SHARE 伊藤憲吾建築設計事務所による、大分・中津市の老人ホーム「光と風の宿」
伊藤憲吾建築設計事務所が設計した、大分・中津市の老人ホーム「光と風の宿」です。
大分県中津市に建つ老人ホームの増築工事である。
中津市は中津城のある城下町として歴史ある街並みを残している。それに対して本プロジェクトは木造で建てたいと要望があった。敷地は主要幹線道路に面した角地である。既存の老人ホームは4階建てのRC造で耐火建築であった。老人ホームに住まう方の安全を確保し、耐火建築に対しての木造増築の法的対応が課題となった。
法的な課題について先に述べる。増築であるが別棟として法的に取り扱い、構造的解釈をそれぞれの棟で行い耐火規制の捉え方を分けた。行政庁と協議の結果、渡り廊下部分を耐火建築と遮煙機能を設けた特定防火設備で区画することで耐火規制も区分することとした。都市木造化のケースとして可能性がある法的回答だと考えている。
城下町ではあるが周辺にそういった景観は多くない。今後の可能性を示唆するためにも屋根は入母屋屋根の変形型としている。外観は屋根と格子のみの印象である。格子は見込みサイズを変えているので均質な表情ではなく柔らかさを持つ表情となっている。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
大分県中津市に建つ老人ホームの増築工事である。
中津市は中津城のある城下町として歴史ある街並みを残している。それに対して本プロジェクトは木造で建てたいと要望があった。敷地は主要幹線道路に面した角地である。既存の老人ホームは4階建てのRC造で耐火建築であった。老人ホームに住まう方の安全を確保し、耐火建築に対しての木造増築の法的対応が課題となった。
法的な課題について先に述べる。増築であるが別棟として法的に取り扱い、構造的解釈をそれぞれの棟で行い耐火規制の捉え方を分けた。行政庁と協議の結果、渡り廊下部分を耐火建築と遮煙機能を設けた特定防火設備で区画することで耐火規制も区分することとした。都市木造化のケースとして可能性がある法的回答だと考えている。
城下町ではあるが周辺にそういった景観は多くない。今後の可能性を示唆するためにも屋根は入母屋屋根の変形型としている。外観は屋根と格子のみの印象である。格子は見込みサイズを変えているので均質な表情ではなく柔らかさを持つ表情となっている。
老人ホームは当然のように介護が必要になった方が住まう場所である。そのことから管理上の設計を重視しがちなのだが、まずは快適で安全な平面計画を行うこととした。2面道路に面した敷地であることから屋外への飛び出しの危険性が高いため、道路に対しては格子と縁側を設けバッファゾーンとして緩やかに区分けした。その上で中庭を囲い込み安全な屋外空間を設けている。中庭をホールと回廊で囲い込み屋外的な光と風を感じる中間領域を生んでいる。外部の格子は内部の格子と連動し、内外の空間を曖昧にしている。個室のプライバシー性を高め、廊下にはパブリック性を感じる空間となった。閉塞感のない老人ホームになったと自負している。
歳を重ね痴呆や肉体的な衰えは誰しもむかえることだが、人としての尊厳を最後の時まで保つことが失われてはいけないように思う。閉じ込められるような空間では尊厳が保てるとは言い難い。中庭の屋外は光と風と緑の自由を感じるところである。公共性を感じる廊下は社会の一員としての存在を感じさせてくれる。行き止まりのない回廊は徘徊を妨げない。吹き抜けを介して事務空間からの見守りも出来る。ホールは東向きに開放感を高め朝日の中で朝食を食べることができる。
ここに住む予定の女性は「ここに引っ越したらスカートを履きたい」と言っていた。生きる楽しさが空間にあるのだとしたら有難い言葉だった。
■建築概要
所在地/大分県中津市
主要用途/老人ホーム
———-
設計
建築設計:伊藤憲吾建築設計事務所
担当 伊藤憲吾、原大地(元スタッフ)、河野秀一
内装デザイン協力:atelier arks 荒木明
実施設計協力:深見建築設計室 深見暢祐
構造設計:きいぷらん 山下智
設備設計:株式会社 桑野設計 桑野尚樹
コンサルタント:株式会社 アイランド
運営:株式会社はぴねすさぽーと
———-
施工
立石建設:株式会社
写真撮影:八代写真事務所 八代哲弥
構造・工法:主体構造 木造在来工法
規模
階数:地上2階建て
敷地面積:2986㎡
建築面積:665㎡
延べ面積:672㎡
———-
工程
設計期間:2018年09月~2019年03月
工事期間:2019年07月~2020年02月14日