeněk Rossmann)よって出版された『広告におけるタイポグラフィーと写真(Písmo a fotografie v reklamě)』(1938)に掲載された展覧会のデザインを参照している。ロスマンは、チェコ人の建築家であり、グラフィックデザインと展示デザインの仕事で名を馳せた。彼の書籍に紹介された1931年にベルリンで開催された住宅建設組合のための展覧会(Exhibition Bulding Workers Unions, Berlin, 1931)を参照した。この展覧会は、ヘルベルト・バイヤー(Herbert Bayer, 1900-1985)と、モホリ=ナジ・ラースロー(Moholy-Nagy László, 1895-1946)、ヴァルター・グロピウス(Walter Adolph Georg Gropius, 1883-1969)の3人が、グラフィックや建築の垣根を超えて協働している。彼らの展示は、現代からみても非常に新鮮である。本展でも文字情報をいかに展示デザインに落とし込むかがポイントであり、展示デザインの初段階よりグラフィックデザイナーとキュレーターとの協働設計を試みた。
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グラフィックデザイナー 西村祐一 / Rimishunaと、京都国立近代美術館のキュレーター 本橋仁の展示デザインによる、展覧会「チェコ・デザイン 100年の旅」 展示デザインの参照元である住宅建設組合のための展覧会(Exhibition Bulding Workers Unions, Berlin, 1931)の会場風景(ズデニク・ロスマン『広告におけるタイポグラフィーと写真(Písmo a fotografie v reklamě)』1938より)
3/ デザインとしての多言語対応
国立美術館は、2017年より日英中韓による4ヶ国語表記が要求されている。通常、日本語をメインに、その他の言語は文字サイズを小さくして配置するのが常であった。こうしたヒエラルキーをもった言語の扱いを、今回の展覧会ではやめた。というのも、チェコという国と、当時のデザイナーの置かれた状況を考えたとき、ドイツ、フランス、そしてオーストリアなど隣国からの影響は大きい。そうした地政学的な観点からも、この展覧会は楽しむことができる。こうした事情は多様な言語構成を携えるヨーロッパ圏の公共機関ではスタンダードであり。複数の言語をヒエラルキーなく併記し、情報を客観的に伝える、スイス・スタイルと呼ばれる国際タイポグラフィー様式を踏襲した。
チェコ、スイス、日本とその背景は異なるが、ある周辺国との関係性のなかで複数言語が求められること。それを多言語対応という事情をポジティブにとらえ、デザインとして空間に展開した。
■建築概要
京都国立近代美術館「チェコ・デザイン 100年の旅」展 /
The National Museum of Modern Art, Kyoto / 100 Years of Czech Design
施主:京都国立近代美術館 , 読売新聞社 , チェコ国立プラハ工芸美術館
場所:京都市左京区
用途:展覧会会場設計
グラフィック:西村祐一(Rimishuna)
企画・設計:本橋仁(京都国立近代美術館)
施工:株式会社GODO(川村康裕・佐々木友恵・加藤志織)
施工期間:2020年2月26日―3月4日
竣工:2020年3月5日
写真:守屋友樹