SHARE 迫慶一郎/SAKO建築設計工社による”上海ポプラ”
photo©Chen Zhong Hai
迫慶一郎/SAKO建築設計工社が設計した中国上海市の絵本書店”上海ポプラ”です。
photo©Chen Zhong Hai
以下、建築家によるテキストです。
「木 分解/転換」
上海市の人通りの多い並木道に面する絵本書店である。奥行きが浅く細長い平面の1階は書店として、2階はイベントスペースとオフィスとして使われる。
絵本において、木や森は物語の舞台となり、またストーリー展開の鍵を握っていることが多い。それは、木の持つ生命感や月日の流れなどに神秘性が相まって、自ずとそこに物語を発生させるからなのだろう。また建築において、木は古来より様々な形態に加工されることで、材料としてまた道具として建物のあらゆる部分に使用されてきた。「絵本と木」というある種普遍的な組み合わせに、従来とは異なる調理法を持ち込むことで新たな空間そして物語を生み出すことを試みた。
大きな一本の木、それが様々な要素に解体され、それらが空間の中に散りばめられていく。幹・枝・皮・葉。分割・加工されていく抽象化の過程においても決して物質感を失うことのない素材。それらを天井・壁・階段・什器といった空間要素へと再構成していく。それは、一匹の魚を部分に切り分け、料理として再構成していく過程とも似ている。
1階には壁面いっぱいに本棚が立ち並ぶ。様々な樹種の突き板が使用され、幅・奥行き・厚みの異なる棚は、飛び出したり引っ込んだりと立体的に構成されている。中には丸太をくり抜いた棚も入れ込まれ、表情に更なる変化を付ける。床には生い茂る葉がグラフィカルに投影され、木漏れ日の存在を感じさせる。天井には枝付きの丸太が等間隔に並び、通りからはガラス越しに丸太の年輪が顔を覗かせているのが見える。
2階にはざらざらとした木の皮に覆われたドーム状のイベントスペースが待ち構えている。内部は真っ白なかまくらのような空間であり、天井には幾つものゆがんだ円状の孔が開けられる。段差のついた床はステージや観客席として使われ、カラフルな絨毯の上で子供たちは寝転びながら本を読むことができる。イベントスペースを奥へと抜けた先がオフィスである。机にはスライスされた丸太が敷き詰められ、壁へと連鎖していく。トイレは一転し、全面鏡面ステンレス張りの仕上げである。そこでは、照明を仕込んだカラフルな円とともに自分自身も反射され無限に複製されていく。
一見脈絡なく超現実的とも言えるような幻想性を帯びた空間、その中での体験は、あたかも絵本の世界のようである。ここでは子供たちが自由に空間を体感し、想像を膨らませてくれることだろう。
■建物概要
用途:絵本書店
所在地:中国上海市
実施段階:竣工
設計期間:2008.05-07
施工期間:2008.07-08
竣工日時:2008.08
規模:地上2階
延床面積: 105㎡