SHARE 村山徹と杉山幸一郎による連載エッセイ ”今、なに考えて建築つくってる?” 第0回「イントロダクション」
イントロダクション:今、なに考えて建築つくってる?
アーキテクチャーフォトでは、建築家の村山徹と杉山幸一郎による連載をスタートします。
お二人から企画趣旨を説明する役割を頂き、弊サイト編集長の後藤が連載の第0回としてこの文章を執筆しています。
その切っ掛けは、コロナ禍の2021年に村山の授業で杉山がレクチャーをしたこと。意気投合した二人はそこで語り合った内容を発展させ文章に定着することを思いつきました。既に二人と繋がっていた私がそこに加わる形で構想を発展させ辿り着いたのが今回の連載企画です。
まずこの二人の建築家について紹介させてください。
村山徹は、青木淳建築計画事務所勤務の後、加藤亜矢子と2010年にムトカ建築事務所を設立し活動しています。アート関係の施設や住宅等を多数手がけており、アーキテクチャーフォトでの様々な作品紹介にてご存知の方も多いと思います。
杉山幸一郎は、アトリエ ピーター・ズントー勤務の後2021年末に独立、スイスのクールを拠点に土屋紘奈とatelier tsuを設立しました。現在はスイス連邦工科大学でデザインアシスタントも務めています。また、アーキテクチャーフォトでの連載「For The Architectural Innocent」にて知ってくださっている方も多いと思います。
それぞれの経歴や拠点は異なりますが、以前よりこの二人には重なる部分があるという思いを持っていました。
この文章を構想する最中の2021年12月から2022年1月にかけて、二人の最新作品をこの目で見る機会に恵まれました。「WOTA office project」と「スイスのかたち、日本のかたち」です。
村山の作品である「WOTA office project」は東京・馬喰町の旧銀行を改修したオフィスです(ムトカとしての仕事です)。延床面積は約1600㎡の大規模なリノベーションですが、これまで村山が取り組んできた店舗や住宅の延長線上にある手法が発展させられており、2010年代に一般化したリノベーションという仕事の先にあるものを痛烈に感じさせてくれる建築でした。
杉山の作品が展示された「スイスのかたち、日本のかたち」は、ドローイングと立体作品を展示したもので、建築物とはちょっと違いますが、彼の歩んできた建築人生を形に表したもので、非常に説得力がありました。その作品からは、自身の経験と学びを素直に捉え、自分だけの建築を探求していこうとする姿勢を爽やかに感じさせてくれるものでした。
これらの展示は既にレポートしていますので、宜しければご覧ください。
- “WOTA office project”のレビュー「リノベーション建築の作法がスケールの壁を越えた時に生まれるもの」
- “スイスのかたち、日本のかたち”のレビュー「師の影響を素直に受け入れた上で生まれる建築家の個性」
彼らの作品を実際に見て、改めてその共通点について考えました。
少し考えて気づいたのは、彼らが建築の実体としての側面を重視しているということです。
実際に経験した村山の作品からは、建築における形と素材への信頼が強く感じられましたし、杉山の作品からは自身が思考し続けてきたことを、色や形に精密に定着させようとする強い意志を感じました。メディアが多様化しイメージが先行することが避けられない時代においても真摯にものをつくろうとしています。
そんな二人が執筆する連載のタイトルは「今、なに考えて建築つくってる?」です。
先にも書きましたが今回の連載にあたり3人でミーティングやメールでのやりとりを行いました。そこで話題になったことは様々です。自分たちが学生時代に影響を受けた書籍や言説について。この時代に建築家として発信しなければいけないことは何か。今の建築学生や若い設計者について思うこと等々。そんなざっくばらんなブレストを重ねる中で三者が共通して今すべきと考えることや方向性が浮かび上がってきました。
それは以下のようなものです。
・若い世代の建築設計に関わる人たちの助言となるようなものであること
・変化の激しい今の社会のなかでの、実践者だからこその気づきを伝えること
・実用的であると同時に建築とは何かを問いかけるものであること
こう書くとある種の教科書的な内容だと思われるかもしれません。もちろんそれを意図している部分もありますが、一方的に教えるというよりも、私たちもこの連載を通して今建築とは何かを問い直してみたいと考えています。
当然ですが、我々も建築の学びの真っただ中にいます。社会は常に変化していきますし、その社会の中で造られる建築の概念や在り方も常に変化していきます。建築に関わるには常に学び続け考え続ける必要があると考えています。
そんな方向性を共有したうえで、具体的な執筆テーマを出し合い10個に絞りました。
1、コストとレギュレーション
2、サステイナブルと正しさ
3、かたちと寸法
4、構造と工法
5、素材と仕上げ
6、リファレンスと歴史
7、プレゼンテーションとパブリッシュ
8、ふつう と らしさ
9、プログラムと事業性
10、コンテクストとロジック
どのトピックも現代の建築設計の実践の中では欠かせない問題を取り扱っていると思います(各エッセイは、村山と杉山がそれぞれの経験や特性に合わせて分担して執筆します)。
10個のテーマは決まっていますが、現在決まっているのはただそれだけです。
これから執筆される内容は二人の建築家が日々行っている実践の中での気づきが反映され、今この時だからこその内容になるはずです。同時代を生きる実践者から紡がれる生きた言葉を、読者の皆さんが建築を学び考える切っ掛けとして頂ければと思っています。
どうぞ、ご期待ください。
後藤連平
アーキテクチャーフォト編集長。アーキテクチャーフォト株式会社代表取締役。1979年静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織系設計事務所勤務の後、小規模設計事務所勤務。2003年に始めたウェブでの発信を2007年に「アーキテクチャーフォト®」に改編し今に至るまで継続。現在はメディア活動等に専念。たった独り地方・浜松ではじめた小さなメディアを、建築意匠という特化した世界で、日本を代表する存在までに育てる。 著書に『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)、編著に『“山”と“谷”を楽しむ建築家の人生』(ユウブックス、 山﨑健太郎・西田司との協働)等。インタビューは『GA Japan 145』(ADA EDITA Tokyo)等掲載多数。