伯耆原洋太 / HAMS and, Studioが設計した、東京の住戸改修「切断の諸相04『One Nuance』」です。
共働きの夫婦の為の住居です。建築家は、多様な活動の受容と将来の変化への追従を求め、構成・色・素材の操作で空間全体に“微妙な差異”をつくる設計を志向しました。また、各部屋毎に異なる建具を用いて主空間のリビングの多様な表情も作る事も意図されました。
東京の郊外にある30代夫婦の住宅である。耐震改修のされたマンションに50年間住み続けるための、変化に追従できる余白あるリノベーションを計画した。
Nuanceとは感情や意味、色、音、表現の「微妙な差異」を指す。高度経済成長期に大量生産された既存の骨格は典型的な田の字プランによって形成され、「場」と「使われ方」が1:1の関係にある。そこには余白や余裕が介在しない。
リモートワークをする共働きの夫婦の多様な活動を受け入れ、現代の暮らしにアップデートすべく、On/Offの間のどこかの気持ち、Active/Relaxの間のどこかの気分、もしくはそのどちらでもない微妙な差異、中間領域であるNuanceを空間構成/色/素材によって創り出すことで、自身の気持ちの機微を読み取り、今は「あそこ」で「あれ」をしたいと選び取れる家を目指した。
典型的田の字プランの弱点ともいえる廊下空間を解体し、生活動線を明るく開放的かつ衛生的な場所としてリビング側に吸収させ、全体の広さ感を作り出した。また、リビングと小部屋がダイレクトに接することで、各部屋の行為や気配感としてのNuanceがリビングに伝搬し、賑わいと余白が創出される街路・広場空間となることを試みた。
光を取り入れる「外口」と生活を縁取る「内口」の二重開口によって、連続性と広がりのあるファサードを内部空間側に創り出す。インナーファサードの多様な表情が街路を形成し、広場としてのリビングにNuanceを与える。内口は小部屋の用途によって形を変え、また、建具(開き戸、カーテン、引戸、欄間)によって表情を変えている。住宅のもつ当然の設えがインナーファサードに細かい表情を創り出す。建具の綴じ具合に寄ってリビングの明暗というNuanceは決定的に変化する。
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以下、建築家によるテキストです。
東京の郊外にある30代夫婦の住宅である。
耐震改修のされたマンションに50年間住み続けるための、変化に追従できる余白あるリノベーションを計画した。
Nuanceとは感情や意味、色、音、表現の「微妙な差異」を指す。高度経済成長期に大量生産された既存の骨格は典型的な田の字プランによって形成され、「場」と「使われ方」が1:1の関係にある。そこには余白や余裕が介在しない。
リモートワークをする共働きの夫婦の多様な活動を受け入れ、現代の暮らしにアップデートすべく、On/Offの間のどこかの気持ち、Active/Relaxの間のどこかの気分、もしくはそのどちらでもない微妙な差異、中間領域であるNuanceを空間構成/色/素材によって創り出すことで、自身の気持ちの機微を読み取り、今は「あそこ」で「あれ」をしたいと選び取れる家を目指した。
既存建物は、間口と奥行寸法は典型的な日本のマンションのプロポーションでありながら、角部屋であることから長辺入りの玄関、三方向の開口というプランの強みを持っている。強みを最大限活かすべく、外壁側に小部屋群を配置し、リビングから各小部屋へダイレクトにアクセスすることで、壁で区切られた廊下空間を徹底的に排除した。
典型的田の字プランの弱点ともいえる廊下空間を解体し、生活動線を明るく開放的かつ衛生的な場所としてリビング側に吸収させ、全体の広さ感を作り出した。また、リビングと小部屋がダイレクトに接することで、各部屋の行為や気配感としてのNuanceがリビングに伝搬し、賑わいと余白が創出される街路・広場空間となることを試みた。
光を取り入れる「外口」と生活を縁取る「内口」の二重開口によって、連続性と広がりのあるファサードを内部空間側に創り出す。インナーファサードの多様な表情が街路を形成し、広場としてのリビングにNuanceを与える。内口は小部屋の用途によって形を変え、また、建具(開き戸、カーテン、引戸、欄間)によって表情を変えている。住宅のもつ当然の設えがインナーファサードに細かい表情を創り出す。建具の綴じ具合に寄ってリビングの明暗というNuanceは決定的に変化する。小部屋によって受動的に関係性が決まるリビングとなる。
街路としての外部的表情をもつ内口の壁面には荒々しい左官塗装を用い、リビングに光をもたらす筒としての機能を持つ小部屋の壁には艶のあるソリッド塗装を採用している。また水回りとなる壁にはビニルクロスを採用している。ニュアンスカラーという統一されたトーンを逸脱せず、空間にNuanceを与える表皮に微細な表情を持たせることによって、心身の機微に応えることを考えた。
Nuanceが伝搬し合う街路と広場によって生まれる、微細な変容に富む空間の中で、生活者はその瞬間の心身の状態に合う場所を選び取る。用途と部屋を1:1で区画せず、動線を開くことで余白を付与し、時間軸での家族の変化、ライフスタイルの変化に追従する田の字プランを現代版に更新する一端を担うと考えている。
■建築概要
題名:切断の諸相04「One Nuance」
所在地:東京都
主用途:住宅
設計:HAMS and, Studio 伯耆原洋太
施工:Roovice 武井空以
不動産:Around Architecture 佐竹雄太
構造:RC造
延床面積:80㎡
竣工:2023年8月
写真:中村晃