井上亮+吉村明 / Inoue Yoshimura studioが設計した、東京・世田谷区の「交錯線のワンルーム住宅」です。
住宅街の“鉄塔が食い込んだ”変形敷地での計画です。建築家は、状況を活かした建築を求め、“街区”と“送電線”の2つのグリッドを取込む設計を志向しました。そして、必然的に出来る“歪な空間”を援用して多様な質の居場所を住宅内に作り出しました。
都心の低層住宅街、夫婦と子供のための新築計画である。敷地は南側に広めの道路が接道している都心の立地としては良好な条件であったが、敷地北側の角に送電線の鉄塔がななめに振れながら食い込んでいて敷地の形状が変形していた。
夫妻の要望は、主人の在宅勤務が多いこともあり、ワークスペース、個室、広々としたLDKをつくるなどの基本的な要望の他に、鉄塔側に関しては、なるべく閉じる方がよいのではとの相談もあったが、鉄塔側は明るさを確保できる場所と捉えることもできるので、むしろ鉄塔が食い込んでいることも活かすことができる計画となるように進めていく方針となった。
鉄塔が斜めに食い込む他に、本立地には、計画に関わるいくつかの線があった。街区を規定する敷地の線、敷地に食い込む送電線の角度が振れた線、また目には見えないが、法規的に家の高さを決定する斜線制限の線だ。
特に送電線の鉄塔が食い込む斜めの窪みは影響が大きく、プラン的にも無視することは難しかったので、このななめの線もプラングリッドへと取込むことにした。
その歪な形状を活かして、リビングやワークスペース等の各部屋は、壁で仕切らずに、スキップフロア状に緩やかに分節し連ねる計画とした。天井の高さは、70cmから4m強まで、斜めに繋がる場所もあれば、フラットな天井もあり、歪な空間の連続が、日当たりのよい場所や暗い場所、狭い場所や広い場所など多様な場所を作り出し、四角い部屋の連続ではない、起伏あるワンルーム状の空間となった。
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以下、建築家によるテキストです。
変形立地から生まれる、歪なワンルーム空間
都心の低層住宅街、夫婦と子供のための新築計画である。敷地は南側に広めの道路が接道している都心の立地としては良好な条件であったが、敷地北側の角に送電線の鉄塔がななめに振れながら食い込んでいて敷地の形状が変形していた。
南接道の好条件の立地奥に鉄塔が見える
夫妻の要望は、主人の在宅勤務が多いこともあり、ワークスペース、個室、広々としたLDKをつくるなどの基本的な要望の他に、鉄塔側に関しては、なるべく閉じる方がよいのではとの相談もあったが、鉄塔側は明るさを確保できる場所と捉えることもできるので、むしろ鉄塔が食い込んでいることも活かすことができる計画となるように進めていく方針となった。
様々な線を入れ込むプランニング
鉄塔が斜めに食い込む他に、本立地には、計画に関わるいくつかの線があった。街区を規定する敷地の線、敷地に食い込む送電線の角度が振れた線、また目には見えないが、法規的に家の高さを決定する斜線制限の線だ。
特に送電線の鉄塔が食い込む斜めの窪みは影響が大きく、プラン的にも無視することは難しかったので、このななめの線もプラングリッドへと取込むことにした。
敷地に入り込むそれぞれの線は、平面的にも立体的にも斜めに交わっているため、それらを手掛かりに計画したプランを練っていくと、平面も断面も直交する線が殆どない歪な空間ができる。
その歪な形状を活かして、リビングやワークスペース等の各部屋は、壁で仕切らずに、スキップフロア状に緩やかに分節し連ねる計画とした。天井の高さは、70cmから4m強まで、斜めに繋がる場所もあれば、フラットな天井もあり、歪な空間の連続が、日当たりのよい場所や暗い場所、狭い場所や広い場所など多様な場所を作り出し、四角い部屋の連続ではない、起伏あるワンルーム状の空間となった。
異なる線が交錯する空間
住宅やオフィスビル、学校や病院等、私たちは四角く直交する空間に慣れ親しんでいる。一方で、私たちが普段出歩く街の路地や公園や自然では、直交する空間は意外と少なく、殆どが歪で曲がったり、段差があったりくびれたりする空間の連続で、そうした歪さが逆に心地よい場を生み出していることも多い。
本計画では、全く別の視点から規定された線が重なり合うことで生まれる空間が、何気ない街中や自然が持つ心地よい場のような空間をつくることができればと考えて設計した。
構造計画
最上階と2階の床は、棟に設けた大きな登梁から鋼材によってつられる構造とし、宙に浮いたようなヴォリュームとなっている。また、床の厚みを薄くすることで、断面的にも空間の連続性をつくるように意図した。
施工計画
直交する仕口が少ないため3Dに交わる交点を処理できるプレカット技術を利用し、構造材を組むことで特殊な屋根形状を成立させている。
温熱計画
断面的にワンルーム的に繋がる空間であるために、1階に温水式床暖房を設置しその熱が自然に上方へ上がることで上階の空間を温め、小屋裏内部に設置した集熱ファンによって集熱した熱気を、ダクトにより基礎内部に戻しまた1階へと放流することで、上下階の寒暖差を緩和し、空間全体を一定温度に保つようにしている。大きな空間ではあるが、外皮の断熱性を高めることで冬でもエアコンなしで快適に過ごすことができる。
■建築概要
所在地:東京都世田谷区
主用途:住宅 2階建
意匠設計:Inoue Yoshimura studio Inc.
構造設計:株式会社川田知典構造設計
施工:株式会社坂牧工務店
用途地域:第一種低層住居専用地域、準防火地域
構造:在来軸組工法
基礎:べた基礎
敷地面積:100㎡
延べ面積:98㎡
設計期間:2020年8月~2021年2月
施工期間:2021年2月~2021年10月
竣工:2021年10月
写真:渡邊聖爾