SHARE 肥前浜駅デザイン検討プロジェクトチームの設計監修による、佐賀・鹿島市の「JR肥前浜駅交流拠点施設」。1930年竣工駅舎を復原し交流拠点の増築も行う公共事業、計画は痕跡調査等の歴史的考証を踏まえ行われ、増築部では既存の素材参照等により調和を意識しつつも模造的である事を回避する繊細な設計が行われる
肥前浜駅デザイン検討プロジェクトチーム / 三島伸雄・平瀬有人の建築設計監修・監理による、佐賀・鹿島市の「JR肥前浜駅交流拠点施設」です。景観デザイン・外構設計監修を、肥前浜駅デザイン検討プロジェクトチーム / 高尾忠志・増山晃太、建築設計を三原建築設計事務所、広場設計・外構設計を建設技術センター+Takebayashi Landscape Architectsが手掛けています。
1930年竣工駅舎を復原し交流拠点の増築も行う公共事業、計画は痕跡調査等の歴史的考証を踏まえ行われ、増築部では既存の素材参照等により調和を意識しつつも模造的である事を回避する繊細な設計が行われました。
駅舎は1930年竣工で、鉄道省が「小停車場本屋標準図」(昭和5年10月6日制定)の第五號型に基づいて建設したと推定される。半切妻平入・下見板張の木造平屋建てであったが、1985年頃に切妻屋根・一部竪羽目板張りで3連キャノピーを有する正面外観に改造され、また一部解体・増築されている状況であった。
本計画は、佐賀県事業として、歴史的考証を踏まえて駅舎復原と増築を行った。痕跡調査の結果、建設当初に復原するには根拠が不明の部分が多いこと、最も肥前浜駅からの道沿いが最も栄えていたのは昭和以降であることなどから古写真を元に1945年代の姿に復原し、解体時調査より塗装痕跡を判断して薄桜色の外壁・内壁の塗装色を採用することにした。
増築にあたり、既存駅舎に復原したスレート葺きの屋根を増築部にも連続させ、柱割りも既存駅舎のモジュールを採用するなど、新旧が調和するようなデザインを検討した。増築部外壁にはアルミアングルを挿入することで、塗材クラック防止とともに既存駅舎の開口部高さからの連続性を意識している。増築部に既存駅舎に似せた要素を用いると、築後80年以上の時間差の感じられないイミテーションになってしまうと考え、敢えて違う要素を挿入することで、新旧の要素が対峙しつつも渾然一体となった風景を目指し、駅前広場整備と併せて計画した。
駅前広場は、JR九州所有であるが、鹿島市がJR九州に承諾を得て、街なみ環境整備事業により整備した。本計画では、当初ロータリーの整備等も検討したが、地域住民が高校生送迎等で車を寄せる際に正面に縦列駐車する慣習を持っていること、土日等にその駐車部分にテント等を張ってイベントを行いたいというNPOの意向があること、駐輪場が老朽化しており維持管理しやすい駐輪場が求められていることなどを踏まえて、住民の暮らしやまちづくり活動の要求に応える歩車共存広場とした。歩車の境界や段差をなくし、さりげないデザインで車動線やイベントスペースを表現した。
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以下、建築家によるテキストです。
佐賀県鹿島市にある長崎本線・JR肥前浜駅交流拠点施設としての駅舎復原・増築および駅前広場整備の計画である。
駅舎は1930年竣工で、鉄道省が「小停車場本屋標準図」(昭和5年10月6日制定)の第五號型に基づいて建設したと推定される。半切妻平入・下見板張の木造平屋建てであったが、1985年頃に切妻屋根・一部竪羽目板張りで3連キャノピーを有する正面外観に改造され、また一部解体・増築されている状況であった。
本計画は、佐賀県事業として、歴史的考証を踏まえて駅舎復原と増築を行った。痕跡調査の結果、建設当初に復原するには根拠が不明の部分が多いこと、最も肥前浜駅からの道沿いが最も栄えていたのは昭和以降であることなどから古写真を元に1945年代の姿に復原し、解体時調査より塗装痕跡を判断して薄桜色の外壁・内壁の塗装色を採用することにした。
既存駅舎を復原し北側へ増築することで駅舎と一体的な交流拠点施設を整備したが、計画にあたっては、NPO法人肥前浜宿水とまちなみの会における「未来まちづくり構想」で情報共有を行なって意見徴収したほか、東部中学校で中学生対象のワークショップを実施し、利用者のニーズの把握を行なった。そのニーズを踏まえ、復原部には駅舎の待合コンコースのほか重要伝統的建造物群保存地区「肥前浜宿」への観光案内機能を強化するためのNPO等活動スペース・オフィスとともに、地域居住者の立ち寄りやすいギャラリーを設け、屋根付き広場を挟んでショップ・カフェ(2020年、OpenA設計により日本酒バー「浜バー」に改修)とトイレを増築している。既存駅舎からの動線を考慮して、増築部の下屋を既存駅舎まで延長した。また、増築部は約1mホーム側からオフセットすることでホーム内に足場を掛けずに保守管理が可能なようにしている。
増築にあたり、既存駅舎に復原したスレート葺きの屋根を増築部にも連続させ、柱割りも既存駅舎のモジュールを採用するなど、新旧が調和するようなデザインを検討した。増築部外壁にはアルミアングルを挿入することで、塗材クラック防止とともに既存駅舎の開口部高さからの連続性を意識している。増築部に既存駅舎に似せた要素を用いると、築後80年以上の時間差の感じられないイミテーションになってしまうと考え、敢えて違う要素を挿入することで、新旧の要素が対峙しつつも渾然一体となった風景を目指し、駅前広場整備と併せて計画した。
