佐藤信 / 青木茂建築工房が設計した、福岡市の住戸改修「ホわイとハうス」です。
設計者の自邸の計画です。建築家は、製品構築された建物への“現代的な豊かさ”の付与を求め、少しづつ異なる様々な“白色”と多様な質感の“素材”を用いて空間を構成しました。また、微細な体験の変化や現象が住み手に与える影響の検証を試みる事も意図されました。
カジミール・マレーヴィチの「白の上の白」は鑑賞者の目や展示される環境によって、外側の白いスクエアと内側の白いスクエアが図地反転して見え、その絶え間ない白と白の図地反転運動の揺らぎの中にスクエアの影、あるいは観念のようなものを現出させると個人的には思う。それゆえに限りある画角のなかに、無限の伸び縮みと奥行きを感じることができるのである。
マンションの一室改修の設計機会を得た。
限られた面積とほんの少しの光や風といった自然現象が条件となる。限りあるスペースでいかにして広々と豊かに過ごすことができるだろうか。画一的で隙間なく製品構築されている分譲マンションにいかに20世紀的な一元化とは異なった現代的な豊かさをもたらすことができるだろうか。
床、壁、天井を少しづつ異なる様々な白色の面とする。
それらの面は時間や光の色・当たりかた、住人の立つ位置などによりモザイクのように様々な白色に変化する。白と白のささやかな変化の連続で住居に視覚的な奥行きを感じさせてくれる。
いくつかの違った素材を使う。
マット、ツヤ、拡散反射、鏡面反射、ざらざら、つるつるなど、それらの素材は様々な触覚体験を生み出してくれる。
いくつかの曲面をつくる。
光・影のグラデーションや曲面に反射する像の伸び縮みによって空間にねじれを生み出すと同時にリビングの曲面天井はピアノの音を適度に拡散反射し、聴覚に訴える空間となる。
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以下、建築家によるテキストです。
カジミール・マレーヴィチの「白の上の白」は鑑賞者の目や展示される環境によって、外側の白いスクエアと内側の白いスクエアが図地反転して見え、その絶え間ない白と白の図地反転運動の揺らぎの中にスクエアの影、あるいは観念のようなものを現出させると個人的には思う。それゆえに限りある画角のなかに、無限の伸び縮みと奥行きを感じることができるのである。
マンションの一室改修の設計機会を得た。
限られた面積とほんの少しの光や風といった自然現象が条件となる。限りあるスペースでいかにして広々と豊かに過ごすことができるだろうか。画一的で隙間なく製品構築されている分譲マンションにいかに20世紀的な一元化とは異なった現代的な豊かさをもたらすことができるだろうか。
そうしたことを思案していると、改修とはまさに現前する実空間と向き合い、反省的視点からそれらを省みて、そこに包み隠されている美しさや豊かさの萌芽を感じとる契機であり、そこに改修設計の面白さがあると気づく。
床、壁、天井を少しづつ異なる様々な白色の面とする。
それらの面は時間や光の色・当たりかた、住人の立つ位置などによりモザイクのように様々な白色に変化する。白と白のささやかな変化の連続で住居に視覚的な奥行きを感じさせてくれる。
いくつかの違った素材を使う。
マット、ツヤ、拡散反射、鏡面反射、ざらざら、つるつるなど、それらの素材は様々な触覚体験を生み出してくれる。
いくつかの曲面をつくる。
光・影のグラデーションや曲面に反射する像の伸び縮みによって空間にねじれを生み出すと同時にリビングの曲面天井はピアノの音を適度に拡散反射し、聴覚に訴える空間となる。
あえて、リビングとは切り離せるようにキッチンには扉を設けた。扉の開け閉めによって、料理の匂いや音がキッチンから溢れ出たり出なかったりする。どのように臭覚や味覚を刺激してくれるだろうか。
これらの小さな建築的操作によって、70㎡程度の空間に多様な身体的・観念的体験をもたらす。
施主家族の忙しい実生活にそれらの些細な空間体験の変化や現象がどれほど影響するかはわからない。しかし、それらのささやかな現象をある瞬間捉え、感じることができるかもしれない。そして、忙しい日々の中に少しの新しい気づきや感覚をもたらし、白のモザイク空間が生み出すマンションの小さな一室に無限の伸び縮みや奥行きを見るかもしれない。
日々繰り返されるささやかな現象を倍増させるモザイク空間。偶発的な現象のブリコラージュに身を浸す。それらの多様で捉えどころのない非一元化の中に現代における自己同一性を獲得できるだろうか。そんな新しい「目」の開眼がこの小さな建築の体験により生み出されることを期待しているし、施主は私と私の家族なのだからそのような夢想もまた許されるのである。
■建築概要
題名:ホわイとハうス
所在地:福岡県福岡市中央区
主用途:個人住宅
設計:佐藤信 / 青木茂建築工房
施工:GRACE
築年数:2001年9月新築(築22年)
延床面積:75.01㎡(テラス:49.30㎡)
設計:2023年2月1日~2023年2月15日
工事:2023年4月1日~2023年5月15日
竣工:2023年5月15日
写真:上田宏、佐藤信