SHARE 堀尾浩 / 堀尾浩建築設計事務所が設計した住宅「空方の家」
堀尾浩 / 堀尾浩建築設計事務所が設計した住宅「空方の家」です。
以下、建築家によるテキストです。
「空方(そらざま)の家」
空からの光を内部へとみちびく。この「光の場」を手がかりに建築を考えることで、自然を近くに感じる家をつくりたいと考えた。
まちの距離
敷地は、築30年前後のアパートと新興住宅が混在する細い中通りに面している。新旧の建物がある意味無秩序に連なる風景は、どこか懐かしい佇まいが引継がれている。それは多分に、諸所の事情によって残された約5mの中通りによるところが大きい。その通りを挟んで対面する建物の距離感が、どこか昔のスケールに近しいと思えるのだ。斜めの建物配置は、敷地で自生していた樹木を残しながら駐車スペースを確保することと、斜めのボリュームがつくるあいまいな関係から、ここに特有の距離感を際立たせたいとの考えからである。
知覚の距離
周囲を建物に囲まれた敷地条件から、上方からの光を取り入れ外のような「光の場」を内部につくることとした。全体はこの3層分の吹抜けを中心に、リビングや各スペースがそれを囲み配置されている。光の場とその他の場所を仕切るしっくい壁は、光を拡散させるリフレクターであり、大小の開口は奥へ光をいれる内窓でもある。またこの吹抜けは、開閉式のトップライトから重力換気をおこなう風の道としても利用される。冬場は、凍結深度まで掘下げられた基礎コンクリートが蓄熱体となり、暖められた空気が内窓を通って上へと渡ることで、上階は最小限の暖房設備でまかなう計画である。また最上部に溜まった暖気をダクトによって1階に送り、一体的な温度環境を維持する空気循環も試みられている。
家族の距離
ここに住まう、3世代(父母、娘夫婦、孫2人)、6人の家族は、当初より多くを共用しともに暮らすことを選択していた。そうしたある近さを許容しながら、もう一方で自立性が確保される距離感を、例えばA⇔光の場⇔Bというように外的な要素を間にもつことでつくれないかと考えた。光の場を囲む各スペースは、相互の開口形状や大きさ、位置によってその関係が調整されている。さらにそこに外窓が加えられることで、外部⇔A⇔光の場⇔B⇔外部というように、その多様性は人の動きとともに複雑となる。最終的には、6人の家族がバラバラにある場所に居ながら、同時に全員が意識される開口の在り方を検討することで、この家族にとってふさわしい距離感を見つけようとしている。
これら3つの距離は異なる要素でありながら、身体を通して距離を自覚する意味で同質である。きっと、何かとつながる場の強さは、対象との距離からではなく、それを感じる意識によって多様に変化するのだと思う。ここでは、そうした意識と対話する時間をもたらすことができたのではないかと考えている。