駅前広場は、JR九州所有であるが、鹿島市がJR九州に承諾を得て、街なみ環境整備事業により整備した。本計画では、当初ロータリーの整備等も検討したが、地域住民が高校生送迎等で車を寄せる際に正面に縦列駐車する慣習を持っていること、土日等にその駐車部分にテント等を張ってイベントを行いたいというNPOの意向があること、駐輪場が老朽化しており維持管理しやすい駐輪場が求められていることなどを踏まえて、住民の暮らしやまちづくり活動の要求に応える歩車共存広場とした。歩車の境界や段差をなくし、さりげないデザインで車動線やイベントスペースを表現した。
そして、この地域の在来植物である高木群と駐輪場の配置により、広場中央にヴォイド(間)が生まれるよう囲まれ感をつくった。余計なものが何もない空間とし、祭事と静かな日常の両方で新たな活動、想像や追憶を加えられる余白を表現した。採取可能なうち最も敷地から近い川砂利を採用した脱色アスファルト舗装など、用いる素材は駅舎や肥前浜宿の街並みと調和し、エイジングにより風合いが増すものを選んだ。同じ川砂利を用いた高木の砂利マルチングは、広場表面の雨水を浸透・流出遅延させる機能ももたせた。
歩車共存広場が日常・非日常時のシェアードスペースとなるよう、また道路側から駅舎の視認性が高くなるよう、老朽化している既存駐輪場は広場東側端部に再整備した。駐輪場は駅舎を引き立てるように、駅舎の軒高さと合わせたシンプルな造形とし、9mm・16mmの溶融亜鉛メッキの鋼板の組み合わせによって構造材をそのまま仕上げとしている。H形鋼の梁は横使いすることでウェブ上部を棟樋とし、9mm鋼板の壁柱内部に縦樋を納めている。また、H形鋼の梁ウェブ下部にはシームレスライン照明を仕込むことで、夜間は壁柱に反射して明るい風景をつくり出している。
本計画が実現したことにより、地域から非常によい反応が得られている。整備された直後には、夜景を見学に来る住民たちの姿が見られた。電車の待ち時間に駅舎内で勉強していた高校生から冷暖房の効いた快適な環境で勉強が捗るようになったという声が聞かれ、また観光客が日本酒を楽しみながら電車を待つ姿が見られる。JR九州の協力もあり、36+3などの特別列車も毎週月曜日に1時間停車し、観光客が駅前イベント等を楽しむ姿が見られて好評である。
今回の計画では、駅前広場に接続する駅前通り(県道)の計画も将来を見据えて行なった。もともと農地に整備されたものであるので、周辺の宅地より高い道路高になって、道路法面と宅地とのすり合わせの問題を抱えている。また、観光客が肥前浜宿に歩いて行きやすい環境を創出することを目指して、電柱のソフト地中化、電灯整備などの計画を行なっている。今後、その整備等が実施されれば、肥前浜宿の歴史的環境を生かすまちづくりがますます進展すると期待される。
■建築概要
建物名称:JR肥前浜駅交流拠点施設
所在地:佐賀県鹿島市浜町930-2
用途:駅舎・交流拠点施設
建築主:佐賀県及び鹿島市
建築設計監修・監理:肥前浜駅デザイン検討プロジェクトチーム/三島伸雄・平瀬有人
景観デザイン・外構設計監修:肥前浜駅デザイン検討プロジェクトチーム/高尾忠志・増山晃太
建築設計:三原建築設計事務所(織田淳)
構造設計(駐輪場):yAt構造設計事務所(森部康司)
広場設計・外構設計:建設技術センター(懸樋喜康・松尾和人)+Takebayashi Landscape Architects(竹林知樹)
ニーズ把握調査(ワークショップ・アンケート調査):建設技術センター(懸樋喜康・松尾和人)
照明デザイン協力:LIGHT・PLAN(山本博之)
施工:川原建設(建築)・植松建設(駐輪場)・中野建設(広場・外構)
構造:木造(建築)・鉄骨造(駐輪場)
階数:地上1階
敷地面積:4,134.25㎡
建築面積:264.67㎡(建築)・61.80㎡(駐輪場)
延床面積:147.25㎡(建築/既存 /86.95㎡・増築/ 60.30㎡)・61.80㎡(駐輪場)
設計期間:2017年1月- 8月(建築)
施工期間:2017年11月-2018年3月(建築)
設計期間:2019年1月- 8月(駐輪場)
施工期間:2019年10月-2020年3月(駐輪場)
設計期間:2017年1月- 8月(広場・外構)
施工期間:2020年6月-2021年3月(広場・外構)
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外構・床 | 外構 | モルタル洗い出し |
外装・壁 | 外壁(建築/増築) | |
外装・壁 | 外壁(既存) | しっくい |
外装・壁 | 外壁(増築) | アクリル意匠性塗材 |
外装・壁 | 外壁(駐輪場) | 鋼板SN400B溶融亜鉛メッキ PL-9 |
外装・屋根 | 屋根(建築) | |
外装・屋根 | 屋根・外壁(駐輪場) | 鋼板SN400B溶融亜鉛メッキ PL-9、16mm(高木鉄工) |
内装・床 | 床 | モルタル金鏝 |
内装・壁 | 内壁・外壁(建築/既存) | |
内装・壁 | 内壁(建築/既存) | |
内装・天井 | 天井(既存) | 既存漆喰天井NAD |
内装・天井 | 天井(増築) | シナベニア合板 t=5.5 EP拭取 目透し |
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