岩堀未来長尾亜子建築設計事務所が設計した、千葉・我孫子市の住戸改修「素の家」です。
50代夫婦の為に計画されました。建築家は、高齢化後を見据えた“ウェルビーイング”を目指し、身体と社会の“バリア”の解消を志向しました。そして、自然を取り込み設備が整った場と可動式の“棚柱”等で多様な生活様式に応える空間を設計しました。
1970年代に建てられた分譲集合住宅団地の一住戸をリノベーションした住まいである。
施主は50代夫婦で、オフィスとしても使用でき高齢化した時に心地よく楽しい生活ができることが求められた。
団地内は数十年の歳月により緑豊かな公園のような環境となっている(第31回BELCA賞を受賞)。一方、既存住戸は高齢者にとっての身体的バリア(体力の低下や感覚の鈍化した時の使い難さや心地悪さ)や社会的バリア(他者との交流のし難さ)がある。この公園のような環境とつなげ既存住戸のバリアを解消するリノベーションを行うことで、従来のバリアフリー住宅という概念に留まらない高齢者のウェルビーイングを実現する良質でアフォーダブルな住宅ができると考えた。
既存住戸の3LDKの造作を解体して一室空間とし、豊かな緑と自然の光と風を最大限取込み、広々として動きやすいかつての日本家屋の座敷のような場を作った。この一体的な場を間柱または棚のようなものと配線部材を兼用した鴨居とのようなものと蚊帳生地だけで柔らかく仕切り、一体感のある場の中に景色や明るさや大きさが異なる多様な場を作った。
最小限の仕切りはライフスタイルに応じて手をかける余地があり、それぞれの場所の使い方を考えたり、仕事や趣味など他者との交流ができる場所を作ったりすることを可能にし、それが生活の楽しさや外とのつながりを生み出す。
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以下、建築家によるテキストです。
「弱い建築」としての住まい
―高齢者のウェルビーイングを実現するアフォーダブル住宅のプロトタイプ―
1970年代に建てられた分譲集合住宅団地の一住戸をリノベーションした住まいである。
施主は50代夫婦で、オフィスとしても使用でき高齢化した時に心地よく楽しい生活ができることが求められた。
団地内は数十年の歳月により緑豊かな公園のような環境となっている(第31回BELCA賞を受賞)。一方、既存住戸は高齢者にとっての身体的バリア(体力の低下や感覚の鈍化した時の使い難さや心地悪さ)や社会的バリア(他者との交流のし難さ)がある。この公園のような環境とつなげ既存住戸のバリアを解消するリノベーションを行うことで、従来のバリアフリー住宅という概念に留まらない高齢者のウェルビーイングを実現する良質でアフォーダブルな住宅ができると考えた。
既存住戸の3LDKの造作を解体して一室空間とし、豊かな緑と自然の光と風を最大限取込み、広々として動きやすいかつての日本家屋の座敷のような場を作った。この一体的な場を間柱または棚のようなものと配線部材を兼用した鴨居とのようなものと蚊帳生地だけで柔らかく仕切り、一体感のある場の中に景色や明るさや大きさが異なる多様な場を作った。
最小限の仕切りはライフスタイルに応じて手をかける余地があり、それぞれの場所の使い方を考えたり、仕事や趣味など他者との交流ができる場所を作ったりすることを可能にし、それが生活の楽しさや外とのつながりを生み出す。
また十分な断熱、既存暖房パネルと床下に新設した水パックの蓄熱層を連動させた暖房システム、ウインドキャチャー等により、冬は放射による仄かな暖かさに包まれ夏は通風により涼をとることができる。優しい温かさや穏やかな風が、高齢者の低下した体力や鈍化した感覚に対して開放感のある心地よさを作り出す。
高齢者という弱い存在のウェルビーイングを実現するという目標に基づいてデザインした結果、周囲の環境と交流しながら長い時間を掛けて生活の創造を促していく余白のような「弱い建築」が生まれた。
■建築概要
作品名:素(しろ)の家
所在地:千葉県我孫子市
主用途:住宅
建築設計・監理:岩堀未来長尾亜子建築設計事務所 担当/岩堀未来、長尾亜子
環境設備:ZO設計室 担当/柿沼整三
環境調査アドバイザー:静岡理工科大学 鍋島佑基研究室
施工:小川共立建設
構造:プレキャスト鉄骨鉄筋コンクリート造
階数:地上14階 塔屋1階
敷地面積:63,000m2(団地全体)
建築面積:19,000m2(団地全体)
延床面積:74.25m2(専有面積)、96,000m2(団地全体)
設計期間:2020年10月~2021年7月
施工期間:2021年7月~2021年12月
写真:淺川敏